a ray of light (6)





突然開かれたドアの向こうに、怒りをあらわにした晴日。
「・・・珍しいね、晴日の方から俺の部屋にくるなんて。ビックリしたよ」
それは本心からの言葉だったのだが、きっとまた表情に出ていなかったのだろう、言えばさらに睨まれた。
そういや二人きりで真正面に向かい合うなんて久しぶりだなと、のん気に思う。
晴日の方から来てくれるなんて、まさにチャンス到来なのだろうが・・・
朝子ちゃんの言うように、とにかく押せという状況ではないようだ。
「そろそろ寂しくなった・・・って顔でもないね。何?」
何も言わない晴日にこちらから声をかけるが、やっぱりこんな口の利き方しか出来ない。
少しばかり自己嫌悪するが、もはやこの性格はどうしようもない。
「どういうつもりだ?」
「何が?」
「朝子に手は出さないんじゃなかったのかよ!?」
「出してるつもりはないけど?」
「じゃあお前の最近の態度は何だってんだよ!?」
「別に、ただの妹とのコミュニケーションじゃない?」
「兄は散々無視しといてか?ふざけるな!」
話が進むにつれて感じる違和感。
いつものシスコンかと思えば、どうやら怒りは違うところから来ているような気もしてくる。
だけど、それはかなり自分に都合が良すぎる考えなのだが・・・
「・・・結局さ、晴日は何に怒ってるの?」
「俺が何に怒ってるのか、自分で考えろっ。山ほど心当たりがあるだろ!?」
「そうだな・・・朝子ちゃんのことか、それとも・・・しばらく構ってあげなかったこと?」
あまりに都合の良すぎる考え。
それでもビクリと反応する晴日に、期待は膨らむ一方で。
「本命ってね、以外と近くにいるもんだよ?晴日も早く気付いたら?」
一歩一歩近づいて、そっと頬に触れても目を逸らされることはない。
どこか怯えた色を見せた、少し潤んだ瞳。
それがどれだけ俺を煽っているか、考えたことある?
「教えてあげるよ、晴日。俺が誰を求めているのか」
そのまま固まったままの晴日に、一ヶ月ぶりに口付ける。
素直に言葉に出来ない分、このまま気持ちが伝われば良いのに。
どれだけ俺が晴日を求めているか。
どれだけ俺が・・・―――
「・・・分かった?」
目を見開いたままの晴日が可愛くて、思わず笑ってしまう。
どんな時でも、感情がそのまま表情に出るのだから分かりやすい。
動揺したってことは、少しは伝わったと思ってよいのだろうか?

「そろそろ限界かな・・・」
固まったままの晴日を置いて、部屋を出たところで思わず呟く。
側にいれば、触れたくなる。
久しぶりのキスは、今までよりもかなり鮮明に残って。
気持ちがこもるとこんなにも違うものなのかと思う。
伝えられない自分が悪いのは承知しているが・・・我慢も、限界。
感情が爆発する前に、こっちを向いて欲しいとただ願う。
それにしても、晴日が絡むと自分らしくない行動ばかり取ってしまう。
・・・自分らしいって何だかも、よく分かっていないけれど。




「あら、しばらく来ないと思ってたわ」
「そのつもりだったんですけどね。気が付いたらここに来てました」
「懺悔でもしにきた?」
笑みを向けられるのに、苦笑しか返せない。
ここに来た理由は懺悔という言葉が一番あうのだろうか。
気が付いたらここに来ていたのだ。
ここだけが自分を、本音をさらけ出せる場所だから?
・・・それでも、伝えたい相手がいなければ意味はない。
それは重々承知しているけれど。
「1つ、良いこと教えてあげる」
「・・・?」
「この店はね、本音を隠した人間が集まる場所よ。この空間にいる時だけ、いつもと違う自分でいられるの。まるで仮面をつけたみたいに」
何故か、仮面という言葉だけ、強調された気がした。
幼い頃から、“優等生”だと言われてきた。
いつからかそれが当たり前になって、そうであるように演じ続けて。
まるで仮面をつけたように?
自分で生み出した闇、その中に引きずり込まれそうになった時に、マリコさんが与えてくれた本音を出せる場所。
ここだけが光だと、そう思っていたのに。
・・・それすらも本当の自分ではないの?
「いらっしゃい、十夜。話を聞いてあげるわ」
紅い唇が、にっと上がる。
俺は何を求めているの?
本当の俺って?

マリコさんの声と自分の声がぐるぐる回って、目の前が暗くなる・・・―――







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05.10.21




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