「何、このガキんちょ」
「悪いな誠一。この子が前に話した拓弥。今日はうちに誰もいないからさ、連れてきた」
そういや前に弟みたいで可愛いヤツがいると話していたなと何となく思い出す。
そいつは恭平の背中に少し隠れながら、こんにちはと小さく挨拶をしてくる。
うむ、なかなか感心なちびっこだ。
「こっちは誠一。お兄ちゃんの友だちだよ」
「ってお前、自分でお兄ちゃんとか言うなよ、気持ち悪い」
「うるせぇ、拓弥にそう呼ばれてるんだから仕方ないだろ」
呼ばれてるんじゃなくて呼ばせてんじゃないのか?
一人っ子の恭平からすれば弟ができたみたいで嬉しいんだろうが、普段とは違うデレデレ具合に突っ込みのひとつも入れたくなる。
まあ見てて面白いのも確かだが。
「お兄ちゃんはお兄ちゃんの友だち?」
「そうだよ。って俺もお兄ちゃんじゃ分かりづらいだろ。誠一って呼べ。いやガキんちょに呼び捨てられんのはムカつくから誠一さんにしろ」
「誠一さん?誠一さん、誠一さん・・・うん、覚えた!」
どこか誇らしげに笑う拓弥は、確かになかなか可愛いげがある。
恭平が兄気分になるのも無理はないかもなんて思っていると、にこにこと傍観していた恭平が間に入ってくる。
「ちょっと待て、何でお前だけ名前で呼ばれるんだ!」
「何でって、どっちもお兄ちゃんじゃ紛らわしいからだろ」
「なら俺も名前で呼ばれる!拓弥、今度から俺のことは恭平お兄ちゃんと呼べよ」
「恭平お兄ちゃん?」
またムキになっちゃって。
ホント滅多に見られないものが拝めて、楽しくて仕方ない。
ついついもっとからかいたくなってしまうのも、仕方ないことだよな?
「それじゃ長くて呼びづらいだろ。略して恭ちゃんで良いんでね?」
「恭ちゃん!」
ただちょっとからかうつもりだけの呼び名は、意外にも拓弥に気に入られたらしい。
目を輝かせて何度も呼んでくる拓弥に、恭平も否定するタイミングを逃したようだ。
覚えてろよと睨んでくるわりに、名を呼ばれるたびに嬉しそうに応えてるんだから、こいつはもう完全に兄バカだ。
そうして決められた呼び名は定着し、この日から10年たった今でも使われているのだった。
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