a ray of light (5) |
「やっと気がついたの?」 そうマリコさんに笑われても、何も言い返すことが出来ず。 今まで誰かに興味をもったことなんてなかった。 ましてや、本気で欲しいと切実に願うほどの相手など、生まれて初めてのことで。 優しくしたい。 振り向いてもらいたい。 様々な想いだけが渦になり、結局何も出来ず、それどころか普通に晴日と接することが出来なくなった。 「お兄ちゃん、十夜お兄ちゃんとケンカでもしたの?」 「や、ケンカはしてない・・・と思う」 「何それ。まあ大体お兄ちゃんが悪いんだろうから、さっさと謝って仲直りしなよ」 「だから俺は何もしてないって!」 聞こえてきた兄妹の会話に、思わず笑ってしまう。 朝子ちゃんも気になるほど、確かに俺の態度はおかしいのだろう。 となると、きっと晴日も気になってるに違いない。 お人好しな晴日は、その性格のせいではじめ俺に捕まったくらいなのだから。 談笑を続ける二人に気付かれないように、そっとその場を離れる。 ・・・近くにいたら理性がヤバイなんて言ったら、何て言うだろうな。 顔を真っ赤にしてわめきたてる晴日が容易に想像できて、また笑ってしまう。 何度も味わった快感は、そう簡単に忘れられるものでもなく、ましてや近くにいれば欲しくなるわけで。 でもきっとそれをしてしまえば、また今までと同じことを繰り返すだけだ。 だから手は出さない。晴日が、晴日の意思で許してくれるまでは。 ・・・まさか、こんなにも臆病になるとは思ってもみなかったな。 こんなに誰かのことを考えるなんて、まったく自分らしくない。 だけど悪い気もしない。 そんな気持ちが何だかおかしかった。 「あれ、晴日は?」 「今日はちょっと遅くなるって。買い物してくるみたい」 「そう」 話せないからと言って気にならないわけがなく。 この一ヶ月、大事な情報源として、朝子ちゃんと話すことが多くなった。 そうすると大抵、晴日が見える範囲で俺のことを見張ってるので、一石二鳥。 「ねえ十夜お兄ちゃん。お兄ちゃんとケンカでもした?」 「ん?いや、別に」 「そう?なら良いんだけど。結構お兄ちゃんが気にしてるみたいだから。お兄ちゃんも何だかんだ言って、十夜お兄ちゃんのこと好きなんだよねー」 この場合の好きは、俺のとは違うと分かっているのに頬が緩んでしまう。 実際は好かれるとはほど遠いところにいるのに、こんな自分にあきれてしまう。 「朝子ちゃんへの溺愛っぷりは負けるけどね」 「あはは、そこは譲りません。あ、でも私ももちろん十夜お兄ちゃんのこと好きよ」 無邪気に笑った顔に、やっぱり晴日と兄妹だなと思う。 「それはどうも。俺も朝子ちゃんは好きだよ」 「えへへー。あ、そうだ。ずっと聞きたかったんだけど、十夜お兄ちゃん彼女いるの?」 「いないよ」 「えー、じゃあ好きな人は?」 訊かれて瞬時に浮かぶ様々な表情。 無防備な笑顔、怒った顔、泣き顔……… ―――・・・あ、やばい。 「あー、その顔はいるんだー。でも意外。十夜お兄ちゃんならすぐに彼女できそうなのに。告白とかしないの?」 それが出来たら、簡単なんだけどね。 興味津々に訊いてくる義妹に、苦笑しか出来ない。 だが、それに構わず楽しげに話を続ける。 「そういうのって結構タイミングが大事だって友だちが言ってたよ。チャンスだと思ったら、どんどん押していかなきゃ!」 そのタイミングを逃したから、今に至ってるわけで。 今更、どう押しようもないのが現状。 っていうか、最初に押しすぎたのがそもそも悪かったんだけど。 「ところで、十夜お兄ちゃんの好きな人ってどんな人?お兄ちゃんなら知ってる?」 そのお兄ちゃん本人です。 ・・・なんて、さすがに言えないか。 「さあ、どうだろう?」 「えー、何それー!?」 「じゃあヒント。意外と身近な人だよ」 これ以上話していると墓穴を掘りそうなので、話はこれで終わりとポンと頭に手を置いてからその場を離れる。 不満げな声が後ろからかかるが、片手を挙げるだけで無視して部屋に戻った。 あれだけ酷いことをして、どうしたら好きになってくれるというのだろう。 何をしたら良いのかも分からず、結局距離をとるだけ。 『そういうのって結構タイミングが大事だって。チャンスだと思ったら、どんどん押していかなきゃ!』 先ほどの、朝子ちゃんの言葉がふいに思い出される。 チャンスだと思ったら、か・・・ それがいつ来るか分からないけれど、もし来た時には・・・もう少し気持ちを素直に伝えてみるのも良いのかもしれない。 うまく伝えられる自信は、正直ないけれど。 そんなことを一人思った3時間後。 チャンスは、突然開かれた扉の向こうから、意外と早くにやってきた。 >> NEXT 05.10.10 |