BE THERE  (10)





「何、言ってんだよ・・・?」
省吾のことが好きかだって?何を今更、そんなことを訊くのだろう。
ずっと側にいて、気が付いたら恋になってた。
悔しいけれど誰よりも好きで、段々離れていく距離が嫌で、決死に思いで気持ちを伝えたって言うのに。
なのに、今更俺の気持ちすら否定しようっていうのか!?
ふつふつと内側から怒りが沸いてくるのを感じる。
その感情に動かされるまま、真希はキッと省吾を睨みあげ、叫ぶ。
「俺はお前が好きだって言っただろう!?」
ほとんど人も通らない場所ではあるが、校内であることすら意識の中から消えていた。
何だか悔しくて、これで最後かもしれないなんてどこか冷静に思いながらも、一度開いた口は止まらない。
「俺がどんな思いでお前に告白したと思ってんだよ!付き合うかって言われてどれだけ嬉しかったか、それなのに全く態度が変わらないお前に戸惑ってたか、考えたことあんのかよ!?」
「なら、お前は何を考えてんだ!?」
叫び終わるのとほぼ同時に突然怒鳴られ、真希は驚いて勢いを失ってしまう。
うっすらと浮かんだ涙まで、省吾の勢いに一瞬で引いた。
今まで決して短くない付き合いの中で、省吾がこんなに声を荒げたことがあっただろうか。
真希は瞬時に思い出そうとするが、記憶の中には見つけだせない。
大体が怒りは表面化せず静かに内面で燃やしているし、また表面に出るとしても目つきだったたり雰囲気そのものが近寄りがたくなったりするくらいだ。 ついさっき生徒会室で見たものでさえ未だに信じられないくらいなのに、それを今は直接ぶつけられている。
そこまで考えて、真希はようやくこの異常事態に気が付く。
「えっと・・・」
ちらりと上目使いに省吾を見れば、言葉と同じくらいキツイ視線が向けられている。
そもそも省吾は何を怒っているのか真希には検討がつかず、よって何かを答えることもできない。
第一、俺が省吾に訊いてたんじゃなかったか?
そうは思うが、真正面から受ける省吾の圧力に、それを今更蒸し返すこともできない。
「・・・何を、って何が?」
直接怒りの原因を訊こうかとも思ったが、さすがにこの視線の前でその勇気はない。
ならばと、とりあえず先の質問について聞き返してみたのだが・・・省吾の眉が更に上がるのを見て、今の発言を早速後悔する。
「・・・質問を変えよう。少し前に、俺に訊いたよな?俺たちの関係は何かって」
何を言われるのか分からなくて内心冷や汗が伝うが、言われたことは事実なので素直に頷く。
「で、俺はこう答えた。“付き合ってるんじゃないのか?”」
確かにそうだ。
だけど、それは俺にあわせてくれてるだけだって後の言葉で思い知らされたのだ。
思い出すと同時にその時の感情まで蘇り、一気に悲しくなってくる。
もうこれ以上何も聞きたくない。
そう思うのに、省吾の話は終わりそうにない。
「少なくとも、俺はそう思っていた。だけどお前にとっては違ってたんだな?」
・・・・・・え?
言葉の意味がうまく掴めなくて、たぶん相当まぬけな顔をしたのだろう。
省吾も片眉を上げて、不審そうに見てくる。
「・・・ちょっと待って、今、何て言った?」
「お前にとっては違ったのか?」
「違う、その前!」
自分にとって都合の良い考えが浮かび、鼓動が早くなる。
だって、今の省吾の言葉が聞き間違いじゃなかったら・・・!
「だから、俺はお前と付き合ってると思ってたのだが、お前は違ったんだろ?」
・・・聞き間違いじゃ、ない?
「真希!?」
気がついた瞬間、身体の力が抜けて、思わずその場にへたりこんでしまう。
それに慌てた省吾がとっさに支えるが、結局二人ともその場に座り込む形になる。
「大丈夫か?」
心配そうに覗き込むその表情に、さっきまでの怒りは見えなくて。
それだけで、ひどく安心する。
「・・・・・・さっきも言ったけど・・・俺は、省吾のことが好きだ。幼馴染としてだけじゃなくて・・・その、本気で・・・」
「・・・生徒会長とは?」
省吾と目が合ったら自然にこぼれ出た言葉に、少しの間をあけての返答。
もしこれも俺の勘違いじゃなかったら、もしかして省吾はこのことを誤解して怒っていたのだろうか。
そう思ったら、少しだけ嬉しくなって、それから全てを素直に話さなければと思う。
「会長から告白されて、ちゃんと一度は断った。だけど、省吾との関係を訊かれたら、何て答えて良いのか分からなかったんだ」
「何で?付き合ってるんじゃないのか?」
「だって!・・・お前は今までと態度変わらないし。それどころか、段々俺のことも避けてるような気がしてきてさ。それで、どうやって自信持てっていうんだよ?」
ずっと不安で、会長とのことだって誰よりも相談したかったのに、それすらも言えなくて。
不覚にも、近づいてくる会長を避けなければという気持ちすら沸かなかったくらいなのだ。
・・・結果的には、省吾があのタイミングで入ってきてくれたから、キスは寸前で止まったのだけれど。
「じゃあ、してないのか?」
「してねぇよ!そもそも本当に俺は会長とは何もないんだからなっ!」
告白されたとか、意味不明な理由で迫られたとか、何もないと言うと語弊があるかもしれないが。
これ以上誤解されたくないという思いから、自然と言葉も強くなる。
「俺はっ、お前とじゃないと付き合いたいと思わないし、お前がどう考えてるのか分からないのが不安だっただけで!俺の気持ちは変わってないんだっ!」
「そうか・・・」
そのまま黙ってしまう省吾に、分かってくれたのかと不安な気持ちのまま覗き込む。
「真希」
「え・・・―――」
ふっと目が合った次の瞬間、目の前に省吾の顔。
そして唇に感じる温度に、真希は目を見開いた。







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06.05.14





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