BE THERE (8) |
省吾は終礼が終わると同時に、担任よりも先に教室を出た。 その珍しい行動に驚きを隠さないクラスメートたちに構うことなく、向かうのは真希の教室。 真希とは2日前に渡り廊下で話して以来、まともに顔をあわせてすらいない。 いつものように朝迎えに行ったときには珍しくももう学校に行ったと言われたし、学校でも避けられているのか会うことはできなかった。 今日こそはと休み時間を狙って話をしたかったのだが、こういう日に限って教師に呼び止められたり移動だったりで見事に潰された。 だから真希を捕まえるにはもう今しかない。 そう思ってかなり急いできたのにもかかわらず、覗いた教室の中には探す姿は見えない。 思わず舌打ちをしてから真希の友人の姿を捕えた省吾は、迷わず話しかける。 「おい、真希はどこだ!?」 「は?・・・って三上じゃん。珍しいな」 教室に来るのが珍しいのか、それとも真希を探していることか。 そのどちらの意味も含まれてるのかもしれないが、今は考えてる時間も悠長な挨拶を交してる時間もない。 どこまでも呑気な宮田の態度に苛つきながら、省吾は同じ質問をぶつける。 「真希はどこに行った?」 「あー、真希なら生徒会室じゃないか?散々行くの渋ってたけど・・・」 宮田の言葉が終らないうちに、省吾は踵を返して生徒会室へと向かう。 「・・・せっかちなヤツ」 残された宮田は、苦笑いを浮かべてもはや見えなくなった省吾の背中に呟く。 「にしても、“真希”ね。ちゃんと思われてんじゃん」 あの二人が幼馴染みだと言うことは真希から聞いていたが、最近はよそよそしくなったからその話は広めないでくれと言っていたのも真希だ。 確かにほとんど話をしてるのも見たことはないし、話すときも省吾は真希のことを「水島」と呼んでいたが。 「・・・ま、全てが終わったら話を聞きますか」 誰にともなく呟いて、宮田はここしばらく元気がなかった友人が元に戻るのを祈ったのだった。 一方、省吾は迷うことなく生徒会室へと足を進め、入り口の前に立つ男の姿を目にして舌打ちをする。 「三上なら来ると思ったよ」 まるで門番のように入り口を塞ぎながら、透はにっこりと校内では天使の微笑みだのなんだの言われている笑みを浮かべて言う。 「真希は中か?」 「さあ?僕には分からないよ。ただ玲二に邪魔が入らないように見てろって言われただけだから」 嘘だ。 それはにっこりと笑ったその表情から容易に読み取れる。 「そこをどけ」 省吾は苛立ちを隠すことなく言うが、透に怯む様子はない。 それどころか、より面白そうに笑みを深めるばかり。 「この中にあの子がいると決まったわけじゃないでしょ?」 「いないならそれで良い。通せ」 「せっかちだなぁ。さっきも言ったように僕は玲二に頼まれてるわけだから簡単にはどけないんだけど・・・そうだな、じゃあ交換条件を飲んでくれるなら、考えようかな?」 最初からそれが狙いだったくせに。 こめかみがピクリと動くのを感じながら、省吾は無言のまま続きを促す。 それに透は満足げに頷いて口を開く。 「簡単なことだよ。例の話を引き受けてくれれば良い」 「・・・・・・まだ諦めてないのか」 出される条件は予想通りで、驚くよりも呆れてしまう。 もう何度も断り続けた話だ。それをどうしてこんなにもこだわるのか省吾には理解できない。 「だって三上以上の男は僕が知ってる中ではいないからね。で、どうする?」 心の内を読んだのか、省吾にとって迷惑でしかない理由を述べ、選択を迫る。 断りたい気持ちは山々だが・・・今の省吾に選択肢はない。 「・・・・・・分かった。ただし、こっちにも条件がある」 「そんなこと言える立場?・・・まあ良いや。なに?」 「あくまでも俺は臨時だ。用があるとき以外は関わりはない」 「何でそんなに嫌がるのか分からないけど。でもまあ今までで一番マシな返事かな」 「分かったなら通せ」 ここで時間を稼がれたら、条件をのんだ意味が全くない。 気持ちは逸るのに、透はその場をどくことなく人指し指を目の前に出す。 「あとひとつだけ。三上は真希くんにちゃんと自分の気持ち伝えてる?」 「・・・・・・」 「生徒会長相手に踏み込もうとするくらい心配してるくせに、それを態度に出してないでしょ?そんなんじゃあの子が不安になるのも無理はないよ」 余計なお世話だと思うのに、何故かその言葉は声にならなかった。 感情を表に出すのも、言葉にするのも省吾の苦手とするところだ。 だけど真希には何も言わなくてもいつも通じていた。 だから今だって分かってるはず・・・そう思う気持ちの一方で、透の言わんとするところもあるような気もしてしまう。 確かに最近の真希の様子は少しおかしかったし、何より省吾自身が真希が何を考えてるのか分からなくなることもあるのだ。 だけど、それを透に指摘されて素直に認められるものでもなく。 「・・・・・・話が終わったんなら、そこをどけ」 「はいはい。玲二、入るよー」 肩を軽くすくめてから、ノックもなしに扉を開ける。 「あ・・・・・・」 その瞬間、飛込んできた光景に透の笑みが固まる。 慌てて後ろから続くであろう省吾を止めようと振り向くが、時すでに遅し。 省吾も目の前の光景に、動きを止めていた。 扉を開けてすぐの、ちょうど部屋の真ん中あたりには、確かに捜し求めていた真希の姿があった。 そして、そのすぐ前には生徒会長である玲二が、重なるように立っている。 二人の顔までは見えないが、それはキスしているようにしか見えなくて・・・・・・ 「・・・・・・え・・・省吾!?」 物音に気付いたのか、慌てた様子で真希が振り返る。 呼ばれた声に、その表情に。 省吾は、どこかで何かがプチっと切れる音を聞いた。 >> NEXT 06.04.29 |