BE THERE (3) |
「み、水島!」 クラスメイトの焦った声も、ここ何日かで大分慣れてきた。 「真希、またお呼びのようだぜ?」 「んー・・・」 連日、放課後になったと同時にやってくる呼び出し。 正直面倒だとは思うけど、ここで断ることなんてできない。 「無理すんなよ?」 生返事な真希に、宮田が心配そうに覗き込んでくる。 それに大丈夫だと手を振って応えて、一瞬だけ目を瞑って気合を入れる。 クラスメイトたちの視線は痛いほど感じるし、真希自身も先輩を待たすようなことはできなかった。 できるだけ自然に立ち上がって、向かった先にはいつもの微笑み。 「ごめんね、水島くん。毎日押しかけちゃって」 「いえ、別にそれは構わないんですが・・・あの話は、やっぱり・・・」 「ああ、そのことなんだけど。今日はちょっと別のところで話したいんだけど良いかな?」 良いも悪いも、きっと俺に選択権なんてない。 にっこりと見惚れるような笑顔を向けられて、クラスメイトの痛いほどの羨望の視線を受けながら、真希は言われるがままに透の後に続いた。 「僕だけど、入るよ」 気楽な様子で透が一言断って、返事も待たずに中に入る。 連れてこられた先は、生徒会室。 今まで一度も踏み入れたことのない部屋に、真希は思わず周りを見渡してしまう。 そして、扉から真正面。大きな机の前に座っている男に目をやって、慌てて姿勢を正す。 「そんな緊張しなくても良いよ。初めまして。一応、現生徒会長の西岡玲二。よろしくね」 にっこりと笑みを浮かべられて、握手を求められる。 反射的に握手をしてしまってから、俺は何をやってるんだ?と今の状況にようやく疑問を抱いた。 初めて透が真希の前に現れた翌日、生徒会の件は真希にしては丁寧に、でもハッキリと断った。 それから毎日続く攻防戦。 その最中に、敵の本拠地に来て、さらに握手・・・どう考えても、おかしい状況だ。 「あ、あの!」 「それでね、木下からもう聞いたと思うんだけど。考えてくれた?」 真希が口を挟む前に、玲二が話を進める。 ちらりと横を伺えば、これまた透も笑みを浮かべている。 ・・・どちらも、有無を言わせぬ迫力を感じるものを。 『お前には無理だ』 思わず頷いてしまいそうになる気持ちを、真希は省吾に言われた言葉を思い出してどうにか堪えた。 自分でも無理だと思っていたものだし、何より省吾が反対するのを押し切ってまでやりたいとは思わない。 ・・・・・・そりゃ、少しは悔しいという気持ちがないわけではないが。 「あ、あの・・・俺には勿体ないくらいの話だってのは分かってるんですが・・・その、どう考えても無理なので。お断りしたいのですが・・・」 「そうかな?僕は君ならできると思ったんだけど」 「そう思ってくれたのは、嬉しいんですけど・・・やっぱり・・・」 「じゃあ、しばらくはお試し期間にしてみたらどう?」 それまで微笑を浮かべながら傍観していた透が、ふいに口を挟む。 「へ?」 「だからね、選挙までまだ時間あるじゃない。だから、それまで今の生徒会の手伝いをちょっとしてみるの。無理そうだと思ったら、僕たちも無理強いはしない。どう?」 「え、あの・・・」 「確かに、それは良い考えだな。水島くんも、それなら良いだろ?」 ・・・どうして二人そろって、人に訊いておきながら有無を言わせぬ迫力を持っているのだろう。 そうでもなければ、生徒会長や副会長なんて務まらないものなのだろうか。 それならば、ますます自分なんて絶対に向いてないのに。 「そうだな・・・とりあえず、期間は2週間。ね?」 そう人好きのする笑顔を向けられて、真希にはもう頷く以外の選択肢は残っていなかった。 「三上、見ーつけた」 何でこいつはこうも神出鬼没なんだろう。 屋上に行けば、また邪魔されるのではないかと今日は図書館の、それもあまり人がこないエリアにしたのだが、気が付いたときには目の前にいた。 それも、ムカつくくらいに笑顔を貼り付けて。 「そんな嫌そうな顔しないでくれる?大丈夫、周りには誰もいないから」 「・・・よくここが分かりましたね」 「三上が行きそうなところは、とっくにチェック済み」 語尾にハートマークでもついてそうな言い方に、思わずこめかみを押さえる。 「で?何か用ですか?」 もはや逃げることも不可能だろうと早々に諦めて、仕方なく透と向き合う。 「例の件だけどね。水島君、OKしてくれたよ。ただ、まだお試し期間だけど」 ・・・・・・あの馬鹿。 心の中で盛大に舌打ちして、湧き上がる苛立ちをどうにか抑える。 「・・・あいつには生徒会なんて無理でしょう」 「あ、水島君から聞いたんだ。でも大丈夫だよ、元々それを期待してるわけじゃないし」 「・・・他に何を?」 「んー?まあ、色々とね。まあ一つだけ言えるとしたら・・・生徒会長の、西岡ってね。可愛い子大好きなんだよねー」 わざわざこちらの反応を読むような言い草に、そしてその内容に、苛立ちが高まっていくのが分かる。 「水島君は外見も中身も文句なしに可愛いし。これから楽しみだね?」 「・・・・・・俺には、」 「関係ない?それなら良かった。玲二にそう伝えておくよ」 言葉を遮った上に持っていかれ、さらに好き勝手言うだけ言って透は「じゃあねー」と手を振って去っていく。 真希のことは、俺には関係ない? たった今、吐き出しそうになった言葉は確かにそれだけれど。 透が走り去った方向を睨みつけて、省吾は今度こそ盛大に舌打ちをした。 >> NEXT 06.03.30 |