LOVE TRAP (5)





あれから結局、家に帰るまでもそれからもほとんど会話という会話はなく。
1ヶ月たった今でも、あの時の言葉の意味は分からないままだった。
・・・意味なんて特になかったのかもしれないけど。





「暗いな〜」
「ん?ああ、今日は天気悪いよな」
「天気の話じゃねぇよ。お前の話。最近妙に暗いじゃん。何かあった?」
「そうか?や、特にこれと言ったことはないんだけど・・・」
そう、特に何もないのだ。
だけど、何故か落ち着かない。
「そういや弟くんが迎えに来てからだよな、調子悪いの」
何気なく言われる言葉に、内心ギクリとする。
そう、十夜が迎えに来た日から落ち着かないのだ。
「あの後何かあったのか?弟くんと」
あの時の言葉の意味が分からないことが気持ち悪いということもあるが、正直それはもうどうでもいい。
ただあの日以来、十夜が俺に近付かなくなった。避けてるといっても過言ではないくらいに。
普段も会話は必要最低限、もちろん夜に部屋に連れ込まれることも一切ない。
それはそれで身体的には楽で良いのだけれど。
・・・ただ、あいつの態度が少し気になるのだ。ただ、それだけ。
「・・・いや、特に何も」
「じゃあ朝子ちゃん関係?お前、昔からとことんシスコンだもんな」
「あー、それが一番近いかも・・・」
落ち着かない理由は、それが一番強いかもしれない。
正確に言えば、朝子に対する十夜の様子が気になってたまらないのだ。
俺を避けるようになって、その分朝子との距離が近付いている気がする。
それが何を意味するのか、まだよく分からないけれど、どうもモヤモヤして落ち着かない。
「じゃあ朝子ちゃんについに彼氏でもできたか?」
「・・・そんな様子はまだないよ」
今これでホントにそんなこと言われたら、マジで倒れるかもしれない。
呑気な石田の声に思わず机にすがりつく。
俺って心配症なのかもしれない。
十夜のことにしても、朝子のことにしても。
俺が一人で悩む問題ではないはずだ。なのに気になるのだから、どうしようもない。
「あー・・・平穏に暮らしたい」
ポツリと呟けば、まあ頑張れと軽く頭をこづかれた。





「あ、お兄ちゃんおかえりー」
玄関に入るなり、リビングからひょっこり顔を出した朝子が声をかけてくる。
「ただいま。・・・十夜は?」
「さっきまで一緒にいたんだけど、部屋に戻っちゃった」
最近は朝子の側にはいつも十夜がいたから、つい確認してしまう。
今いないと言うことより、さっきまで一緒だったと言うことが気になってしまう。
あんにゃろう、また俺がいない隙に・・・
「あ、そうだ。お兄ちゃんは知ってる?」
「ん?何を?」
「十夜お兄ちゃんの好きな人。さっきその話題で盛り上がってたんだ」
「いや、知らないけど・・・って、お前はいるのか?」
「ううん。それよりお兄ちゃんも知らないのか。身近な人って言ってたんだけど」
誰なんだろうと呟きながらリビングに戻る朝子の後を追いながら、とりあえず朝子にはいないと言うことにホッと息をつく。
さっき石田に言われたばかりで、もしやと本気で心配してしまった。
それにしても、あの十夜に好きな人ねぇ。
何だか想像がつかなくて、どうも変な感じがする。うまく言えないけれど、何か得体の知れない靄がかかっているような。
・・・最近、俺に手を出さなくなったのもそのせいか?
ふと思い浮かんだ考えに、妙に納得する。
今までいいように扱ってきたくせにと腹は立つが、それならば最近の十夜の態度も頷ける。
そして、それ以上にそんな十夜が好きになった相手というのが気になる。
朝子には身近な人って言ったんだよな。ということは相手は俺たちも知ってる人か?
とはいえ、十夜の交流関係なんて全く知らないし、ここ最近あいつの側にいた女なんて俺の知ってる限り・・・

朝子しか、いないんじゃないか・・・?

行き着いた答えに、心臓がドクンと脈打つのを、感じた。







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05.04.05




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