本当の恋人  (3)





俺は和宏が好きで、和宏は俺が好き。
そして、お互いが想いを伝え合ったわけなのだから、俺たちの関係は友達から恋人に変わったのではないだろうか?
どこまでが友達で、どこからが恋人って単純に棒引き出来るものではないけれど。
少なくとも、和宏と俺の関係は恋人だと思っていた。
思っていたのだが・・・?


「あっ、あのね、柘植を疑っているわけじゃなくって、その・・・」
思いがけない和宏の言葉に、固まったまま一人で考え込んでいる秋良に気付いた和宏は、慌てて言葉を加える。
「僕が自信ないって言うか、恋人らしいことしたいなって思って・・・」
「うん」
「だから今日は・・・手、繋ぎたいなって・・・」
そればかりに意識が向いていたのだと、顔を真っ赤にして必死で訴える。
その様子を見た秋良は、一瞬にして気分が浮上する。
まさに地獄から天国。
最悪の事態を考えていただけに、和宏の言葉は秋良を有頂天にさせるのに十分すぎるものだった。
ああ、もうホント可愛すぎ!
大声で叫んで今すぐに抱きしめたい衝動に駆られるが、ここはまず何よりも和宏を安心させることを優先しなければと思い直す。
そう思い直して、そっと和宏の手を取る。
突然の行動にハッと驚いたような表情を浮かべたが、和宏はすぐに嬉しそうに微笑みを浮かべる。
「・・・ありがとう」
小さく呟くと、またすぐに俯いてしまう。
その照れた様子すら可愛くて、ついに我慢できなくなった秋良は思うがままに和宏を抱きしめる。
「つ、柘植?」
「そういうことはさ、早く言ってよ。俺もずっと和宏に触れたかったのに、我慢してたんだぜ?」
「だ、だって・・・恥ずかしくて。僕だけそんな風に考えてるのかなって思ったから・・・」
「そんなわけないじゃん」
久しぶりの和宏の温もりを堪能しながら、今までの和宏の様子を思い浮かべる。
「和宏、抱きしめようとするだけで緊張してるみたいだから、手が出せなかっただけ」
何気なく手を伸ばすだけで、ビクリと反応するのだ。
その様子が可愛いといえば可愛いのだが、何だか自分が悪者のような気持ちになってしまうのも事実で。
今一歩勇気が出なくって今に至っていたのだが、まさか和宏がこんな風に考えていてくれたなんて思いも寄らなかった。
今も少し身体が強張ってはいるが、嫌がっている様子は見られない。
どちらかというと、どうしたら良いのか戸惑っている感じだ。
「や、緊張してたわけじゃ、」
「いいよ。和宏の気持ち分かったから満足。すげー嬉しい」
言ってホッと息をつけば、和宏も少し力が抜ける。
やっぱり、ちゃんと話してみないと気持ちは分からないな。
腕の中に収まっている和宏を想いながら、秋良はそっと和宏に口付ける。

「・・・和宏?」
初めてのキスに酔いしれていたが、気がつくと目の前の和宏の瞳から涙が零れていた。
やべ、急ぎすぎたか・・・?
静かに涙を流す和宏に、先ほどまでの甘い気持ちが一気に吹き飛んで、焦りすぎた自分の行為に後悔する。
だが、その様子が和宏に伝わったのか、慌てて涙をぬぐい首を横に振る。
「違うの、嬉しくて。僕、本当に柘植の恋人だったんだなって」
「・・・そんなこと不安に思ってたのか?」
「だって、友達だった頃と変わらないから・・・」
柘植は優しいから、義理で付き合ってくれているのかもしれない。
そんな風に、嫌な考えばかりが浮かんできては、必死で打ち消してきた。
それを正直に伝えれば柘植は気を悪くするか、またはいなくなっちゃうんじゃないかと思っていたから。
「和宏」
途切れがちではあるが不安の全てを伝え終えて、しばらくしてから秋良は静かに名を呼ぶ。
呼ばれた和宏は何を言われるのかと少し緊張しながら秋良の顔を見れば、そこにはいつもの優しい表情が浮かんでいた。
「ホントに何も変わってない?」
「え?」
「俺は和宏が好きだよ。それが伝えられるだけで、十分大きな変化だと俺は思ってるんだけど?」
「・・・うん」
秋良の告白に、頬を赤く染めながらも嬉しそうに笑った。



「でも、あれだよな。和宏のOKもらったわけだし、これからは触れたいときに触れてもいいんだよな?」
「え・・・」
「嫌?」
意地悪く訊けば、和宏は慌てて首を横に振る。
その様子がどうしようもなく可愛くて愛しくて、秋良は再び和宏に口付けたのだった。







END






04.12.22




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