LOVE TRAP (1)





「晴日」
「んっ・・・」
今日もまた、言われるがままに唇を重ねて。
段々と深くなるキスに、ボーっとする頭で思う。
何故、こんなことになったのだろうと。







俺の運命が変わったのは、今から3ヶ月前。
仕事で忙しい母さんが珍しく早く帰ってきて、久しぶりに家族3人で夕飯を食べていた時。
あの時の会話から、全てはもう始まっていたんじゃないかと思う。
「えっ、結婚!?」
「そう。この前プロポーズされたんだけど、晴日と朝子はどう思う?」
「どう思うって・・・母さんがしたいなら、それでいいんじゃない?なあ、朝子」
「うん。私もお父さんできたら嬉しいもん」
「そう言ってくれると嬉しいわ。実はどうしようか迷ってたのよ」
嬉しそうに笑う母さんを見て、俺もなんだか嬉しくなる。
妹の朝子を産んで1年もたたないうちに父親が交通事故で死んで、それから母さんは一人で俺と妹を育ててきた。
相当な苦労があったのだろうけど、そんな姿は微塵とも見せずに頑張ってきてくれた母さん。
一緒になりたいという人がいるならば、それに反対する理由は何もない。
それに、母さんが選んだ人なら、きっといい人に違いないから。
「それで、相手はどういう人なの?」
「同じ会社の人。彼も奥さんと死に別れて、今はお子さんと二人で暮らしてるのよ」
「じゃあ、新しく兄弟ができるの?」
「そうなるわね」
「男の人?女の人?私、お姉ちゃんほしいな」
嬉しそうに話す朝子に、俺だけじゃ不満だったのか?なんてつい考えてしまう。
シスコン一歩手前なんじゃないかと自分でも思うほど、俺は妹に甘いのは自覚してる。
たった一人の妹だ。父さんがいない家で、3つ離れた妹の父親代わりになるのは仕方のないことだろう。
これで彼氏ができたとか言ったら、泣くな俺・・・。
「えーと、どっちだったかしら?今は16才だったはずだけど。でも、いつも可愛い子だって話を聞くから女の子かしらね」
「じゃあお姉ちゃんだ!やったね」
実の母親のことだが、いつものこととはいえ相変わらずアバウトだ。
相手の子どもの性別くらい、聞いておいて欲しい。
いや別に男でも女でもどっちでもいいんだけど・・・心の準備とかあるしな。うん。
「今度一緒にお食事する約束だから、その時分かるわよ」
結局最後までアバウトなままで、その日は新たな家族と生活について語り、楽しい夕食を終えたのだった。


「初めまして、桐原十夜です。これから父共々、よろしくお願いします」
そう挨拶した相手の子どもは、娘ではなく息子ではあったけれど、礼儀正しい少年だった。
常に笑顔で、話もうまくて、素直な感じで・・・これなら「可愛い子」だと父親が言うのも無理はないかと妙に納得したものだ。
新たに父親になる人も、さすが母さんが惚れた人だけあって、やっぱりいい人だなんて思って。
この人たちとなら、うまくやっていけると思った。
そして母親が結婚。新たな家族として一緒に暮らすようになり、実際にいい関係を築いていけた。
朝子も懐いてて、それが少し悔しいかなぁなんて思ってたくらいだったのに。

それなのに・・・






「もうっ、やめ・・・っ」
「まだキスしかしてないよ?それとも、今日もお預け?」
そう目の前で笑われるのに、ただ睨みつけるしかできない。
「そんな潤んだ目で睨まれても、可愛いだけだよ」
そしてまた深く口付けられて。

何でこんな目にあってるんだろうと思う。
ずっと苦労してた母さんが、やっと幸せになって。
義父さんも、とてもいい人で俺たち兄妹のことも大切にしてくれて。
朝子も、新しい家族に喜んでる。
俺だって、母さんの再婚には賛成で。そう、俺たち家族は幸せになるはずだった。

「・・・ホント、妹思いだよね。お兄ちゃん?」

キスの合間に囁かれる言葉に、ビクリと反応して。
そして何も言えなくなった俺を、十夜は少し上から楽しそうに見下ろして、笑った。







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05.03.19




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