a ray of light (4)





5限が終わったと同時に気分が悪いと嘘をついて早退する。
普段、優等生をしているとこんなとき楽だなんて思いながら足を進めて。
家に帰るには逆方向になる電車に乗って、晴日の学校へ向かう。
着いた時には小一時間たっていて、帰宅する生徒がもう何人か校門を通りすぎているのが見えた。
まだ晴日が帰っていないことを祈りつつ、目立たないところに陣を取る。
そのまま10分ほど待っていると、見慣れた姿が歩いてきた。
「はる・・・―――」
声をかけようとして、すぐ隣にいる男の存在に気付く。
まだ体調の悪そうな晴日を気遣うように連れだって歩き、何かを話したかと思えば晴日と笑いあう。
きっと晴日の友達なのだろう男の姿が、晴日が気を許している風の様子が、妙に苛だった。

「晴日」
「お前、何でこんなとこに・・・」
笑顔で手を振って話しかければ、心底驚いたような顔をする。
隣の男が、小声で誰と訊けば、素直に「義弟」と答えている晴日。
・・・ていうか、近づきすぎだろ。
「初めまして、十夜です。兄がいつもお世話になってます」
「あ、ども。石田です」
何だか分からない苛立ちを抑えて、にっこりと笑って挨拶してやれば、慌てて相手も名乗ってくる。
目が合えば、一瞬だけひるんだ様子を見せたが、すぐに同じくらいの力で返される。
・・・・・・同類か。
瞬間に思ったことに、自分で驚く。
・・・同類って、何が?
「あ、あー・・・じゃあ帰るか」
その場の空気に嫌なものを感じたのか、慌てて晴日が俺を連れて歩き出す。
「気をつけて帰れよー」
背中を追いかけてくる声が、それに応える晴日が・・・また、苛ついた。



「石田、だっけ?さっきの人」
「あ?ああ、そうだけど?」
「随分仲良さそうだったね?」
「あー、まあな。中学校から一緒だし今も同じクラスだし。あれだな、いわゆる親友ってやつ」
「ふーん・・・」
とりあえず、晴日にとっては今のところ友達どまりか。
・・・まただ。
今、確かに俺はホッとした。
何故?
何に対して?
晴日の横に立っていた男を見てから、どうも俺はおかしい。
妙に苛々する。
晴日が違う男の話をするだけで、こんなにも落ち着かない。
・・・・・・何故?

「俺とどっちが好き?」
気がついたら、訊いていた。
すぐに意味が伝わらなかったのだろう、数秒の沈黙後に晴日が「はぁ?」と間抜けな声をあげる。
「・・・何言ってんの?お前」
・・・そんなの、俺が訊きたいよ。
思いながらも、口は止まらない。
「晴日は俺とさっきの奴と、どっちの方が好きなの?」
「何だよ、急に。そんなん比べられるもんじゃ・・・」
「どっち?」
何で、こんなにもしつこく訊いているのかが分からない。
それでも、確かめたくて仕方ないのだ。
「・・・どっちが好きとか、差つける気はないけど。・・・やっぱり石田は大切な親友だよ」
「ふーん・・・」
大切な親友。
その言葉が、思いのほかズキリとくる。
晴日は言葉を選んだつもりだろうけれど、どちらが好きかをハッキリ言ってのけたようなものだ。

初めて興味を持った人間。
初めて、好きだと思った人。
手に入れたと思っていた。
最愛の妹を盾に取ってまで体を自由にして。
それだけで満たされていたはずなのに。
何で、こんなにも心が揺さぶられる?
・・・いつの間に、こんなにもはまっていたのか。

「大体何だってんだよ。いきなり変なこと訊いてきて」
「気になったから」
「気になった、って・・・何で?」
「それ以上は自分で考えな。まあ、すぐ分かると思うけど?」
何の話かまったく分かっていない様子の晴日をちらりと見ながら、痛切に思う。
あれだけ嫌っているくせに、それを忘れたみたいにさっきのように話しかけてくるのだ。
そもそも誰かを憎むといった感情が、晴日の中にはないのかもしれない。
そしてきっと、自分に向けられた好意にも鈍感な晴日だ。
特別なものは、まだきっとない。
随分と都合の良い話だけど、それならばと考える。
諦めるのはまだ早い。
欲しいなら、本気で手に入れるまでだ。
そう、今度は心までも。







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05.08.29




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