現実的に考えてみる?(3) |
時々、分からなくなる。 あんまり考えたくないというのも、あるのかもしれないけれど。 どこにいたのかは知らないが、まだ料理が冷めないうちに塚原は姿を現した。 全力疾走してきたのか、息は荒く、肩が大きく上下している。 それでも、その顔にはいつも通りの笑顔。 にこにこ、にこにこ。 バカ面なんだけど、こいつの笑顔を見てると落ち着いたりする。 上村には言わなかったが、最近の塚原が俺を避けているような気もしていたのだ。 だが、誘いにはこうして駆け付けてくる。 それだけでちょっと安心したりして・・・って、何で? 「遅くなりましたー。ってあれ?津山さん一人ですか?」 「さっきまでいたんだけど、呼び出しくらって帰った」 「あ、じゃあ津山さんと二人ですね。やった!」 小さくガッツポーズ。 相変わらず感情表現がストレートだ。 「―――・・・調子のって変なこと叫んだりすんなよ?」 「はい、人前では我慢します!」 「あーそうじゃなくて・・・や、お前からしたら大層な進歩だよな。まあ良いや、とりあえず食え」 「はい、いただきます」 まだ夕飯をとっていなかったのか、なかなか見事な食べっぷりだ。 いつも思うことだが、こいつの食べっぷりは見ていて気味が良いくらいのものだ。 それから、しばらくは飲んで食べて、ちょっとだけ仕事の愚痴とかこぼしてみてと、いつもの飲みと変わらない。 気を遣わないで良いからか、落ち着くというかのんびりできるのが、塚原との二人飲みの最大の利点だと思う。 飲ませすぎると後が面倒だから、その辺の調整は先輩である俺がちゃんとしてやらなきゃだが。 「好きです」 ふいに聞こえてきた声に前を向けば、いつもより少しだけ真剣な目にぶつかった。 酒も大分進んでいるから、顔はほんのり赤くなっている。 けれど、理性を失っているようには到底見えない。 「・・・・・・んだよ、いきなり」 「いや、何か言いたくなって」 そう笑う顔は、いつもの見慣れたしまりのない笑顔。 だから結局口から出た言葉も、いつも通り。 「人前でそういうこと言うなって、俺は言ったよな?」 一瞬の動揺を悟られたくなくて、とりあえず一睨みきかすてみる。 単純な塚原は、ただそれだけで見るからに慌てはじめた。 「あっ、そうだった。すみませんすみませんっ」 へこへこ謝る塚原に、肩をすくめて見せてから何事もなかったように酒を飲む。 人前でとは言っても、今の店内はかなり騒がしくて誰も他人のことなんて気にしていないし、店員もかなり離れたところにいるから誰かに聞かれた心配はないだろう。 それに大体こいつはいつも突然だから、不意打ちに告げられるのにも大分慣れてきた。 だから今さら気にならない。 ただ一つ、いまだに慣れないことを除いては。 「でも、本気でそう思ったんですよ」 ―――・・・そう、これだ。 たまに見せる、俺の知らない塚原の顔。 なんだよ。そんな目で、そんな顔で見てくるんじゃねぇよ。 何度も言いたくなって、飲み込んできた言葉。 「・・・そっか」 「はい!」 結局言えたのは、素っ気ない言葉だけ。 なのに、やっぱり嬉しそうに笑うこいつ。 時々、本当に分からなくなる。 塚原の顔を見ると、たまにツキンと胸が痛むのは、何でなんだろう? 結局、飲み屋だけでは足らず、コンビニで買ったビールとつまみを片手に塚原の部屋へと流れた。 相変わらずこいつは幸せそうに笑っている。 何がそんなに楽しいのかと訊いてみれば、間を置かず当然のことのように答えが返ってくる。 「津山さんがいるからです」 ―――・・・うん、まあ良いんだけど。 塚原とのやり取りにも大分慣れてきたし、人に好かれて悪い気はしない。 まあ若干歪んでる気はするが、害がなければ構わないだろう。 「しっかしお前も飽きずに良く言うよな」 「だって津山さん、言わなきゃ伝わらなさそうじゃないですか。それに俺は本心しか言ってないですし」 「あー、それはどーも」 ったく、お前の世界は俺中心で動いてんのか? そう訊こうとして、寸前でやめる。 決して、決して自惚れてるわけじゃないけれど、こいつは当然のように「はい!」と答えそうな気がするからだ。 そんなこと言われた日にゃあ、それこそホントにどんな態度をとれば良いのか分からなくなる。 「津山さん、聞いてます?」 「あ?なんだよ」 「俺、津山さんのこと、すっごく好きです」 ちょっと、驚いた。 だって、そのセリフも今の顔も、寝惚けたこいつが初めて俺に・・・その、何て言うか・・・告ったときと全く同じだったから。 忘れてたはずなのに、何でまたここで思い出すんだか。 「・・・んだよ、いきなり」 「いえ、ちゃんと伝えたかったので。それだけは忘れないで下さいね」 あとは、いつもの塚原の顔。 こいつといると、落ち着く。それは本当なんだけど・・・なんだろう、最近ちょっと、モヤモヤする。 「あー、何かむしゃくしゃする。塚原、ちょっと一発殴らせろ」 「ええっ!?ちょっ、勘弁してくださいよ、津山さん!」 無論本気で殴るつもりなんてなかったが、ここまで見事に慌てられるとどうかと思う。 別に俺は普段から殴り飛ばしたりなんかしてないだろうに。 ちょっとふて腐れた俺に、塚原がまた必死で謝って。 ・・・・・・いつも通り、だよな? 何となく、心の中で確認。 結局、空き缶の数が2桁に達した頃、やっぱり塚原が先に眠りについた。 相変わらずのバカ面。眼鏡くらい、外して寝ろっての。 >> NEXT 07.12.24 |