恋人たちの気持ち (7) |
こういう時というのは、やたらと日にちが経つのが早いものだ。 柘植の様子はいつも通りなのに、僕だけが一人でドキドキして、うまく目が合わせられない。 こんなんでは柘植が気にするのは分かりきっているから、できるだけ普段どおりを心がけているのだけど・・・やっぱり、ちょっと不自然かも。 「相田くん、何かあった?」 「え?」 「顔、百面相だよ?」 大塚さんの言葉に、ものすごく恥ずかしくなって、思わず両手で顔を隠してしまう。 「まあ表情も明るいし、前よりは良いか。・・・あれから、あいつには?」 「あ、うん、大丈夫だよ」 心配してくれる大塚さんに、笑ってみせる。 須田くんは、あれ以来僕の前に現れない。 理由は分からないけれど、正直ホッとしている。 もし今、彼に・・・彼でなくても誰かに否定されたら、せっかくの決心がにぶりそうだから。 一人でドキドキしている間に、あっという間に土曜日になっていた。 「午前中は練習あるから、終わったら和宏んち行くな」 昨日、別れ際に笑顔とともに向けられた言葉。 一人で恥ずかしくなって、小さく頷いて「待ってる」と一言しか言えなかった。 「・・・もう、そろそろかな」 時計を見て、誰もいない部屋で呟く。 緊張しているのが自分でも分かる。時計の針の音が、やけに大きく聞こえるくらいに。 ピンポーン・・・――― そのとき軽快に響いたチャイムの音に、必要以上に反応してしまう。 慌てて玄関まで行き、ドアを開ければ待っていた恋人の姿。 「い、いらっしゃい」 迎えた声が少しかすれたが、柘植は気付かなかったのか何も言わなかった。 「ごめん、ちょっと遅くなった」 「ううん、全然。一度家帰ったの?」 「うん。やっぱり部活の後は汗気持ち悪いから、シャワー浴びてきた」 「そ、そっか」 何気無い会話に一々反応してしまい、ひどく恥ずかしくなる。 だって何だか一人で意識してるみたいで・・・ 「あ、上がって。お茶持ってくるから、僕の部屋に行ってもらってて良い?」 「ん、おじゃましまーす」 部屋に先に上がってもらってから、飲み物を取りに台所に走る。 ・・・柘植はいつも通りだし、僕も意識しすぎないようにしなきゃ。 一度頭を振って、そう気持ちを切り替え、麦茶を持って二階へと向かった。 それからしばらくはいつも通り何気無い話をして。 どれくらい時間がたったのだろう? 日もだいぶ傾いてきたような気がする。 ふと話が途切れ、何気なく柘植を見ると、同じタイミングでこちらを見たのだろう、目が合った。 何となくそらせなくて、柘植の顔がゆっくり近付いてきても動くことも出来ず、そのまま軽く口付けられる。 「・・・もう少し、格好つけたかったんだけど」 少しして離れた先に見えた柘植の目は、最近感じていた視線と同じのもので。 カッと顔が赤くなるのが分かる。 何も言えず、ただ頭を振ることをしかできない。 「・・・出来るだけ、優しくするから」 そう優しく抱き締められるのに、震える手を伸ばして柘植の背に回した。 回された腕に、一気に緊張が高まる。 「んっ・・・」 何度か軽くキスした後にそれを深めれば、鼻から漏れる甘い声。 それだけで余裕がなくなっていくのを感じる。 ずっと進展したいと思っていたのに、結局きっかけは和宏の方からもらって。 「柘植・・・っ」 「怖い?」 涙をうっすらと浮かべているのに、それでも和宏は首を横に降る。 「なんかね、変な感じがする」 「気持ち悪い?」 「そうじゃ、なくて・・・ゾワゾワして、変・・・」 潤んだ瞳で見上げられながら、小さくそう言われるのに、ぞわりと身体に痺れが走る。 できるだけ怖がらせないように、と優しく愛撫すれば、和宏の身体もピクリと反応する。 そんな動きだけで全てを持っていかれそうになるが、和宏を傷付けないように、ただそれだけを考える。 そうしないと、欲望のままに和宏を欲してしまいそうだから。 ただでさえ初めて触れる肌の感触に、俺の理性はすでに限界が近いのだ。 やばいな・・・ 想像していたよりも、和宏に触れるということは酷く興奮した。 傷つけたくない気持ちと、自分を止められそうにない気持ちが、渦を巻いて体中を支配する。 そのまま強めた愛撫に、今まで歯を食いしばっていた我慢していたのだろう、和宏から声が漏れ始めた。 「っや、柘植・・・ん、ぁ・・・柘、植・・・・・・っ」 持て余す初めての快感に、ただ名前を呼びながら首を振る。 「和宏・・・大丈夫か?」 こんな風にしておいて訊くことかと、頭のどこかで思いながらも言葉にすれば、健気にも和宏は小さく頷いた。 そして、薄く開いた口から、再び名前を読んでくる。 まるでもうそれしか言えないかのように。または何かの呪文か。 「・・・・・・和宏、俺の名前呼んで?秋良って」 何度か呼ばせようとしても、恥ずかしがって呼んでくれなかった名前。 こんな時に卑怯かもと思わなくもないが、こんな時だからこそ、呼んで欲しい。 その気持ちが通じたのか、それとも考える余裕もないのか。 「ぁ・・・あき、ら・・・・・・秋、良ぁ」 舌足らずな甘い声で囁かれた名前は、やばいくらいに脳天を直撃して。 「・・・ごめん、和宏。もう、止められない」 その瞬間に上がった悲鳴を、唇で塞ぐことによって残りの声ごと飲み込む。 後はもう、想像以上の快感に、俺自身が飲まれていった・・・――― >> NEXT 06.02.27 |