俺とお前の仲 (3) |
「何か最近仲良いわよね〜。渋谷クン嫉妬しちゃうわ」 「・・・気持ち悪いから、その言い方よせ」 心底うんざりと言ってやれば、楽しそうに笑ってくる。 わざわざ身体をしねらせるという凝りっぷりだが、全く似合わないヤツがやると気持ち悪さが増すだけだ。 「やっぱり?まあそれは置いといてさ。マジ最近は特に仲良くやってんじゃね?何かあったのか?」 「特に何も」 渋谷には素っ気無く言いつつも、正直何もなかったとも言えないなと思う。 いつぞや一緒にラーメンを食べに行ったときは大して中身のない話だけで終わったし、その翌日も特にいつもと変わることはなかった。 だけど、それから放課後すぐに帰らない佐野を見かけると、何故かすごく気になって仕方なくなった。 どうせ大した意味もないんだろうとか、いるかどうかなんて分からないとか思うのに、足は自然と教室に向かって。 予想通りというか、果たして佐野はそこにいた。以前感じた、いつもと違う様子で。 だけど俺に気が付くとすぐに元通りになって、にこりと笑いかけてきたのだ。 「あれ、二宮じゃん。今日も忘れ物?」 「・・・そういうお前は、何してんだよ」 「んー、何となく。今日もバイトないしさ」 聞けばバイトが休みの時は大抵下校時刻まで学校で時間を潰していると言う。 何やってんだよと思うけれど、それに付き合ってしまう俺も何やってんだよと思う。 どうせ時間つぶすだけならと、一緒にラーメンを食べに行ったりもした。 そんなことを繰り返しているうちに、確かに一緒にいる時間は増えた。 だからと言って放課後以外は今までと変わらないし、渋谷が言うように仲良いというほどのものではないはずだ。 そう、今までと変わらず、関係はあくまでただのクラスメート。 「あ、二宮。佐野どこにいるか知らん?」 「俺が知るわけないだろ」 「えー、だってよく話してっから仲良いんかと思ってさ。知らんなら良いや、悪かったな」 そう言い残して去っていくクラスメートを見送ってから、渋谷に視線を送ればにんまりと笑われる。 「ほら、俺が言った通りだろ?」 いや、そんな勝ち誇った顔されましてもね。 「・・・いつからそんな話になってんだ?」 「んーと、3年なってすぐだな。ほら、誰とでも愛想良く話すわりに特定の友だちがいるわけでもない佐野が、お前には「俺とお前の仲」発言してるし」 「どんな仲なのか俺も分からないのに?」 「俺に突っかかるなよ。今まではさ、お前の態度もどっちかってーと冷たかったし、佐野の発言なんてみんな大して気にしてなかったんだけど。最近はお前の態度も心なしか柔らかくなったし、こりゃホントに仲良いんかねってのが見解。で、実際どうなの?」 「確実にお前といる時間の方が多いと思うぞ」 「それは光栄。まあさっきので分かったように、俺はともかく他の連中は誤解してるってわけだ。嫌ならキッパリ否定しとけよ」 別に仲違いしてるわけでもないし、誤解されたからって何か不都合があるわけじゃない。 だから構わないといえば構わないのだが・・・原因は明らかに佐野側だよな。 そもそも、あいつがあんな変なこと言い出さなければ良かったわけだし。 ・・・・・・何か腹立ってきた。 「とにかく、俺とあいつはただのクラスメートだ。それ以上でも以下でもない」 キッパリと言い放ったは良いが、聞いているのは渋谷のみ。 「だから俺にだけ宣言しても無駄だって」 結局また笑われた。 最近は佐野絡みでからかわれてばかりいる気がする。 別に良いんだけどね、俺が佐野と関わらなければ良い話だし。 ―――・・・って、思ったはずなのに。 「また今日もバイト休みなのか?」 「お、二宮だ。やほー」 放課後なかなか帰らない佐野を見て、結局また俺も残ってしまった。 何やってんだかと自分でも思うし、実際何度も帰ろうと思ったのに、またポツリと一人でいる佐野を想像したらどうしても帰れなかった。 「お前、最近バイト休みばっかじゃないか?」 「ああ、1つ辞めたからね」 どうりで放課後居残り率が増えてたわけか。 ってか、辞めたなら素直に家帰れよ。 そう言ってやりたいのは山々だが、何となくそれは言いづらい。 何回か話しているうちに感じたのだが、どうも佐野は家にいるのが嫌みたいだから。 理由は訊いてないけれど、ただ毛嫌うというのではなく、居心地が悪いとかそんな感じ。 気にならないと言ったら嘘になるけど、こういうのは本人から話してくれるまで突っ込むことではないと思う。 「クビになったか?」 「ひどいな、自主的にだよ。元々時間潰しだったからね、今は二宮が付き合ってくれてるからいらないなと」 「言っとくけど、俺だって毎日暇なわけじゃないんだからな。今だって、ただの時間潰しなんだから」 「分かってるって。それでも俺には有り難いってことですよ」 今までは例え時間を持て余していたとしても一人では滅多に残ってなかった俺が言っても、まったく説得力はないだろう。 きっとこいつも何となく勘づいてるとは思うけど何も言わないし、俺も強がりしか言わない。 俺は何でここにいるんだろう? 佐野に同情して? そんなもんするほどこいつのことを知ってるわけじゃない。 初めて気が付いたときの、違和感が何となく残っているから? 知らないヤツみたいで、妙に怖かったのを覚えてる。 外を眺めているだけだったのに、そのまま飛び出してどこかに行っちゃいそうな感じ。 まあここは1階だから飛び出したところで何の問題もないけど。 「まあ良いや。暇なら付き合え」 「ラーメン?」 「今日は牛丼!」 意気込む俺に佐野は笑って、それでも迷わずついてくる。 その顔は、いつも通り俺の知っている佐野。 でも最近少しだけ思う。 いつも通りの佐野って、何なんだろう? >>NEXT 07.06.23 |