本当の恋人  (2)





どうやら俺はまた何か失敗したらしい。
今日の和宏の反応を見ながら、心の中でそう舌打ちをする。
いつもより、どこか元気がない。笑顔を見せてはくれているが、どこか上の空なのだ。
どこか俺の動きを気にしている風でもあって、下手に動くことも出来ない。
和宏の気持ちを確認して、晴れて付き這い始めたわけなのだが、また一人で浮かれて和宏の 気持ちに気付くのに遅れたと自分の不甲斐なさを悔やむ。
和宏は俺の予想外のところで不安になっていたりするのだ。それも一人で抱えて。
せめて一言でも何か言ってくれればすぐに助けてやれるのに。
そう自分の不甲斐なさを棚に上げて思う。
しかも、様子がおかしいことには気付いても、何が原因かが分からないのだからどうしようもない。
前みたいに勝手に勘違いしてすれ違うのは避けたいが、それでもハッキリ訊くのが怖いと思ってしまう自分もいる。
ただでさえ未だに警戒心のようなものが取れていない和宏相手に手が出せず、焦れている状態なのだ。
想いを伝えた日以来、指一本触れていない。
何度も抱きしめたいと思ったし実際に抱きしめたくなったことも何度もあるけれど、和宏を怖がらせることだけは避けたいし、 そんな雰囲気になるまでは待とうと思って今の状態に至る。
それに加えて、まさかこんな事態が浮上するとは思わなかった。
さて、どうしたものか。
隣を歩く和宏を横目で見ながら、何か良い方法はないものか考える。
「和宏は特に行きたいとこ、ないんだよな?」
「うん」
「じゃあさ、ちょっと付き合って」
言って、そのまま和宏を連れて歩き始める。
怖がっていても何も始まらない。それよりも、何も分からない今の状態の方が嫌だった。
とにかく、和宏の話を聞こう。
一人決意を固め、俺は人気のない場所を思い浮かべながら歩いた。







「柘植、どこに行くの?」
「ん?公園」
不安そうな和宏の声に、そういえば行き先も言わずに歩き始めたことを思い出し、とりあえず行き先を告げる。
そろそろ日も沈みそうな夕刻、人気がなく静かに話が出来そうな場所など公園しか思い浮かばなかったのだ。
ちょっと寒いかもしれないが、それは我慢してもらうことにする。
「公園って、何かあるの?」
「いや、ちょっと和宏と話したいなって」
急な展開についてこれてないのだろう、和宏が訊ねてくる。
それに正直に応えると、一瞬で和宏の瞳が不安げに揺れる。
やっぱり、まだ和宏と俺の間には何か壁があるよな。 話があるという一言だけで悪い方にしか考えていないのだろう和宏を見ながら、俺は心の中で呟いた。

「寒いけど、平気か?」
「うん・・・」
児童公園という名のブランコや砂場くらいしかない小さな公園は、予想通り誰もいなかった。
とりあえずベンチに座り、話し掛けるが和宏は俯いたままだ。
・・・何で、こんなにすぐ不安になるかな。
思っても仕方ないのかもしれないけれど、何だか自分が悪者のような気になってくる。
不安なことは全部言ってくれれば良いのに。
そんなに俺は信用ないのかと、悲しくなってくる。
とはいえ、まずは話さないと始まらない。
「和宏、とりあえず話そう」
「・・・何を?」
「和宏が不安に思っていること。俺、馬鹿だから言ってくれなきゃ分からない」
はっきりとした口調で切り出せば、和宏の顔が苦しそうに歪む。
ああ、だから不安にさせたいわけじゃないんだ。
それをうまく伝えられない自分がもどかしくてたまらない。
「何ていうか、和宏は俺に遠慮しすぎ。俺は和宏の恋人だよな?」
一度そこで区切って、和宏が頷くのを確認してから、言葉を続ける。
「俺は和宏のこと全部知りたいよ。だから和宏も気になることがあったら何でも言っていいんだ。 っていうより、話して欲しい」
「・・・うん、ごめん」
「あ、ごめんもなしな。和宏は何も悪いことしてないんだから」
何でもないように言えば、和宏はようやく小さく笑って、軽く頷いた。
その様子にホッとして、本題に入る。
「で、何があったの?」
「うん。あのね・・・その、僕たち付き合ってるんだよね?」
「・・・へ?」
それでもやはり少し言いにくそうに言われた言葉を、すぐに理解することが出来なかった。
付き合ってるんだよね、って付き合ってるんだよな?
少なくとも、俺はそう思ってたわけで・・・でも、今の流れだと和宏はそうは思っていなかったことだよな?
やっぱり何も話さない方が良かったかも。
どこか真剣な表情の和宏を見ながら、先ほどまでの自分の言葉を棚に上げて、思ってしまった。







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04.12.18




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