予想外のプレゼント  (前)





今の恋人以外、誰かと付き合ったという経験がないから正確に比べることはできないのだが。
それでも、やはり世間一般は気になって、つい比較してしまうものだ。




「先輩はクリスマスどうするんですか?」
サークル室で授業の空き時間を潰していた俺に、同じく時間を潰していた後輩が突然話を振ってくる。
「クリスマス?や、特に予定は・・・」
「またまた〜!先輩、彼女いるんでしょ?どっか行く予定とかないんですか?」
つい先日、ずっと好きだった子に告白されて、晴れて付き合い始めたばかりという後輩だ。
嬉しくて、とにかく話したいのだろう。
自分たちはクリスマスはどこに行くのだとか勝手に予定を話していたのを何となく聞いてやっていたのだが、 まさかこっちに話をふられるとは思ってもみなかった。
確かに恋人はいるけど・・・彼女じゃないしなぁ。
そんな口には出せないツッコミを心中でしながら、予定がないのも事実なのでその通り伝えるのだが。
幸せ絶頂の後輩には、照れ隠しとしか伝わらなかったらしい。
それならと適当に笑ってごまかしを試みるが、それも全く効果がなかったようだ。
「そうは言うけど、本当に予定がないんだよ」
「だってもうすぐ12月ですよ?そろそろ何か予定たてとかないと。どこも予約だらけになっちゃいますよ?」
だから何で俺に彼女がいるってことで話が進んでるだよ。
そう思いながらも、もう一方で後輩の言葉が引っかかっている自分もいた。
確かに、クリスマスの予定なんて早めに立てておかないと当日にはどうしようもないかもしれない。
でも、智はそういうところ無頓着だろうし。
人込みは嫌だとか、そういうこと言うんだろうなぁ、きっと。
「それに早くしないと、彼女も予定入れちゃうかもですよ?」
「ご忠告どうも」
からかい半分にいわれた言葉を適当に返しながらも、急に焦りが生まれる。
漠然とクリスマスは一緒に過ごすつもりでいたけれど、智はどう思っているのだろうか?
俺から何か言わないと、何も考えていないとか・・・有り得るな。
いつの間にかまた自分の話になっている後輩の話を聞き流しながら、麻斗は今この場にいない恋人へと想いを巡らす。
・・・まあ、もう少しクリスマスに近づいてきたら、智も言い出すよな。うん。
妙なところで負けず嫌いな麻斗はそう結論付け、もうしばらく後輩の惚気に付き合ってやることにした。







そして、智からの連絡を待ちわびて・・・すでに今日は、天皇誕生日。
その間、全く会わなかったわけではないが、クリスマスの話は結局出てこなかった。
何度も自分から言ってみようかとも思ったのだが、変に意地を張って結局言い出せないまま既に前日。
今日は特に会う予定もないので、このまま当日を迎えることになるだろう。
・・・そりゃ、僕は別にキリスト教徒じゃないけどさっ。
クリスマスを祝う必要性は全くない。
ないのだが、それでもクリスマスと言えば恋人にとって一大イベントではないだろうか?
しばらく憤慨してから、急に冷静になる。
「・・・やっぱり、連絡しようかな」
このまま一人で過ごすのは、あまりに寂しすぎるような気がする。
それに、できることなら一緒に過ごしたいのだ。変に意地を張って不意にすることはない。
そう思って、とにかく携帯を取り出し通話ボタンを押す。
『もしもし?』
3コール目で聞こえてきた智の声に、妙に安心する。
『麻斗?』
ホッと息を吐いていると、何も言わないのを不思議に思ったのか智の声が聞こえてくる。それに慌てて、返事を返す。
「あ、ごめん。えっと、今、大丈夫?」
『うん、平気。どした?』
「えっと、明日なんだけど・・・」
『ああ、どこか行きたいとこある?』
切り出した途端に返された言葉に、思わずムッとする。
それはつまり、俺がこのまま言い出さなかったら、どこにも行かないつもりだったということだろうか。
「別に、行きたいとこはないけど・・・」
『じゃあ、明日はとりあえず俺の部屋に来てもらっちゃっていい?』
「え?」
智の予想外の言葉に、つい間の抜けた声を上げてしまう。
明日はって、会ってくれるのだろうか?何か当然のように言ってたけど・・・
疑問に思っているが、智は気にせずに話を続ける。
『夜の予定は考えたんだけどさ、それまでは全然決めてないから。麻斗来てから決めようかなって』
一人、携帯を握りしめて唖然としている俺を気にせず続けられる話に、都合の良い聞き間違いでないことを知る。
すると、智も同じように考えていてくれたということで・・・
『麻斗?どうした?』
「ううん、何でもない。じゃあ明日は何時頃に行けばいい?」
現金なことに一瞬で気分が浮上した俺は、上機嫌のまま電話を続けたのだった。







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04.12.25




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