俺とお前の仲 (4) |
「いいか、夏こそ勝負なんだぞ。夏を制するものが、受験を制する!そして、その前にある期末試験、これも重要な要素になるからして・・・―――」 進路指導の先生が、どこの塾講師だよと言うようなことを鼻息も荒く話しているのを聞きながら、肝心の生徒たちは欠伸をかみ殺すのに必死になっている。 じーさまと陰で生徒たちに呼ばれているこの進路指導は、口うるさいのに加えて話が長いと有名な先生だ。 本人は、何十年も何百人と言った生徒を立派に指導してきたという誇りに満ち溢れているが、話す内容はいつも同じようなこと。耳にたこができそうで、面白みも何もない。 俺も例に漏れず見えないように欠伸をする。 周りを見ればすでに船漕いでるヤツもいるくらいだから、欠伸なんて可愛いものだろう。 「なーなー。試験が大事ってんなら、無駄に学年集会なんてやってないで、勉強に時間あてれば良くね?」 横からこっそり耳打ちされるのに、俺は大きく頷いて応える。 まあ実際に勉強に時間あてられたからと言って、真面目にやるとは思えないけれど。 いい大学行こうとしているヤツらからしたらそりゃもう大事な時期なのかもしれないけれど、俺も俺の周りのヤツらも自分のレベルで行けそうなとこに行けば良いなんて舐めたスタンスだ。 来週に控えた期末試験さえ乗り越えてしまえば、試験休み+待ちに待った夏休みだ。 正直進路のことよりも、夏休みをどう遊んで過ごすかの方が重要課題なわけで。 もちろん、それなりには勉強もするつもりではある。一応、受験生だし。 でもじーさまが言うように、夏が勝負だ何て気合入れる気は毛頭ない。 一番一緒に遊ぶことになるであろう渋谷を見れば、相当眠いのだろう身体がわずかに横揺れしている。 そして、その隣に座っている佐野は・・・ 何か、意外と真面目に聞いてるな? 斜め後ろから見てる限りでは表情までは見えないけど、なんていうか雰囲気?それが真面目な感じ。 そういや一度も聞いたことないけど、あいつ進路とかどうする気なんだろう。 ひとつ減らしたって言っても、まだバイトはやってるんだろうし・・・ 「何見てんの?」 「あ?・・・や、渋谷も眠そうだなぁ、なんて」 「あー、ホントだ揺れてる揺れてる」 その場はとりあえず笑ってごまかして。 誰も俺が見ていたヤツが誰なのかなんて気が付かない。 自分でも分からないくらいなのだから、無理もない話だけれど。 「あー、やっと終わった。ったく、じーさまは話長いんだよなー」 「渋谷は大学とか、もう決めてんのか?」 「なんだよ二宮まで真面目な話か?んー、まあ一応自分のレベルは見極めてるつもりだけど、具体的にはまだかな」 「ふーん」 みんな結構、考えてるもんなんだな。俺なんて自分のレベル自体も良く分からない。 試験の点数だって、その時々で違うくらいだし。 さて、どうしたもんかな。 「なになに、二宮は進路悩んでる組?」 「まあ、とりあえず大学行かせてもらえるみたいだから行こうとは思ってるけどさ。正直、何がしたいのか分からねぇ」 「俺だって似たようなもんだって。でもとりあえず決めとかないと、佐野みたいにじーさまに呼び出されるぞ」 「佐野?何の話だ、それ」 「あれ、お前佐野から聞いてないの?あいつ、前回の進路調査の後からじーさまに呼び出されてること多いじゃん」 そんな話は初耳だ。 俺は多分相当の間抜け面で「何で?」なんて訊いてしまう。 「や、俺だって別に佐野から直接聞いたわけじゃないけどさ。でも放課後とかよく指導室行ってるぜ?」 言われてみれば、あいつは毎日放課後になると早々に教室を出て行く。 それはバイトの時だけじゃなく、一人で教室に残るときも一度は出て行っている。 俺が教室に戻る前に指導室に行っていたとしても、おかしくはない。おかしくはないのだが。 「何で渋谷は知ってんだ?」 「だって何回か見たし。てか意外と話してないのな?あんな仲良しなのに」 「だから別に仲良しなわけじゃないって」 否定しても、「はいはい」と笑って流されるだけで、俺は一人で膨れるしかない。 でも、思い返してみると佐野のことなんて何も知らない。 放課後、色々話したりもするけど大した話なんてしないし、あいつは自分のことあんまり話さないし。 「でもさ真面目な話、気になるなら訊いてみろよ。大したことじゃなきゃ教えてくれんだろ」 「まあ、そうだけどさー」 気にならないと言ったら嘘になる。 だけど、気になると認めるのも何か悔しい。 ・・・・・・まあ、話の流れでそうなったら訊いてみよう。うん。 「何か俺の顔についてる?」 「へっ!?や、何もついてないけど」 「そう?だって二宮、さっきからずっと俺の顔見てるから。何か言いたいことあるなら遠慮なくどうぞ?」 俺はそんなにわかりやすいのだろうか。 にっこりと笑みを向けられながら、コホンと空咳をひとつ。 それくらいでごまかせるとは思ってないけど、何となく気まずいしさ。 でもまあせっかくの機会は活用しなくちゃだよな。 「や、まあ、別に大したことじゃないんだけど」 「うん」 「・・・・・・佐野は、さ・・・進路どうすんだ?」 「んー、そうだな。広いとこ行きたいなー」 「・・・お前、それは進路じゃねぇだろ・・・」 何気に勇気だして訊いたんだけどな。 がっくりと項垂れてみても、佐野はにこにこと笑ってるだけ。 「何がおかしいんだよ」 「や、二宮が俺のこと気にしてくれたのかなって思ったらね」 「別に、ちょっと気になっただけだし。ほら、みんなどうしてんのかなぁって、気になる時期じゃん?」 「うん」 にこにこ、にこにこ。 ・・・ちくしょう、ホントこいつムカつく。 >>NEXT 07.07.16 |