恋人たちの気持ち  (2)





一方、その頃和宏も悩んでいた。
原因は、最近の秋良の視線。
いくら奥手の和宏と言えど、そこは健全な男子高校生。秋良の気持ちが分からないわけでもないし、 むしろ我慢させてるという思いもある。
だからといって、自分から踏み出すことも出来ない。
何せ、女の子とさえ付き合ったことがないのだ。
どうしたら良いのかすら分からない。
・・・とりあえず、僕がされる方なのかな?やっぱり。
そんなことを思っては、一人で赤くなるのが近頃の日課だった。


「ごめんな、相田。あんまり綺麗にしてなくて」
「ううん。こっちこそごめんね、変なこと頼んじゃって」
「いいよ、相田からの頼みなんて滅多にないし。俺も色々と話聞いてもらったしね」
言って、拓弥は笑顔を見せると、ほっとしたように和宏も笑顔を返す。
悩んでみても結局答えが出せなかった和宏は、迷った挙句に友人の広瀬拓弥に相談をもちかけた。
拓弥とはクラスこそ違えど同じ図書委員である、秋良の次に仲の良い友人である。
今では秋良とは恋人同士となったわけだから、一番の親友となるのかもしれない。
純粋に本が好きで図書委員になった和宏と、委員会の中で一番サボれそうだからという理由で委員になった拓弥は それこそ接点はないに等しいのだが、何度かあった委員会で気がつけば仲良くなっていた。
話をしているうちに、お互いに同性を好きになったという共通点が見つかり、お互いに励ましあったりしてきたのである。
さらに、和宏の恋が成就する前に、拓弥も実らせたということで、いわば恋愛に関しては先輩のようなもの。
和宏にとっては、もはや藁にも縋る思いで拓弥に相談に乗ってもらうことにしたのである。
そして、それを快く受け入れてくれた拓弥に連れられて、部活中の秋良を置いて拓弥の家に来ていた。
「で、相談って?何かあったの?」
「うん、あのね。その、・・・・・・は、初めてって、どんな感じ?」
「・・・・・・」
歯切れの悪い和宏の言葉に、拓弥は一瞬声を失う。
だが、顔を真っ赤にしながら、それでも真剣な表情の和宏に、その質問が何をさしているのかを理解する。
「えーと・・・初めてって、アレのことだよね?」
念のため確認しておくと、こくこくと激しく頷く。
改まって相談というから恋人である柘植絡みだろうとは予想していたが、まさかそんなことを訊かれるとは思っていなかった。
今まで互いに相手の話はしていたが、その手の話はほとんどしてなかったし。
「俺も、あの時は何が何だか分からなかったし、何とも言えないんだけど・・・」
「うん」
一字一句も逃さないとばかりに真剣に聞いている和宏に、何だか拓弥まで照れてくる。
だが、真剣な分、こちらも真剣に答えなければと、拓弥はあの時の気持ちを言葉にする。
「・・・嬉しかったかな、やっぱ」
少し照れながらも幸せそうに笑う拓弥に、和宏は一瞬見惚れてしまう。
それほどまでに、拓弥の笑みは綺麗だったから。
「だけどさ、やっぱり相田に負担がかかる行為なわけだし、相田の気持ちが固まってからでいいと思うよ。 早ければ良いってもんでもないし、柘植だって相田の気持ち分かってくれるよ」
気を取り直したように咳払いをしてから言われた言葉に、和宏も素直に頷く。
しかし、頷いてみたものの和宏はやはり秋良の視線を思い出してしまう。
時折見せる、男の顔。
未知のことに怖いと思うのは確かだけど、我慢させたいわけじゃない。
・・・僕だって柘植のこと好きなわけだし、大丈夫、だよね?
「じゃあさ・・・僕から誘ったら、柘植は喜んでくれるかな?」
「あー、まあ男だったら、誘われればそりゃ嬉しいだろうけど・・・」
「けど?」
「俺は柘植とほとんど話したことないし、よく分からないけど。話聞いてると、柘植って相田のことかなり純情少年みたいに思ってるんじゃないかなって」
「・・・うん?」
拓弥の言いたいことがよく分からなくて、曖昧にしか頷けない。
「とにかく二人のことなんだし、話し合ってみるのが一番じゃないかなぁ。って、ごめん。何か答えになってなくて」
「ううん、そんなことないよ。ありがとう」
にっこりと笑って見せると、拓弥もどこかホッとした様子を見せる。
話しただけで気持ちが軽くなるもんだなぁ、なんて改めて拓弥の存在に感謝しながら、その後は時間が許す限り拓弥と互いの恋愛話に花を咲かせたのだった。



柘植は、僕のことを好きだと言ってくれた。
僕も柘植のことは誰よりも好き。
だからもし、柘植が欲しいと望むなら、僕はきっと拒まない。
ううん、拒むどころか・・・―――

「相田和宏くん?」
「え?」
拓弥の家からの帰り道、どうやって柘植に気持ちを伝えようかと考えながら歩いているときに、ふいに呼ばれた名前。
見上げた先には、見知らぬ男の顔。
「・・・あの、どなたですか?」
「ああ、そっか。初めまして。秋良の中学からの親友で、須田って言います。以後よろしく」
柘植の親友と名乗った見知らぬ人。
にっこりと笑ったその顔を、何故か怖いと思った。







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06.01.15




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