BE THERE  (1)





俺と三上省吾は、学校も幼稚園からずっと一緒のいわゆる幼馴染み。
家は俺んちから1つ目の角を曲がってすぐのとこで、親同士も仲が良い。
さらに省吾の両親は共働きで、小さい頃はよくうちに遊びに来ていたから、もはや兄弟同然の仲と言っても良い。
そんな省吾に特別な感情をもったのは、いつからだろう?
気が付いたときには、どうしようもないほどに省吾に惹かれていた。





「真希、早くしないと置いてくぞ」
「あーっ、待って待って!今行く!!」
外からかけられた声にバタバタと用意をして慌てて出れば、声の主はすでに角を曲がろうとしていた。
走って追い掛けて、ようやく隣に並ぶ。
「おそよう、省吾!」
「・・・たまにはおはようと挨拶してみたいもんだな」
溜め息混じりにそう言うと、あとは無言でスタスタと歩く。
これはもう中学に上がった頃からの俺たちの日課だ。
朝に弱い俺も、省吾に起こされればすぐに起きる。
それを見た俺の母親が省吾に毎朝の迎えを頼み、高校生になった今でも律儀に迎えに来てくれている。
「あ、そうだ。省吾んとこ英語どこまで進んだ?」
「58ページ」
「マジ?訳見せてくんない?たぶん今日当たるんだよ」
「今日は英語ないから」
頼みは一言で拒否され、さらにそのまま足を早めて一人で先に行ってしまう。
学校まで後2、3分の距離。駅に向かう道の、つまり高校の連中がやまほど通る道の手前。
そこで省吾はいつも先に行ってしまう。
それはやっぱり、俺と一緒のところを他の奴らに見られたくないから、なのだろう。
昔は普通に話したり遊んだりしてたのに、中学に入ってから段々よそよそしくなって、一緒にいる時間が減っていった。
高校に入って、クラスが分かれてからは特に。
学校での接点なんて、行きのこの時間だけじゃないだろうか。
「・・・せっかく同じ高校入ったのにな」
嬉しかったのは俺だけか。
考えると何だか悲しくなってくる。
「・・・暗くなるな、俺!あの時、言ってくれたじゃん!」
首を大きく振って気持ちを切り替え、再び学校へと向かって歩き出した。



「まーさき、おっす!何しけた顔してんだよ」
「授業変更で1限が英語になったんだよ」
「あー、なるほどね。ところで聞いてくれよー!」
先生の都合だかなんだか知らないが、おかげで5限のはずだった英語が15分後に迫っている。
朝のHRも足しての計算だが、間に合うかギリギリだ。
教室について早々にそれを知らされた真希は、借りた訳を必死に写しているわけだが、宮田にとってそれは関係ないらしい。
いつも明るく一緒に騒げる良き友人だが、今は邪魔にしかならない。
まあ、こいつの場合はわざとやってるんだろうけど。
「んだよ、今忙しいのに」
「俺にもついに春がきたっていうかさぁ、昨日告られちゃってよ」
「あ、そう。おめでと」
聞く耳持たないヤツはかわすに限る。
だが、この作戦は宮田に利いた試しはない。
「何だよ、もう少し突っ込んでくれたっていいだろ?」
「俺はお前の恋路より、今日あたる英語の方が重要なの」
「つれないなぁ。カリカリしてっと、可愛い顔が台無しだぞー」
「可愛くなくなるなら、いくらでもカリカリしてやるよ」
気にしていることをわざと言われるのにも、構っている時間はない。
モロ母親似で、完全な童顔・女顔。さらに髪の毛はふわふわとした自然な薄茶色。
おまけに背も低く、制服着てたって女に間違われることが多いのだ。
せめてもの抵抗に言葉遣いや振舞いだけは男らしくと乱暴にしてみるのだが、それもあまり効果は見られない。
中学時代の女子に言わせると、真希の顔は恋愛対象になる前に“ガールフレンド“と同義になってしまうらしい。
・・・まあ今となっては、どうでも良いことだけど。
「そう言うなって、学園のアイドルが」
「そんなん知るか。周りが勝手に言ってるだけだろ」
先日の文化祭で、女装なんかさせられたのが原因だ。
これだから男子校は・・・と思わず溜め息をつきたくもなる。
文化祭の後には、ただでさえ多かったラブレターが激増したものだ。
どこまで本気なんだよとか、何で俺なんだよとか思うことは色々あるけれど、自分だって惚れた相手が男なのだから何も言えない。
無下に断るのも何だしと呼び出しに応じたために本気で襲われそうになってからは、自衛のためにあまり相手にしなくなったけれど。
「み、水島!面会だぞ!!」
突然、やたら緊張した声が飛んだ。
呼ばれているのは自分だとは分かったが、確認するまでもなく叫ぶ。 「今忙しいから後でーっ!」
その瞬間に、クラス中のざわめきが大きくなったが、知ったことではない。
誰が来てたのかは分からないが、今はノートを写し終える方が先決だ。
それよりも急用というのなら、ここまで来てくれれば良い。
「・・・良いのか?」
「何が?」
「いや、だって面会人・・・木下先輩だぞ?」
告げられた名前に、思わず顔を上げて。
続いて教室の入り口へと目を向ければ、学園一と称される綺麗な顔と目が合った。
「ごめんね、忙しいときに。ちょっと君にお願いがあって」
これでもかというくらいに綺麗に微笑まれて。
今日の英語は、写し終えたところが当たってくれますように、と本気で祈ったのだった。







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06.03.20





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