BE THERE  (7)





「どう?あの子の様子」
「期待以上だね。警戒してるわりには隙だらけだし、反応も今までにない感じで可愛いし新鮮だ」
「何?本気になった?」
「さあ、それはどうかな?それより、お前の方は手強そうだな」
「まあね。でも、必ず手に入れるよ。あいつは僕にとって必要なんだ」
「そいつは妬けるな」
「ふふ・・・・・・さて、そろそろかな?」
「ああ、うまくやれよ?」
「お互いにね」






「・・・・・・どうしよ」
今日何度目になるか分からない溜め息と呟き。
約束の日当日。どんなに望まなくても、夜は朝になり、あと数十分後にはその時は来る。
「どうしようも何も、断るんじゃねぇの?」
「や、それはそうなんだけどさー・・・・・・」
呆れたように宮田に突っ込まれるのも、今日何度目になるか。
生徒会の件については、当然断ろうと思っている。
押しには弱いと自覚している自分だけれど、どう考えたって生徒会役員なんて向いていないのだから、何が何でも断る気でいる。
だから問題はそれではなく・・・・・・生徒会長の方。
『じゃあ、それまでにハッキリしなかったら、俺と付き合って?』
1週間前、会長はそう言っていた。
省吾との関係が幼馴染のままだったとして、会長と付き合う義理はない。
頭では分かってはいるのだけど・・・うまく断れる自信がない。
そもそも、会長は俺のどこが良いって言うんだろうか。
「あー・・・マジでどうしよー・・・・・・」
「どうもこうもないだろうに。ほら、先生きたぞ。HR終わったら生徒会室行くんだろ?」
「行きたくない・・・」
呟いた本音に苦笑され、入ってきた担任にあわせて宮田も自分の席に戻っていく。
それは仕方ないことなのに、薄情なヤツ、と八つ当たり気味に思いながら担任の話を聞き流す。
いつもはクドクドと長話をするくせに、こういう日に限ってものの5分ほどでHRは終わってしまった。
「タイムリミット・・・」
日直の礼の音頭を聞きながら、思わず真希は呟いた。



「やあ待ってたよ、真希くん」
どうせ逃げ切れないならさっさと終わらしてしまおうと、覚悟を決めて生徒会室へと足を進めれば、すでに来ていた会長がにこやかな笑顔つきで出迎えてくれる。
「こんにちは。あの、今日は俺・・・」
「うん、あの返事をもらえる、と思って良いんだよね?」
「あ、はい」
言い淀んだ言葉を取られ、真希は俯いていた顔を上げて、玲二に向かい合う。
職員室で先生と話すときよりの倍以上も感じる緊張感に、真希は唾を飲み込んでから口を開く。
「その、やっぱり俺には無理なので、あのお話はお断りします!」
「そう・・・それは残念だね。真希くんならやっていけると思ってたのに」
少しだけ肩を竦めながらも、その表情は穏やかなままで。
分かってくれたのかとホッと肩を撫で下ろそうとした次の瞬間、玲二の一言で真希はまた固まってしまう。
「で、三上くんと話はついた?」
「・・・え?」
「僕にとってはね、生徒会云々よりも真希くんが僕をどう思っているかの方が重要なんだ」
「あの、だから・・・」
「三上省吾と正式に付き合うっていうなら、僕は諦めなきゃいけないけどね。そうじゃないなら僕と付き合って、とそう言ったよね?そして、それに君も頷いた」
その話もさっき断ったはず。
喉元までで出かかった言葉は、声になる前に消えた。
良く考えれば、生徒会の話を持ってきた、副会長である透の姿はこの場面で見えない。
生徒会の話と一緒にしてさらりと逃げられないかと考えていた真希は、自分の考えが甘かったことを、この瞬間に悟った。
「・・・・・・でも、やっぱり俺は会長とは付き合えません」
声が少し震えたけれど、きっぱりと言い切る。
それでも、玲二の表情は穏やかなままで、それが真希には怖かった。
「何で?僕のことは嫌い?」
「そうじゃなくて・・・やっぱり、俺は省吾のことが好きで、たとえ省吾が俺のことを幼馴染としか思ってなくても、それでも側にいたいんです。幼馴染としてなら、ずっと一緒にいられるし・・・」
何で俺はこんなことまで話しているんだろうと、頭のどこかでは考えているのに、口は止まらない。
会長に分かってもらいたいからか、それとも誰かに聞いてもらいたいだけなのか。
自分でも分からないけれど、確かに分かっているのは・・・省吾のことが好きだということ。
「なるほどね。君の言い分も分かったけど、でも幼馴染だからといってずっと一緒にいられるわけでもないよね」
幼馴染みだからと言って、ずっと一緒にいられるわけじゃない。
その言葉は、思いのほかズシリときた。
『いつまでも省吾くんに甘えてないで、あんたもしっかりしなさい』
そう母さんに言われることも度々で、それでも一緒にいたくて、隣を自分の場所にしたくて、とことん甘えてた。
省吾との間に距離を感じるようになった今でも、できればまだこのままでいたい。
それだけを願っていたのに・・・
「・・・困ったな、真希くんを泣かせたいわけじゃなかったんだけど」
「え・・・?」
溜め息とともに言われた言葉に、自分が涙を流していることを知る。
「あ・・・」
「真希くんが僕を好きになってくれるなら、僕は君を泣かさない自信がある。絶対に悲しませたりなんてしない」
・・・俺が、会長を好きになったら?・・・楽になれるの?
「君のことを何とも思っていない男を好きでいるのなんて、辛いだけだろ?」
省吾は俺のことを何とも思っていない。それは、そうなんだろうけど・・・でも・・・・・・
「好きだよ、真希」
・・・・・・一度でも、そう言われたかった。

『じゃあ付き合う?』
『付き合ってんじゃないの?』
『・・・・・・お前、付き合ってる人はいないんだってな』
・・・なあ、省吾。どれが、お前の本心だったんだ?

会長の声と省吾の声が、頭の中でグルグル回って。
いつの間にか距離を縮められて、さらに近づいてくる顔を感じても、避けることはできなかった。

―――・・・・・・省吾・・・

思わず瞑った瞳の裏に映ったのは、誰よりも好きな幼馴染の顔。







>> NEXT






06.04.22





top >>  novel top >>