LOVE TRAP (2)





「あ、晴日さん。おはようございます」
まだ慣れない家のリビングに入って、まず爽やかな笑顔の挨拶を受ける。
一瞬戸惑って、そういえば家族が増えたんだということを思い出す。
「あー・・・おはよう」
「どうしました?」
「いや、何か敬語使われるの慣れてなくて。普通でいいよ、兄弟なんだし」
妹にだって当然敬語を使われてない。
それに、どうも敬語は距離を感じてしまって、なんだか落ち着かない。
「あ、そうか。ごめんなさい。俺の方が弟だしって思って」
「っても、1つ差だろ?16歳ってことは今、高1?」
「いえ、高2。2月生まれなので、まだ16歳なんですよ」
「高2?じゃあ俺と同じじゃん。じゃあ余計にタメ口でいいよ」
「うん、分かった。・・・晴日」
「・・・おう」
最後に呼ばれた名前に、今までとは少し違った雰囲気を感じたが、いつもと同じ十夜の笑顔にそのまま流すことにした。




関係が崩れ始めたのは、家族になってから一月たったほどだろうか。
「でも本当、兄弟仲良くやってくれて嬉しいわ。ねぇ、あなた」
「そうだね。突然のことだったし、実は少し心配だったんだよ」
「やだなぁ、父さん。俺は兄さんと妹が一気にできたんだよ?嬉しいに決まってるじゃないか」
「私もお父さんできて嬉しいよ。十夜お兄ちゃんも優しいし」
「こんな可愛い妹ができたら、優しくもしたくなるって」
「あら、十夜くんも言うわね」
夕食時の、笑いに包まれている会話。
俺も笑顔で話を聴いてはいるけれど、いつも少し違和感を感じている。
確かにうまくやっている。兄弟としても家族としても。
だけど、どうしても気になるのだ。この笑顔を絶やさない半年違いの弟が。


「どうしたの、晴日」
夕食の片付けも終わって、二人揃って二階の部屋に向かう。
自分の部屋に入る前に、唐突に訊かれる。
「・・・ううん、別に。何でもない」
「夕食の時から何か変だったよ。調子悪い?」
本気で心配そうな表情。優しい弟。でも・・・
「・・・疲れないか?」
「え?」
「いや、何か無理してる気がして。何て言うか、本当の自分を隠しているみたいな。義父さんにも、俺たちにも」
少し躊躇ってから、ずっと気になっていたことを口に出してみると、目の前の表情が一瞬驚いて、そして小さく笑った。
今までの人当たりの良い笑みじゃなくて、少し皮肉げな笑み。
「凄いね、晴日。驚いた。そんなこと言われたの、初めてだから」
「じゃあ・・・」
「うん、9割正解」
それだけ言って、もう話は終わりとばかりに自分の部屋の扉を開ける十夜に、思わず叫んでしまう。
「何でっ、家族だろ!?何で隠す必要があるんだよっ」
「・・・」
「急に全てさらけ出せとは言わない。でも、家族なら・・・っ」
何がなんだか分からないまま、とにかく感情のまま発した言葉は、最後まで言い終えることができなかった。
バンっという音とともに、急に目の前が暗くなって。
壁に押し付けられ、十夜にキスされたのだと気が付いたのは、ゆっくりと十夜が離れてからだった。
何が起きたのか、思考回路が停止していてうまく考えられない。
「家族なら、何?俺を癒してくれんの?」
「なっ・・・」
「そうだな、じゃあ全て曝け出せるように、俺を愛してよ。ねぇ、お兄ちゃん?」
「お前、何、言って・・・」
「ああ、別に嫌なら妹でもいいんだけどね。可愛いし、どうせなら女の子の方が色々と楽しいし?」
にこりと笑みを向けられるのに、ぞっとする。
何が起こっているのか分からない。ただ、本能で怖いと、そう思った。
「あ、朝子に、何かする気か?」
「さあ、それは晴日次第かな?とりあえず部屋においでよ。ここじゃいつ聞かれるか分からないし。 まあ、可哀想な弟を助けてくれる気があるならだけど」
十夜の部屋の扉は開かれたまま、どうする?と決断を俺に迫る。
入ってはいけないと俺の本能が訴えているけれど、それ以上に十夜の言葉が引っかかっている。
朝子に何かするかは、俺次第?
何が助けてくれる気があるならだ。立派な脅しじゃねぇかっ。
そう思ったところで、結局俺は招かれるがままに部屋に入るしか出来なかった。

そして、この時から俺と十夜の関係が、変わることになった・・・







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05.03.23




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