LOVE TRAP (6) |
考え始めたら、もうそれしか答えはないような気がしてくる。 そうだ、思い出せば最初のとき、あいつはこう言ったじゃないか。 “別に嫌なら妹でもいいんだけどね。可愛いし、どうせなら女の子の方が色々と楽しいし” あの言葉が俺への脅しだけじゃなく、十夜の本音も表していたとしたら? 最近の態度が、気まぐれか発散のためか分からないけれど手を出した俺にいい加減飽きたか、朝子に対して本気を出すことに決めたのだとしたら? ・・・全て、つじつまがあうんじゃないか。 「お兄ちゃんどうしたの?何か怖い顔・・・」 心配する朝子の声が聞こえないほど、その時の俺の頭は十夜への怒りに侵食されていっていた。 それが何に対する怒りなのか、分からないままに。 朝子が風呂に入るのを待って、ノックもなしに十夜の部屋の扉を開ける。 朝子は長風呂だから、1時間は出てこない。それだけあれば、話すには十分なはずだ。 「・・・珍しいね、晴日の方から俺の部屋にくるなんて。ビックリしたよ」 さして驚いてない様子で静かにこちらを向くのに、思いきり睨みつけてやる。 「そろそろ寂しくなった・・・って顔でもないね。何?」 どこまでも淡々と。その態度にまたイライラが増幅する。 「どういうつもりだ?」 「何が?」 「朝子に手は出さないんじゃなかったのかよ!?」 「出してるつもりはないけど?」 「じゃあお前の最近の態度は何だってんだよ!?」 押し問答に、最後はもう怒鳴っていた。 自分でもどうしようもないほど、苛々して仕方がない。 「別に、ただの妹とのコミュニケーションじゃない?」 「兄は散々無視しといてか?ふざけるな!」 「・・・結局さ、晴日は何に怒ってるの?」 問われて、一瞬考える。 大事な妹を狙われていること。 散々好き勝手に弄ばれたこと。 こいつが何を考えてるのか分からないこと。 ・・・どれにとかじゃなく、とにかく全てが混ざって、腹が立って仕方がないのだ。 気持ちが悪いくらいに、どこからともなく湧き上がってくるイライラ。 それを全てぶつけるかのように睨みつけるが、十夜は少し肩をすくめただけで全く動じた様子はない。 「俺が何に怒ってるのか、自分で考えろっ。山ほど心当たりがあるだろ!?」 怒鳴りつければ、少しだけ考えている素振りを見せる。 「そうだな・・・朝子ちゃんのことか、それとも・・・しばらく構ってあげなかったこと?」 静かに告げられた思ってもいなかったことに、何故か身体がビクリと勝手に反応する。 その小さな反応を見逃さず、十夜はくすりと笑みをこぼす。 そのまま近付いてくる手を何故か拒むことは出来なくて。 「本命ってね、以外と近くにいるもんだよ?晴日も早く気付いたら?」 つぅっと頬をなでられて、それでも金縛りにあったみたいに動くことが出来ない。 「可愛いね晴日。期待した?」 「だ、誰がっ」 「そう?残念」 あと数センチ近付けば唇が触れそうなほどの距離で、十夜が笑う。 「教えてあげるよ、晴日。俺が誰を求めているのか」 そのまま言葉とともに口付けられる。 それは、態度とは逆に今までで一番優しく感じた。 「・・・分かった?」 惜しむようにゆっくりと離れて、目の前でまた十夜が笑う。 今までと違う、見たこともないくらい優しい顔。 瞬間、ドキリとした。 その表情は、すぐに見慣れたものに変わってしまったけれど、ほんの一瞬、俺は確かに見惚れてしまった。 「安心して、朝子ちゃんは別に狙ってないから」 そう言葉を残して部屋を出ていくまで、俺はその場から動くことが出来なかった。 「・・・何、だってんだよ・・・」 残された俺がようやく言葉にできたのは、それだった。 ワケが分からない。十夜は何を求めてる? だって、家族だからっておせっかい焼いた俺をからかっただけなんだろ? 都合よく側にいたから、だから俺に手を出したんだろ? 何なの?本命って、誰が?朝子じゃないの? 混乱する頭で、思い出すのは先ほどの優しいキスと微笑み。 初めて見た、俺の知らない十夜の姿・・・。 その場にへたり込み、両手で顔を覆う。 顔が熱い。見えないけれど、真っ赤になっているに違いない。 「・・・反則だろ、あれは」 耳元で鳴っているかのような自分の鼓動を聞きながら、一人呟く。 だって、今の言動は・・・俺の、勘違いじゃなかったら・・・ 十夜が求めてる、好きな相手は・・・・・・俺? >> NEXT 05.04.10 |