BE THERE  (6)





約束の期限まで、あと2日。
省吾の家で話した日から今日まで、省吾とは話すどころか近づくこともできないでいる。
省吾の気持ちがハッキリと分かった以上、一緒にいることは辛いし、それに最近は省吾が俺を見る目が冷たくなった気がするから。
・・・こんなことなら、どんな関係かなんて訊かなければ良かった。
今更後悔したところで、どうしようもないけれど。


「でさー、結局お前どうすんの?生徒会の件」
「どうするも何も、どう考えたって俺のキャラじゃないだろ?今は会長たちと約束しちゃったから一応ちゃんとやってるけど、期限がきたら断るよ」
「まあ、確かにキャラではないけどさ。お前、意外と押しに弱いからなぁ。ちゃんと断れるかね」
宮田に鋭いところを突っ込まれ、真希は言葉に詰まる。
押しに弱いという自覚はある。
誰にでもと言うわけではないが、特にあの生徒会メンバーには叶わない気がする。
「お、真希。噂をすれば、木下先輩だぜ?やっぱり綺麗な人だよなー」
呑気に言う宮田の視線を追えば、渡り廊下の途中で一人外を眺めている木下先輩の姿。
このまま歩いていけば無視するわけにもいかないよな、なんて考えていたら、向こうから気が付いたらしく笑みを浮かべて近づいてきた。
「こんにちは、水島くん。これから生徒会室に行くの?」
「あ、こんにちは。すみません、今日はちょっと用事があるんで、それを済ませてから顔を出します」
「そう?何だか久しぶりに会った気がするから、話したいなと思ったのに」
「・・・真希、先に行ってるわ」
木下先輩に微笑まれて、宮田が慌てた様子で耳打ちする。
たまに木下先輩の笑みは、無言の圧力みたいのを感じる気がする。
宮田もそれを感じたのだろう、申し訳なさそうにしながらもその場を一人離れていく。
「ああ、ごめんね。友だちに気を遣わせちゃったかな」
「いえ・・・別に大丈夫ですけど」
「それなら良かった。玲二のいないところで一度訊いておこうと思って。どう?生徒会は」
「えっと、皆さん良くしてくれるんですけど・・・やっぱり俺には向いてないかなって」
「そう?玲二とも大分仲良くなったみたいだし、OKもらえるものだと思ってたんだけど」
「そんなことは・・・」
「まあ、あと2日あるしね。もう少し考えてみてよ。生徒会のことも、玲二のことも」
「・・・っ」
ああ、この人は知ってるんだ。
そう思うと、瞬時に顔が赤くなる。
「ああ、そんな可愛い顔しない方が良いよ。いくら今は周りに人がいなくても、水島くんのこと狙ってる人も多いだろうしね。だから、そんな顔は見せない方が良い。ねえ、三上?」
ふいに視線をずらして微笑む透に、真希も慌てて振り向く。
そこにはいつの間に来たのだろう、無表情だけど、いつもより不機嫌そうな様子で立っている省吾がいた。
「・・・何してるんですか、こんなところで」
「何って、可愛い後輩と話してただけ。生徒会のこととか、他にも少しね」
不敵にも思える微笑みと、少し不機嫌が窺える表情。
そうして互いに探り合うように対峙する二人に、真希は不穏な空気を察して慌てて間に入る。
「あ、あの木下先輩!その話は、また今度・・・」
「ああ、そうだね。じゃあ二日後に良い返事をもらえることを期待してるよ」
どこまでも爽やかに笑顔を残して、透はあっさりとその場を離れる。
すれ違いざまに省吾に何かを言っていたようにも見えたが、その言葉は真希には聞こえなかった。
ただ、省吾が舌打ちした音だけが、小さく聞こえた。
残された真希と省吾には気まずい空気に包まれ、それを増長するかのように省吾が溜め息をつく。
「生徒会には近づくなと言わなかったか?」
「なっ・・・そんなこと言ったって、今は手伝いしてんだから無理に決まってるだろ!?」
「そんなもの構わなければ良い」
「んなわけにいかないだろ!そりゃ確かに俺がいたって何の役にも立たないけど、それでも来てくれるだけで嬉しいって会長も言ってくれてるし!」
ムキになって叫んだ後で、省吾の目がさっきよりも険しいものになっていることに気が付く。
「な、何だよ・・・?」
「別に。まあ確かに恋人が生徒会長なら、言うことないだろうな」
「っ・・・何で、それ・・・?」
そのことは誰にも、省吾にも宮田にもさえも話していない。
会長に告白された後も会長の態度は変わらなかったし、何よりも省吾の本心が分かったことの方がショックで、先ほど木下先輩に指摘されるまで告白自体も正直忘れていたのだ。
それをどうして省吾が知っているのだろうか?
「あいつが直々に宣言しにきた。お前に告白したってな」
「えっ!?」
会長が何故省吾にそんなことを?
目を見開き一人パニックに陥る真希を、省吾はただ静かに見つめる。
あの男の話を信じるならば、真希はその告白をすぐに断らなかった。
混乱していただけかもしれない、遠慮しただけなのかもしれない。
それでも、ここ数日の真希の態度は明らかに省吾を避けていて、省吾を不安にさせるには十分すぎた。
今だって、こんなにうろたえた様子を見せられて。
・・・この間うちに来たのも、俺との関係をはっきりさせたかったからじゃないのか?
疑心が暗い闇の中に、広がっていく。
「・・・・・・お前、付き合ってる人はいないんだってな」
「え?」
「・・・何でもない。邪魔したな」
「省吾っ!?」
呼びかけても振り向きもせず、そのまま離れていく省吾の後姿を、真希は呆然と目で追う。
残ったのは、省吾が呟くように言った言葉。

付き合ってる人はいない?
何で?この間は、付き合ってるって言ってくれたじゃん?
それがお前にとって俺の我が侭に付き合ってくれているだけだとしても、もう少し夢見ていたかったのに。
俺の決心がつくのすら待っててくれえないわけ?
何でそんな冷たい目で見るんだよ?もう幼馴染でもないってこと?
ねえ・・・お前にとって、結局俺って何?

「・・・どうしたら、良いんだよ・・・っ」

様々な感情が渦となり、真希はその場にただ立ち尽くすことしかできなかった。







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06.04.15





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