a ray of light (2)





「初めまして、桐原十夜です。これから父共々、よろしくお願いします」
父親の再婚相手の家族と始めて会った日、にっこりと笑顔で挨拶をし、そのまま和やかな雰囲気で食事が進められる。
父の相手は、どこか呑気そうだけれど、笑顔が柔らかい、優しそうな人だった。
その子どもたちも、初めは戸惑っている様子だったが、次第に明るい笑顔を見せて。
元々、素直な性格なのだろう、俺とも打ち解けた様子で親しげに話してくる。
「あー、でもこんなに格好良いお兄さんができるなんて、すごい嬉しいな」
「って何だよ朝子。俺じゃ不満だったのか?」
「そういうわけじゃないけど・・・お兄ちゃんと比べたら、そりゃあね?」
「こんにゃろ・・・まあ、俺も弟が出来たのは、嬉しいけどな」
妹を軽く睨んでみせて、それから、また笑う。
表情が面白いくらい、くるくる変わる。
自分とは対極に位置する存在。
第一印象は、それだった。



1ヶ月後、新たな家族が家にやってきた。
新しくできた兄は、とにかく見ていて飽きなかった。
相変わらず表情はくるくる変わるし、その分、感情も顔に出やすいから分かりやすい。
半年しか違わないのに、どうにか「兄」になろうとしているところもおかしかった。
少しでも早く打ち解けようとしているのか、事あるごとに近寄ってきては色々な話をする。
「あ、十夜。お前、この意味分かる?」
「どれ?・・・ああ、これはその例文とほとんど構造同じだよ」
「ああ、そっか!はー、なるほどなぁ。ありがとな、助かった」
「どういたしまして」
素直に感心して、にっこりと笑みを向けられる。
こんなやり取りも、自分でも驚くことに、別に苦ではなかった。
こうも単純な兄が、今まで周りにいなかったタイプで面白かったのかもしれない。
だけど、慣れた笑みを浮かべながら、それでも初めて会った時から思うこと。

・・・・・・この笑顔を、壊してみたい。

自分でも不思議なほど、歪んだ感情。
晴日を見ていると、不思議なくらいに楽しいのに・・・傷つけたくなる。
距離が近くなるにつれて、高まる気持ち。

それが何なのかを自覚するのは、それから一月ほどたった頃だった。



「どうしたの、晴日?」
忙しい両親が週に一度は作ろうと頑張っている、家族揃っての夕飯時。
いつもなら誰よりも笑顔を見せていそうな晴日が、どこか暗い顔をしていた。
何かあったのかなんて、柄にもなく気になって。
・・・それが、間違いの始まりだったのかもしれない。

「・・・疲れないか?」
「え?」
「いや、何か無理してる気がして。何て言うか、本当の自分を隠しているみたいな。義父さんにも、俺たちにも」
唐突に言われた言葉に、瞬間何も考えられなくなる。
それから自然に生まれたのは・・・小さな笑み。
「凄いね、晴日。驚いた。そんなこと言われたの、初めてだから」
「じゃあ・・・」
「うん、9割正解」
少し、動揺しているかもしれない。
まさか、こんなに単純そうで、こんなにも鈍感そうな義兄に気付かれるとは思わなかったから。
別に無理はしていない。
人当たりの良いフリをするのにも慣れたし、負の感情を出せる場所も持っている。
それに・・・本当の自分がどんななのか、自分ですら分からない。
自分で訊いたくせに、肯定されたことに驚いている晴日にもう一度笑いかけて、自分の部屋へと向かう。
「何でっ、家族だろ!?何で隠す必要があるんだよっ」
後ろから追いかけてきた声に、思わず足を止める。
今にも泣きそうな、必死な声。
・・・何で、他人のことでそんなに必死になれるんだよ。
何で、そんなにも・・・―――
「急に全てさらけ出せとは言わない。でも、家族なら・・・っ」
続く言葉は、もう聞こえなかった。
それ以上、聞きたくなかったのかもしれない。
衝動的に壁に押さえつけて、口を口で塞ぐ。
瞬間、強張る身体に、自分が今どんな行動を取ったのかを知る。
自分で驚いて、ゆっくりと離れれば、そこには何が起きたのか分からないという顔をしてこちらを見ている晴日の顔。
ああ、本当に分かりやすいくらい顔に出るな。
こんな時に、そんなことを思って、くすりと笑みを零す。
もし、この手で本当に壊したら・・・どういう顔をするのだろう?
「家族なら、何?俺を癒してくれんの?」
「なっ・・・」
「そうだな、じゃあ全て曝け出せるように、俺を愛してよ。ねぇ、お兄ちゃん?」
すらすらと出てくる言葉たち。
それらを向けられた晴日の表情は、驚愕と恐怖。
「ああ、別に嫌なら妹でもいいんだけどね。可愛いし、どうせなら女の子の方が色々と楽しいし?」
「あ、朝子に、何かする気か?」
「さあ、それは晴日次第かな?とりあえず部屋においでよ。ここじゃいつ聞かれるか分からないし。まあ、可哀想な弟を助けてくれる気があるならだけど」
部屋の扉を開いて、綺麗に笑いかける。
顔面蒼白な晴日が、震えながら小さく一歩近づいてきたのを見て、この手に落ちたことに笑みを深めた。







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05.08.21




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