俺とお前の仲 (6) |
気になりだしたら、仕方ない。 こんなことどうしたって認めたくないけれど、事実なんだから認めざるを得ない。 何でなんか分からない。ただ、本当の姿を知りたいと思う。 最近の俺は、どうしてもヤツが気になって仕方ないのだ。 「くぁーっ、やっと終わった!後は夏休み待つだけだ!・・・なのに、何でそんなに呆けてるのかね?二宮くんは」 「んー・・・気が抜けてんだよ」 期末試験も全教科終了し、渋谷はそれはもう上機嫌だ。 渋谷だけじゃない、クラス中がどこか浮き足だっている。 いくら受験が近づいているとは言え、大抵の学生は夏休みは嬉しいものだ。 それは俺だって例にもれず。嬉しいはずなんだけど、先週から何かずっとモヤモヤしてて、どうも気が晴れない。 「お、また佐野、じーさまに捕まってるぞ」 渋谷の呟きに顔を上げれば、じーさまが廊下で必死に佐野を追いかけていた。 この光景も、だいぶ見慣れてきたものだ。 どれだけ無茶な進路希望出したんだろうなんて話したりしているけど、本当の理由を知っているヤツは誰もいない。 俺も本人にそれとなく聞いてみたが、「もー、じーさまったらしつこくって。そんなに俺のこと好きなのかね?」の一言で終わってしまった。 「悩んでばっかだとハゲるぞ?」 「は?何言ってんの、渋谷」 「二宮、ちょっと良いか」 渋谷の意味不明な言葉が気になるが、担任に呼ばれてしまっては仕方ない。 「渋谷、悪い。ちょっと待ってて」 「ほいよ。山ちゃんからのご指名なんて珍しいな」 「何かした覚えはないんだけどな」 首を傾げながらものろのろと立ち上がり、とにかく俺は担任のもとへと向かった。 山ちゃんこと山本先生の後に大人しくついていけば、職員室の隣にある応接室、通称面接室に通された。 向かい合って座ったものの、何を言い淀んでいるのかなかなか話し始めない担任に、ますます何をしたのかと考えるが特に思い付かない。 「あのー・・・俺、何かしました?」 「いや、二宮のことじゃなくてな・・・ちょっとまあ聞きづらいんだけど」 「はぁ」 「二宮は佐野と仲が良いだろ?それで、佐野から何か聞いてないかと思ってな」 「何かって・・・?」 「例えば、進路のこととかな。話したりしてないか?」 正直、ご希望に添えるほどの仲でもないし、逆に佐野の話はこっちが聞きたいくらいだ。 というか、担任にまで仲良しに見られていることが驚きだ。 あいつの発言の影響力は凄いものだなんて、変なところで感心してしまう。 「まあ一応俺らも3年ですから、それなりに話しはしますけど・・・」 進路の話なんて一度はぐらかされて以来していないが、もしや山ちゃんから何か情報がもらえるかもしれないとなると何となく含みのある言い方をしてしまう。 予想通り山ちゃんはのってきたが、若干期待のこもった目で見られて、ちょっとだけ胸が痛む。 「あいつ、よくじーさま・・・いや、原先生に呼び出されてますよね?」 「原先生は進路指導担当だからね、心配されてるんだよ」 「心配するようなことしてるんですか?」 「まあな。・・・ここだけの話だが、佐野は進路調査表を毎回白紙で提出してるんだよ。何か悩んでるのかと面談もしたんだが、特にないの一点張りでな」 それで仲が良いと思われる俺を呼び出して、聞き出そうとしているのか。 今年29歳の山本先生は、確か初めて受験生の担任を受け持ったという話だ。 何を考えているのか分からない生徒に加え、きっとじーさまからも尻を叩かれているのだろう。 ため息をつく山ちゃんに少しだけ同情するが、俺としても大した情報はない。 「広いとこ行きたい、なんて言ってましたけどね」 あまり参考にならないだろうと思いながらも口にすれば、山ちゃんはもう一度深いため息。 「そうか、じゃあやっぱり向こうに戻る気なのかな」 「向こう?」 「ほら、佐野は高校入るまで北海道にいただろう?やっぱり恋しいんじゃないかな」 だろう?なんて言われても、そんなこと初耳だ。 もっと詳しく聞きたいところだが、そうすれば大した仲じゃないこともバレてしまうし、山ちゃんも余計なことを話したと気に病むだろう。 結局何も言えなくて黙っていると、考え込んでいたと思われたのだろう、山ちゃんが優しく肩を叩いてくる。 「悪かったな、二宮。俺ももう一度佐野と話してみるよ。今日は帰って良いぞ」 「あ、はい。失礼します」 促されて面接室を後にする。 扉を閉める直前に見えた山本先生は、頭を抱えるようにして考え込んでいた。 ・・・俺も、頭抱えたい気持ちだよ。 さっきまで聞かされていた山ちゃんのため息がうつったのか、俺も深いため息をついた。 「おかえりー。山ちゃん何だった?」 「あー・・・進路のことで、ちょっと」 教室に戻ると、約束どおり渋谷が待っていてくれた。 他の連中は浮かれ気分のまま早々に帰ったのだろう、教室にいる人数は極端に少ない。 「なあ渋谷・・・佐野ってどこの中学だか知ってる?」 「お前が知らないのに、俺が知ってるわけないじゃん」 何気に勇気を出して訊いたのに、たった一言で終わってしまった。 まあ確かに渋谷は中学時代から俺とつるんでるわけだから、情報も大体似かよっているのも仕方ないのだけど。 「気になるならさ、本人に聞けば良いんじゃね?」 「や、別にそこまで気にしてるわけじゃ・・・」 「そ?じゃあ俺は知らないよ、夏休み中ずっと考えることになっても」 ・・・そんなことないと、否定できないのが情けない。 「そーいやお前が山ちゃんに呼び出された後にさ、佐野がじーさまに拉致られてたんだよね。行き先はたぶんお決まりの進路指導室。・・・そろそろ話も終わる頃なんじゃね?」 それはつまり、気になるなら今すぐ聞いてこいということだろうか。 恐る恐る渋谷を見れば、にっこりと微笑まれる。 それはもう、いっそ不気味なほどで・・・ 「うじうじ悩んでんのは見てるのも嫌だからな、さっさと行って解決してこい」 背中を蹴られるようにして教室を追い出され、しばし呆然とするが、教室の中から渋谷が指でさっさと行けと指示してくる。 この状態のヤツに逆らっても敵わないことは、今までの経験上、身に染みて分かっている。 結局、俺の足は進路指導室へと向かったのだった。 >>NEXT 07.07.29 |