BE THERE (4) |
「水島くん、そこのファイル取ってもらえるかな?」 「あ、はい。これですか?」 「うん、ありがとう」 結局断りきれず、真希は会長と会った翌日の放課後から毎日、生徒会室に顔を出している。 今日で5日目。大分雰囲気に慣れてきたとはいえ、できることなんて当然なく、ほとんどが会長たちの話し相手、よくて簡単な雑用ばかり。 と言うより、会長の西岡さんと話すことがメインのような気がしてしまう。 今だって、気が付けば二人きりだ。 「でもホント嬉しいな、水島くんがこうして来てくれるなんて」 「や、でも俺、ほとんど何もしてないですよ?」 いなくても全然構わないというか、むしろいる方がかえって邪魔なんじゃないかとも思うくらいだ。 「水島くんが来てくれるだけでテンションがあがるからね。それだけでも十分すぎるほど役立ってるよ」 にっこりと微笑まれるのに、つられるように真希も笑う。 役に立てているのなら良いが、それにしても会長はさらりと恥ずかしいことを言ってくれるものだから、正直気まずい。 ちらりと見た他の生徒会の仕事も何をやってるのか全然分からなかったし、ホントに俺は何しにここにいるんだろう・・・? 思えば思うほど居たたまれない気持ちになって、とりあえずできることをと机の上に広がっているプリントをまとめてみる。 「あれ・・・?」 ふと目線を落とした先の資料の中に、“三上省吾”の名前。 「どうしたの?」 「あ、いえ。・・・友だちの名前を見つけたので、つい。すみません」 学校の資料なんだから名前があったっておかしくない。 思わず声を出してしまったことが何だか恥ずかしくて、真希は急いでその資料ごとまとめてしまう。 「友だちね・・・もしかして、三上省吾?」 「え・・・会長、省吾のこと知ってるんですか?」 「直接の面識はないけどね。水島くんの幼馴染みで・・・恋人、なのかな?」 恋人と言う言葉に、ビクリと反応してしまう。 ただでさえ省吾の名前が会長の口から出ただけでも驚いたのに、彼は一体何をどこまで知っているのだろう? 「・・・ち、違いますよ。俺と省吾は、ただの幼馴染みでっ」 恋人・・・だと思いたいけれど、正直その自信がない。 それに、あまり人に広めたい話でもないし・・・省吾がどういう風に思っているのかも分からない。 真希は、ただの幼馴染みという自分の言葉に少しだけ傷つきながら、それでも必死に否定する。 「そう?それなら良かった」 「え?」 「何で水島くんを生徒会にって話がでたと思う?」 そんなの分かるわけがない。どう考えたって生徒会のキャラじゃないとは思っていたけれど。 「俺がね、水島くんを好きになっちゃったから。側に置いておきたかったんだよね。だから透に協力してもらって、君を呼んだの」 「・・・っ」 これでもかというくらいに微笑まれて、真希は一気に赤面するのが分かる。 完璧な女顔に華奢な体という容姿のせいで、これまでに何度も男から告白されたことはある。 だけど、それは全て一蹴してきたし、こんなに恥ずかしい気持ちになったことなんてない。 「あ、あのっ、俺・・・」 「いわゆる職権乱用ってヤツだね。ホントはもう少し仲良くなってからって思ってたんだけど・・・で、三上くんとはホントにただの幼馴染みなんだよね?」 さっきまでとは違う、真剣な目を向けられて、真希は何を言ったら良いのか分からなくなる。 「お、俺、その・・・す、好きな人が、いるんで・・・」 「ふーん・・・それは三上?やっぱり付き合ってるんだ?」 「や、その・・・そういうわけでも、なくて・・・」 「どうもハッキリしない関係だね。それなら俺はどうしたら良いのか分からなくなる」 ハッキリしない関係だということは、真希自身が一番思っていることだ。 だからと言って、ハッキリさせる勇気もなく。 せめて側にいたい。そう思っているのに。 「お試し期間が終わるのが、あと1週間・・・じゃあ、それまでにハッキリしなかったら、俺と付き合って?」 「えっ!?」 「生徒会だけじゃなく、俺もお試し期間ってことで。三上よりも優しくできる自信はあるよ?」 「・・・・・・でも・・・」 「それまでは我慢する。ああ、でも一つだけ。これからは、真希くんって呼んでも良いかな?実はずっとそう呼びたかったんだ」 玲二の言葉が頭の中でぐるぐる回り、ね?と追い討ちをかけられて、真希は混乱したまま頷くことしかできなかった。 「・・・何やってんだ、真希」 「あ、おかえり。ちょっとお前に話があってさ、待ってたんだ」 あの後、生徒会室から逃げるように帰ってきて、それからすぐに省吾の家にきた。 まだ省吾は帰っていなかったけれど、合鍵を使って入り、電気もつけずに待つこと1時間。 明かりのついてない部屋に、当然誰もいないだろうと入ってきた省吾が少しだけ驚いた様子を見せたが、 真希の様子に気が付いたのか、省吾もすぐに電気だけつけて部屋へと入る。 「で、話って?」 「・・・あの、さ。・・・・・・俺と、省吾の関係って・・・何?」 視線で促されて、しどろもどろになりながらも必死で言葉を紡ぐ。 会長に告白されてから、ずっと考えていたこと。 俺は省吾のことが誰よりも好きだけど・・・省吾にとって俺は何なんだろうって。 「何って?付き合ってんじゃないの?」 呆れたように、でも当然のように言われることに、嬉しいような悲しいような気持ちになってくる。 だって、省吾の言葉はあくまで淡々としてて・・・真実味がない。 「・・・それは、俺が省吾のことを好きだって、言ったから?」 「それ以外に何が?」 「・・・っ、分かった。ありがとう・・・」 やっぱり、俺だけが好きなんだなって思う。 それでも一緒にいたくて、今はまだ何も言えないけれど。 付き合ってもらってるだけで、その場所にいられるだけで・・・今は良い。 「で、お前は何が訊きたいんだ?」 「・・・何でもない。ちょっと確認したかっただけ。ごめんな、変なこと訊いて。俺、帰るわ」 これ以上、省吾の顔を見ていられなくて、とにかく帰ろうと腰を上げる。 「真希」 「何?」 「生徒会には、あまり近づくな」 ハッキリと言われるのに、俺にはそんなに似合わないかななんて思ってしまう。 「・・・お試し期間は来週までだから。それが終わるまでは無理だよ」 「・・・」 「・・・大丈夫、あと1週間だから」 あと1週間たったら、お前との関係も元に戻すから。 真希はそう心の中で付け加えて、じゃあなと省吾の家を後にした。 >> NEXT 06.04.02 |