俺とお前の仲 (2) |
いつものように渋谷たちとダラダラくだらない話をしながらの帰り道。 駅で定期を出そうとカバンの中を覗いたときに、それに気が付いてしまったのが、そもそもの始まりだったと今にすれば思う。 「あっ、ヤベ」 「どした?」 「プリント忘れた。アレ明日提出だよな」 「あー、例の進路調査?親に署名してもらわなきゃならねぇって変な話だよなー」 「仕方ない、取りに戻るから先帰ってて」 「ほいよ。じゃあなー」 軽く手を挙げて去っていく渋谷たちに別れを告げて、一人今来た道を戻る。 よりによって、なんで駅についてから気が付くんだか。もっと早く気が付いてりゃ戻るのも楽だったのに。 ・ ・・いや、まだ電車に乗ってなかっただけマシか? そんなことを思いながら、学校へ向かう。 たまにすれ違う連中は、みんな自分とは逆方向へ進んでいるという事実。 自業自得とはいえ、こんな空しいことがあるだろうか。 「もう残ってんのは部活あるヤツくらいかな」 とはいえ、部活はまだまだ終わらない時間だから、帰るときもまた一人だろう。 別に一人なのは構わないけれど・・・また空しくなりそうだ。 「何やってんの?お前」 「・・・なんだ、二宮じゃん。どしたの?」 「いや、それは俺のセリフだから」 それもそっか、なんて笑う姿はいつも教室で見るのと同じなのに、妙な違和感がある。 俺が来たとき佐野は、夏も近づいてまだ外は明るいとはいえ電気もつけずぼんやりと外を眺めていた。 声をかけるまで俺が教室に入ってきたことさえ気付かず、たった一人でただ外を見てるだけ。 いつもは放課後になればさっさと帰ってるのに、今日に限って何やってんだか。 「なんか面白いもんでも見えんのか?」 一応聞いてみたものの、ここから見えるもんなんて、植木とグラウンドぐらいしかない。 そのグラウンドでは今はまだ野球部が大声をたてて部活動に励んでいるが、その光景も見慣れたもので面白いとは到底思えない。 「いや、見えないなぁって思ってたの」 「は?」 「でもさすが二宮だな。おかげで気が晴れた」 ・・・やっぱり意味が分からない。 話してると疲れてくるのに、何となくこの場を離れづらくて、そのまま佐野の横に陣取る。 「あれ?付き合ってくれるの?」 「・・・帰っても暇だし」 「そっか、ありがとなー」 いつもの佐野だ。 さっき感じた違和感もない。 ・・・って、何ホッとしてんだ俺は。 「お前、いつも何であんな急いで帰ってんの?」 「んー、俺バイトしてっから」 「じゃあ今日は休みか」 「そ。いきなり休みになっちゃってさ、どうしようかと思ってたの」 どうしようも何も、俺だったら喜んで遊びに行く。 それかさっさと家帰ってダラダラ過ごす。 ・・・こいつ、誰とでも楽しそうに話しているけど、もしかして本当に友だちいないのか? 「・・・やることないならラーメンでも食ってくか?安いのに旨いとこ知ってるし」 「お、良いねー。さすが二宮だわ」 だから何が「さすが」なんだよ。 とりあえず心の中だけで突っ込んでから、俺は妙に楽しそうな佐野と教室を後にする。 俺の余計なお世話と紙一重な心配は見事に外れ、その後のあいつはどこまでも上機嫌だった。 「二宮―、そこのカバン取ってー」 「だから自分で取れっつってんだろ!」 「っと、悪いな。じゃあなー」 文句言いながら毎回ぶん投げてやる俺もどうかと思うが、一度あのにやけた顔面に思いっきりぶつけてやりたいという欲求の方が強いのだから仕方ない。 毎回毎回、上手い具合にキャッチしやがって。 むしろ回を増すごとにうまくなってないか?くそっ、腹立たしい。 「いやー、相変わらず佐野は元気だねぇ。俺、あいつが大人しいのなんて見たことねぇよ」 それこそ相変わらず面白がっている渋谷の言葉に、ふいに昨日見た佐野の姿が浮かぶ。 あのときの佐野は、ただ窓の外を眺めていただけなのに、そのままどこかに消えてしまいそうな空気をまとっていた。 話しかければ元通りだったけど、それでもいつもより・・・何て言うのかな? 穏やかな感じだったように思う。 ・ ・・そういや、まともに二人で話したのなんて昨日が初めてだ。 いつもさっきみたいな適当な会話しかしたことないし、そもそも二人になることがなかった。 「二宮?どした?」 「あー・・・いや、何でもない」 何となく。ホントに何となくなんだけど。 昨日見た佐野が、本当の佐野なんじゃないだろうかなんて思う。 憎めないけど掴めないヤツなんて言われるのも、佐野自身にズレがあるからで。 誰にも本当の自分を見せないから、明るいし誰とでも話すわりに特定の誰かとつるむこともないんじゃないか? ―――・・・って、俺は何をマジに考えてんだか。 「・・・俺には関係ない話だしな」 軽く頭を振って、意識を散らす。 渋谷たちが始めたくだらない話に参入して、後はいつもの日常に戻った。 >>NEXT 07.06.05 |