恋人たちの気持ち (4) |
話があると呼び止められて、何故かそのまま逃げ出すことも出来ず。 連れてこられたのは駅近くの小さな公園。 そこにつくまでの短い間に会話は一言もなく、ついてからもしばらく沈黙。 この気まずい雰囲気の中、とにかく須田の言葉を待つ。 「相田くんはさ、秋良といつから友だち?」 「・・・去年、同じクラスだったから」 「ふーん・・・で?付き合い始めたのは?」 唐突な質問に、一瞬言葉を失う。 「・・・何のこと?」 「隠してても見てれば分かるよ。秋良の様子も変わったし」 ああ、やっぱりこの人は知ってるんだ。 ごまかそうにも、無理そうだと瞬時に思う。 だからといって何を言ったら良いのかも分からず、そのまま黙っていると、ふいに須田が口を開く。 「秋良はさ、顔が良いからよく馬鹿な女たちに囲まれてた。で、言われるがままに付き合っては、すぐに別れてた」 それは多分、中学の頃の話。 まだ友だちだった頃の柘植も、そんな感じだった。 「でも僕は知ってた。秋良に似合うのはあんな女たちじゃないって。付き合ってもすぐ別れるのはその証拠だろ?」 肯定も否定もできず、ただ話を聞く。 別れてたのはきっと、柘植が本気じゃなかったからだと思う。 だけど、それを彼に伝えても無意味な気がした。 事実、相槌すらないのに話は続けられる。 「でも今度は違った。しかも男!気の迷いだろうと思ってたのに、いまだに気が付かないみたいだし」 「・・・」 「でもね、親友の過ちを修正してあげるのも、親友の役目だと思わない?」 僕を見る、その目が怖い。 過ち?修正? ・・・何を言っているの? 「あんたもさぁ、他の女たちと同じで、どうせ秋良の顔に惚れた口でしょ?ならさっさと解放してあげてよ。秋良にはあんたみたいの似合わない」 口調が変わった。 同時に今までの笑顔も消える。 まるで汚いものでも見るような目。 そこにあるのは・・・憎悪。 体が震えそうになるのを、必死で堪える。 「・・・僕が柘植を好きになったのは、別に顔とかそんなんじゃない」 負けたくないと思った。 ここで目をそらしたら、柘植との今までが全て否定される気がして。 まっすぐに、見据える。 「はっ・・・あんたが相手にされてるのは、ただ珍しいからでしょ?秋良だってすぐに飽きる」 珍しいから? すぐに飽きる? 「・・・そうかもしれない。でも、あなたが言うようにいい加減な気持ちで付き合ってるわけじゃない。僕も、柘植も」 「秋良はお前が現れるまで、男になんて興味なかった。お前が秋良の人生に汚点を残したんだ。いい加減分かれよ!」 「でも、気持ちに嘘はつけないよ」 「っ・・・せいぜい強がってろ!」 叫んだと同時に走り去る。 残された僕は、ただ立ち尽くすことしかできない。 ・・・僕と付き合うことが、柘植にとって汚点? 向けられた数々の言葉が、頭の中を駆け巡る。 確かに、僕が好きにならなければ、柘植だって普通に女の子と付き合ってた。 だけど、柘植も僕のことを好きになってくれて・・・ 「・・・後悔なんか、したくない」 呟いて、ふっと息を吐く。 そのときになって、随分と体に力が入っていたことに気が付いた。 少しだけなら、頼ってもいい? まだ少し震える手で、携帯を取り出して通話ボタンを押す。 何回目かのコールの後、聞こえてきた愛しい声に心底ホッとする。 心配かけないように、できるだけ明るく。 「メールでも良かったんだけど、せっかくだから声聞きたいなって・・・」 適当な話題を、さも言い忘れたかのように伝えて。 ほんの数分、聞こえてきた声に安心して、ようやく家に向かって歩き出す。 大丈夫。僕は、自分と柘植の気持ちを、信じてる。 和宏の様子がおかしいのには気が付いていた。 だけど、翌日にはいつも通りの和宏だったし、下手に気にしないでおいた方が良いのかななんて思っていた。 だから、あの日何があったのかも深く追求することもなく。 それは渚に聞かされなければ、たぶんずっと気が付くことができなかった。 「秋良、ちょっと良い?」 部活の後、いきなり渚に呼び止められる。 そのまま部室棟の脇まで有無を言わさず引きずられる。 文句を言おうにも、妙に真剣な渚の表情にそれもできない。 「何かあったのか?」 引きずってきたくせに、口ごもっている渚に問えば、やはり少しためらう様子を見せてから覚悟を決めたように口を開く。 「・・・あんた、最近須田と会った?」 「須田?・・・・・・ああ、中学んときの?」 「そう、そいつ。会った?」 「卒業してから連絡も取ってないけど。それがどうした?」 「相田くんが、狙われてる」 「・・・・・・はぁっ!?」 予想外の言葉に、思わず叫んでしまう。 「ちょっと待てっ!何で和宏がっ!?」 「声でかいわよ、バカ。・・・あんたと付き合ってること、どっかで知ったみたい」 「それが須田に何の関係があるんだよ?」 卒業以来、連絡ひとつ取っていない。そもそも、中学時代も学校以外で話したこともない。 顔も印象も、正直曖昧なヤツが、何で今更・・・? 「須田にとって、あんたは特別なのよ」 渚の言葉の意味が、よく分からなくて。 得体の知れぬ不安が湧き上がり、一刻も早く和宏の側に行きたかった。 >> NEXT 06.02.05 |