a ray of light (7)





「十夜っ!」

ふいに聞こえてきた声。
瞬間、ハッと我に返る。
振り向けば、肩で息をしている晴日。
怒りと困惑が混ざった顔。なのに妙にホッとする。
「・・・晴日、何でこんなとこに」
「それはこっちのセリフだ!好き勝手言ってさっさと出ていきやがって」
「・・・俺を探してたの?」
「そうだよ。お前は訊きたいことがいっぱいあるんだ!」
息を弾ませて、必死な顔で。
・・・俺を、探してくれていたの?
「十夜?何、どうしたの?」
「・・・何でもないですよ。すみません、今日はやっぱり帰ります」
店の中から聞こえてきた声に、慌てて別れを告げる。
晴日を見せてはいけない。
晴日に知られたくない。
それだけを思って引きずるようにその場を離れた。


「・・・何であんなとこまで来たの?」
「は?や、なんとなく、お前いるんじゃないかと思って・・・」
「そう。・・・じゃあこれからは二度と近付くな」
探してくれたことも、闇の中から助けてくれたことも嬉しくて仕方ないけれど。
まだ、その闇を知られたくない。
そんな気持ちの方が、大きい。
「そうだよ。大体何なんだよ、お前」
「何が?」
「お前にとって俺は何?何がしたいのか全然分かんな・・・」
「好きだよ」
何かを考える前にひどく素直な気持ちで言葉が出た。ずっと伝えられなかった気持ち。
なのに、なんでこんな簡単に言えるのだろうか。
「・・・え?」
目の前で真っ赤になって固まってる晴日が可愛くて仕方ない。
「俺は晴日のことが好きだって言ったの」
「だ、だって、そんな様子、全然っ」
「好きじゃなきゃ男なんて抱かない。って、やっぱり気が付いてなかったんだ」
鈍感なのが晴日であって、気付いてないことは百も承知だったけれど。
自分もしばらく気が付かなかったことを棚にあげて、残念そうに言ってやる。
「どうせ叶わない想いだと思ったから、なら身体だけでもって焦った。それも間違いだったって気付いて、最近は近付かないようにしてたんだけど」
困惑した、でも明らかに拒絶はしていない表情。
ゆっくりと近づくとますます頬を染めて、手を伸ばせばビクリと反応する。
「近くにいたら、やっぱり我慢できないね」
固まってしまったかのように動かない晴日に、ゆっくりとキスをする。
・・・ねえ、晴日。
誰かを好きになるって、こんなに幸せな気持ちになれるんだね。
それが例え、報われないものであっても・・・
「晴日?」
まったく抵抗のない様子に、不思議に思って小さく呼びかける。
すると、想像もしていなかった言葉が、晴日の口から漏れた。
「お、俺もっ・・・す、好き・・・なのかも、しれない・・・」
途切れ途切れに、でも確かに告げられた言葉。
それが泣きたくなるほど幸せなことだなんて、晴日は想像もしないだろう。
きっと自分がどれだけのものを俺に与えたのかも気が付いてない。
・・・そこが晴日の良いところなんだけど。
天にも昇るような気持ちを与えてくれた晴日の全てが愛しくて、ずっと触れたくてたまらなかった晴日をぎゅっと抱きしめた。




「あら・・・もう来ないかと思ったわ」
晴日と想いが通じ合った、数日後。
開店前に訪ねたマリコさんは、いつもの少しふざけた表情で出迎えてくれた。
「やっぱりマリコさんには報告しないとと思いまして」
「そう、それは光栄だわ」
少しの沈黙があって、それからフッと笑みを浮かべる。
「初めてあんたを見つけたとき、年に似合わない冷めた表情が印象的だったわ。そう、柄にもなく助けてあげたいと思うほどに」
「・・・」
「でも、私は結局あんたの闇を払ってあげられなかった。出来たのは、ただ見守っているだけ」
それでも、俺は救われていたんだと、今なら思う。
この姉のような母のような、不思議な人に見守られることで・・・
「・・・いい顔してる。今までよりずっと素敵よ」
そう言って、トンと軽く胸を叩かれて。
「今の想いを大切にしなさい。できれば二度とここへは来ないことを祈るわ」
「・・・ここじゃなければ、会ってくれますか?いつか、晴日にも紹介したい」
「・・・」
マリコさんは何も言わなかったけれど、今までで一番綺麗な笑みをくれた。




「十夜ー、対戦やろうぜ!」
あれから、晴日との関係は良くなったと思う。
恋人というより兄弟としての仲のような点が気にならなくはないが、 それでも笑いかけてくれることが嬉しかったりするのだから、俺も結構単純なのかもしれない。
上機嫌でゲーム機をつないでいる晴日に戯れにキス。
「・・・なっ、突然なにすんだよっ!」
すると、真っ赤になって怒鳴られる。
いつまでたっても慣れない様子が可愛くて、誰もいないのを良いことにそのまま抱きしめる。
「って、コラ!離せよっ!ゲームできないだろっ」
「やだ。・・・・・・もう、離さない」

だって、ずっとさまよっていた俺を導いてくれた光は、晴日だったから。
だからね、責任もって俺を照らし続けてて。
もう闇に、引きずり込まれないように・・・・・・



とは言え。
「だから何でお前はいつもそうなんだっ!」
「でも、晴日も好きでしょ?」
「べ、別に好きじゃない!!」
・・・どうしても晴日を苛めてしまうのは、もう性格なので仕方ないと許してもらうしかない。
きっと、今の俺こそが本当の俺だと思うから。







END






05.10.25




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