LOVE TRAP (4)





「晴日」
校門を出たところで聞こえてきた声に、そちらを向けば十夜の姿。
驚く俺に対して、笑顔で手なんか振っている。
「誰?」
「あー・・・義弟」
この場にいるはずのない存在に驚いていると、横から石田が小声で訊いてくる。
「始めまして、十夜です。兄がいつもお世話になってます」
「あ、ども。石田です」
にっこりと笑いかけて普通に挨拶しているのに、どこか怖い。
いつもの愛想笑い・・・なのに、目が笑ってない気がするのは気のせいか?
「って、お前学校こっちじゃないだろ。どうしたんだよ?」
「晴日、今日ダルそうだったから。迎えにきた」
「迎えにって・・・」
そもそもダルさの原因はお前だろう。
口には出せない分、頭の中で思いっきりぼやく。
だけど、わざわざ迎えにきたってことは少しは心配してくれたってことか?
何だ、結構優しいとこもあるじゃないか。
「それに、一度晴日の学校も見てみたかったしね」
・・・前言撤回。それが本音か。
勝手に裏切られた気になって十夜を見れば、言葉通りにぐるりと校舎を見回している。
最後に一瞬だけ石田の方を見て、それから俺に笑いかけた。
「あ、あー・・・じゃあ、帰るか。ありがとな石田、こいつ来てくれたからここまでで大丈夫」
別に睨んだわけでもないのだが、十夜の石田を見る目が怖かった気がする。
何かしでかすんじゃないかと一人で慌てて、とにかく十夜を遠ざけなければと挨拶もそこそこに十夜を連れて歩きだす。
「気をつけて帰れよー」
後ろから追ってきた声に、振り向かないまま片手をあげて応えた。



「石田、だっけ?さっきの人」
「あ?ああ、そうだけど?」
駅に向かって歩き始めてしばらくしてから、今まで無言で歩いていた十夜がポツリと口を開く。
「随分仲良さそうだったね?」
「あー、まあな。中学校から一緒だし今も同じクラスだし。あれだな、いわゆる親友ってやつ」
「ふーん・・・」
自分から訊いたくせに気のない返事。
やっぱりアレかな、こいつこんな性格だし、親友とかいないのかな。
そういや十夜の交流関係とか全然知らないよなとか、ふと思う。
元々自分のことは全然話さない奴だけど、兄弟なんだし、それくらい知っててもいい気がする。
というか、正直興味がある。十夜の交流関係。
考えたら気になりだして、これはもう訊くしかないと勝手に思う。
「お前は?」
「別に」
あまりにそっけない返事に、訊いちゃいけなかったかななんて思ったりする。
そうだよな、もしいないんだったら酷いこと訊いたことになるもんな。
「えーと、ごめん。何か悪いこと言っ・・・」
「俺とどっちが好き?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・は?
「・・・何言ってんの?お前」
「晴日は俺とさっきの奴と、どっちの方が好きなの?」
繰り返し問われる言葉に、とりあえず聞き間違いでないとは分かった。
だが問われた意味が分からない。
石田と十夜?
親友と俺を好き勝手に組み敷く義弟と、どっちが好きって?
・・・そんなの、親友に決まってるじゃないか。
「何だよ、急に。そんなん比べられるもんじゃ・・・」
「どっち?」
正直に答えたら後が怖いかなとか思って、うまくはぐらかそうかとも思ったがそれも無理らしい。
ちらりと横を見れば、相変わらず何を考えてるのか分からない表情。
「・・・どっちが好きとか、差つける気はないけど。・・・やっぱり石田は大切な親友だよ」
「ふーん・・・」
・・・沈黙が怖い。
それなりに言葉を選んだつもりだけど、やっぱり微妙に伝わってしまったのだろうか。
って、何で俺がこんなに気にしなきゃいけないんだ?
「大体何だってんだよ。いきなり変なこと訊いてきて」
「気になったから」
「気になった、って・・・何で?」
「それ以上は自分で考えな。まあ、すぐ分かると思うけど?」
言うだけ言って、後は先に歩いていってしまう。
「・・・何だってんだよ?」

十夜の言葉の意味が分からないまま、俺は黙って十夜の後を追うことしか出来なかった。







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05.04.01




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