LOVE TRAP (7)





昔から、自分のことになると鈍感だった。
小学生の時好きだった女の子、彼女も実は俺のこと好きだったと知ったのは中学卒業時に人から聞いてだし、 中学の時も後輩から好かれてることに全く気が付かなかった。
おかげで彼女は出来たことはない。
タイミングをことごとく逃し、今じゃ良いお友達関係になっている。
ましてや、今回の相手は男で、しかも血は繋がってないとは言え弟だ。
さらにあいつの人を馬鹿にした態度の数々。
気が付かなかったのも、俺ばかりに非があるわけじゃないはずだ。
それどころか本当にそうなのかすらまだ分からない。
「・・・確かめる、しかないよな」
ここでウダウダしてても仕方がない。
混乱した頭のまま、とにかく話を聞こうと十夜を追うために立ち上がる。

「十夜は?」
「え?ついさっき出ていったよ」
家中見てもどこにも姿がなく、朝子に訊けば玄関を指差されるのに、とにかく走りだす。
「えっ、お兄ちゃんも出かけるの?」
状況が掴めない朝子を置いて、俺はそのまま家を飛び出した。




「十夜っ!」
家を出てやみくもに走り回って。
もしやと思って駅の裏側、どちらかと言えば夜の店が多い場所に向かうと、店に入ろうとする十夜を見つけた。
思わず叫べば、珍しく驚いた顔で振り向く。
「・・・晴日、何でこんなとこに」
「それはこっちのセリフだ!好き勝手言ってさっさと出ていきやがって」
「・・・俺を探してたの?」
「そうだよ。お前には訊きたいこといっぱいあるんだ!」
走り回ってたのと叫んだので息が弾む。
「十夜?何、どうしたの?」
「・・・何でもないですよ。すみません、今日はやっぱり帰ります」
店の中からかかる女の声にそっけなく応えて、そのまま俺の腕をとって歩きだす。
「ちょっ、十夜?」
「黙って」
いつもより強い口調に結局何も言えず、引っ張られるままその場を後にした。

「おい、どこまで行くんだよっ」
「・・・何であんなとこまで来たの?」
「は?や、なんとなく、お前いるんじゃないかと思って・・・」
「そう。・・・じゃあこれからは二度と近付くな」
一方的に言われるのに、ムッとする。
「何でお前に指図されなきゃいけないんだよ。俺の勝手だろっ」
「何でもだ。ここは晴日が来るようなとこじゃない」
「お前がいなきゃ俺だって近付かねーよ!」
カッとなって思わず叫んでから思い出す。
そうだ、そもそも俺は十夜に話があって追ってきたんだった。
予想外の展開にすっかり忘れていた。
「そうだよ。大体何なんだよ、お前」
「何が?」
「お前にとって俺は何?何がしたいのか全然分かんな・・・」
「好きだよ」
・・・。
俺の言葉を遮って聞こえた言葉に、そのまま固まってしまう。
「・・・え?」
「俺は晴日のことが好きだって言ったの」
「だ、だって、そんな様子、全然っ」
「好きじゃなきゃ男なんて抱かない。って、やっぱり気が付いてなかったんだ」
残念そうに言われて、何も言えなくなる。
というか何を言えば良い?
それよりも何で俺、こんなに心臓鳴ってんの!?
「どうせ叶わない想いだと思ったから、なら身体だけでもって焦った。それも間違いだったって気付いて、最近は近付かないようにしてたんだけど」
ゆっくりと話す十夜の声に、一歩一歩近付く距離に、動悸が激しくなる。
「近くにいたら、やっぱり我慢できないね」
部屋で受けたのと同じ、優しいキス。
外だというのも忘れて、俺は目を閉じた。
しばらくして離れて、その時に見えた優しい微笑み。
瞬時に顔が赤くなるのを感じる。
ああ、そうか。俺、この顔に弱いのか、なんて他人事のように思う。
「晴日?」
不思議そうに覗き込んでくる十夜に、とにかく何か言わなければと一人焦る。
「お、俺もっ・・・す、好き・・・なのかも、しれない・・・」
途切れ途切れの、しかも煮え切らない告白。
だけど、目の前では嬉しそうに笑っている十夜の顔が見えた。
「やっぱり、晴日は可愛いね」
抱きしめられて、久しぶりの温もりに少しだけ嬉しくなったりして。
「・・・じゃあ想いが通じ合ったことだし、久しぶりに晴日、感じても良いよね?」
「・・・・・・っ、ば、馬鹿っ!」
耳元で囁かれた言葉の意味を理解して、慌てて十夜から離れる。
選択誤ったかもと、ちょっともう後悔したりするけれど。
あまりに嬉しそうに笑う十夜に、まあいいかなんて思ってしまう自分もいて。

何でこうなったのか分からないし、結局十夜の思惑通りになってしまったような気がして、何かもう悔しくてたまらないけれど。
どうやらまんまと十夜にはまってしまった、俺の完敗・・・みたい、です。







END






05.04.20




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