LOVE TRAP (3) |
悪い予感と言うものほど当たるもので、部屋に踏むこんですぐに押し倒されて、結局好きなように弄ばれた。 ああ、やっぱり本能には従うものだなんて、勝手に出てくる涙と一緒にどこか遠くで考えた。 途中、十夜が何か言っていた気もするけど、そんなもの覚えていなくって。 ただ最後の言葉だけが耳に残っている。 「これからもよろしく、お兄ちゃん」 いっそ残酷なまでの無邪気な笑顔に、逃れることは出来ないのだと、悟った。 「で、ここにさっきの公式を入れて」 「あっ、そうか、分かった。ありがとう、十夜お兄ちゃん」 「どういたしまして。数学なら晴日より得意だからね」 「うん、お兄ちゃんは文系だよね。って、私もだけど」 夕飯の準備をしながら、意識はリビングで十夜に宿題を見てもらっている朝子から・・・否、十夜から離せない。 あれからも十夜は家族の前では、素直ないい子を演じている。 気まぐれに仕掛けてきては俺を抱くこと以外、確かにいい弟なのだろう。 だが、その一部が大問題なわけで。俺には「いい子」だなんて死んでも思えない。 少しでも抵抗すれば、決まって「別に晴日じゃなくてもいいんだよ?」という言葉。 俺でなくていいなら他を当たってくれと心から思うけど、その他というのが可愛い妹なら話は別だ。 だから結局何も言えなくなって、いつも流される。 そんな状況で、出来ることなら必要以上に顔をあわしたくないが、朝子と二人きりになんて出来るわけがない。 ってか、俺だって中2の数学くらい分かるのに。 少しふてくされながらリビングに目をやれば、十夜と目があい小さく笑われる。 その笑みが憎たらしくて、とりあえず睨みつけておくがあまり効果はなかったようだ。 にこりと笑みを向けられて、それでおしまい。 その後は何事もなかったかのように、兄弟3人の夕食を済ませた。 「晴日はホント素直じゃないよね」 夕食後、さっきのお返しとばかりに部屋に連れこまれ、また仕掛けられて。 楽しそうに笑う十夜に見下ろされて、体中を這う感触にただ耐える。 「朝子ちゃんがお風呂から出てくるまでに終わらせないとだからね。ちょっと慌しいけど・・・それじゃ物足りない?」 歌うように囁かれた言葉に、否定しようとしてもそれは十夜の手によって遮られる。 「好きだもんね、晴日は。こうするの・・・」 「んぁっ・・・ぁ、朝子のことが、なければっ・・・誰が、こんなことっ」 「そんなこと言って、晴日だって気持いいでしょ?」 その問いを、はっきりと否定できたのはいつまでだったか。 それほどまでに身体は慣らされていて。 それが悔しいのに、結局何も言えないまま与えられる熱にただ溺れるしか出来なかった。 「最近調子悪いのな」 「あー、誰が?」 「お前だよ。何、やっぱ母親の再婚はキツイ?父親が実はやな奴だったとかさ」 「や、父親はいい人なんだけど・・・」 問題は、父親でなく弟だ。 昨日も結局、両親が遅いのをいいことに夜にも散々攻められた。 結果、今日は一日中ダルくて、放課後になった今も机にもたれかかってる始末。 少しはこっちのことも考えやがれと思うが、同時にそれを望むこと自体無理な話だと思う。 そんな心があれば、義理とは言え兄を組敷くわけがない。 何にしろ人に話せるようなことじゃなく、心配そうに覗きこんでくる親友には悪いが小さく笑って誤魔化す。 「まあ何ともないならいいけどよ。あんま無理すんなよ」 「ご心配どうも」 力なく言えば、石田は肩をすくめる。 「んじゃ、帰るか。途中まで送ってってやるよ」 「は?いいよ別に」 「フラフラな友達放って帰れるほど石田さんは冷たくないの。今日は部活もないしな。遠慮すんな」 有無を言わせぬ態度だが、ただ気遣いだけが伝わってくる。 最近、非日常な生活が続いてるからか、今までと変わらない友人の存在が嬉しかった。 「・・・じゃあ、お言葉に甘えましょうかね」 珍しく素直に言えば、石田は満足げに笑って、俺にカバンを投げて寄越した。 >> NEXT 05.03.28 |