in bygone days (2)





拓弥が川崎家に引き取られてから、俺と拓弥は今まで以上に近くにいて、まるで本当の兄弟のように生活していた。
元々、川崎家によく来ていただけに、拓弥が慣れるのも早かったし、家族が一人増えたことで家自体も明るくなった気がした。


そんな生活が少しだけ変わったのが、一緒に暮らし始めて1年と少したった頃。
大学のキャンパスの都合で、実家から通うのはきつくなった俺は一人暮らしをすることになった。
だが、それを話した途端、拓弥が一緒に行きたいと懇願した。

「やだっ、俺は恭ちゃんと一緒がいい!」
「そんなこと言ったって、お前はまだ中学生だろ。学校はどうするんだ?」
「そうよ、拓弥くん。それに拓弥くんがいてくれたら、おばさん達も寂しくなくて嬉しいんだけどな」
「う〜・・・」

拓弥は家から徒歩15分の公立中に通っている。
俺についてくれば、通うのが困難になることは分かっているのが、拓弥はそれでも俺と離れづらいと言う。
迷惑をかけたいわけじゃない。
だけど、心は納得できないのだろう、唸ることしか出来ない。
俺としても離れたいわけじゃないし、一緒にいたいと言われて正直かなり嬉しいけれど。
こればかりは仕方がなく、うまく言葉が見つからない。
だけど、あまりにも必死な様子に、少しくらい大変でも実家から通おうかとも考える。
「・・・分かった。じゃあ、こうしよう」
考えを口にしようとした瞬間、今まで傍観していた父さんが口を挟む。
「恭平の大学と近い高校を受験すればいい。そうすれば何の問題もなく恭平と一緒に暮らせる」
「え・・・?」
「その代わり、今年1年はうちで我慢する。それでどうだい?」
「・・・」
「まあ、もし拓弥くんがどうしてもうちが嫌だというなら、考えるけれどね?」
少し茶化して言う恭平の父に、拓弥は慌てて否定する。
「そんなことはないっ!・・・ただ、恭ちゃんの側にいたかっただけで・・・」
川崎家が嫌なんてことはない。
言い表せないほど、大好きなのだ。
ただ、恭ちゃんと離れることが嫌なだけ。
必死で説明する姿が可愛くて、思わず両親も俺も笑ってしまう。
「うん、分かってるよ。じゃあ拓弥くんも恭平も、それでいいね?」
そう優しく問われて、拓弥は頷くしかなかった。
「よし、じゃあ決まりだ。なに、1年なんてすぐだよ」
まだ少し不満が見える拓弥の頭を軽く撫でて、父さんは「それに、」と続ける。
「離れてみると、また違うものが見えてくるものだよ」

父さんが何を言いたかったのか、そのときの俺にはまったく分からなかったけれど。
拓弥は何かが伝わったのか、父さんの言葉に神妙な顔をして頷く。
「絶対、高校受かって、恭ちゃんの側に行く」
決意したように、拓弥は言い切る。

その時の顔を、俺は何故か忘れることが出来なかった。








それから1年。

思えば出会ってからこんなに離れていたのは初めてだった。
< 長い休みの日には帰ったり、拓弥が遊びに来たりもしたが、それも年に何度かで。
何となく一人が寂しくて、そうぽつりと誠一にこぼせば、
「ホームシックか?まだまだお子ちゃまだなぁ」
と、からかわれる始末。
そんなことないと言いながらも、ちょくちょく電話したりもした。
だが、それは両親よりも拓弥が気になったからで。
俺がいなくても大丈夫かと、ただただ一人で不安になっていた。
だけど、電話での声も、会った時も、拓弥は今までどおり明るいもので。
ホッとする反面、何だか寂しい気持ちにもなった。

「早く高校生になりたいな」
「この間、初めてA判定もらったよ!」

時々出る高校の話題に、拓弥がまだ俺を忘れていないことを知って、一人で喜んで。
”弟”離れできていないのは自分の方だと、苦笑する日々が続いた。



「恭ちゃん!俺、高校受かった!!」
そう嬉しそうに電話してきたのが、3月の頭。
かねてからの予定通り、拓弥もまた川崎家を出ることなった。
「寂しくなるわねぇ」
そう言いながらも拓弥の頑張りを一番近くで見てきた母さんは笑顔で。
「ちゃんと拓弥くんの面倒をみるんだぞ。拓弥くんも何か困ったことがあったら遠慮せずに言ってきなさい」
父さんはそう俺と拓弥に言ってきかせた。
拓弥は本当に嬉しそうに笑って、早々に引っ越しの準備を進めて。
俺もまた、拓弥と暮らせるのを純粋に喜び、その日が来るのを待ち望んだ。







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05.07.18





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