恋人たちの気持ち  (1)





随分と遠回りをしたけれど、互いの想いを確認しあって、晴れて俺と和宏は恋人同士となった。
俺はどうしようもなく幸せの絶頂にいたし、和宏だって心から笑ってくれている。
和宏が恥ずかしがるから人前では今までどおり接しているが、二人きりの時は手も繋いだしキスもした。
そこまでは良い。むしろ順調と言っても構わない。
問題なのは、ただ一つ。
あれから半年以上たったのにも関わらず、俺たちの関係がいまだキス止まりということだ。







「これだから男って・・・」
「んだよ、お前が何か悩みがあるなら言えって言うから、俺は恥を忍んでだなぁ」
「何が恥を忍んでよ。大体、ついこの間まで、両想いになれたって喜んでたバカは誰よ?」
「両想いになったからこその悩みだろ!?」
渚の辛辣な言葉に、秋良は思わず吠える。
「で、あれからどうよ?」という近況報告の催促に、正直に話せば呆れたように溜息をつかれる始末。
そもそも馬鹿正直に話してしまうのもどうかとは思うが、渚相手にごまかすこともできない。
相変わらず、この腐れ縁の友だちには弱いのが情けない。
部活後の帰り道、一人で帰っているところを後ろから追っかけてきた渚に捕まった。
いつも部活が終わるまで待っていてくれる和宏と言えば、今日は用事があるとかで申し訳なさそうに謝りながら先に帰ってしまった。
そこで、一人寂しく歩いているところを、渚に話し掛けられたというわけなのだが・・・
「大体ねぇ、あんた欲張りなのよ。いいじゃない、付き合えるようにまでなったんだから」
「好きな相手としたいと思うのは、男として当然のことだろ?」
「知らないわよ。私、男じゃないもの」
拗ねたように言ってみれば、すぐに切り捨てられる。
そもそも、口で渚に適うはずがないのだ。そのことは重々承知しているはずなのだが、秋良は半ば意地になっていた。
「お前なぁ、和宏の可愛さを知らないからそんなこと言えるんだよ。いいか?あの笑顔、あの仕草、さらにキスした後の あの恥じらいの表情なんて、その場で押し倒さない俺を褒めて欲しいくらいなんだぞ!」
「そこで押し倒してたら、それこそ速攻で嫌われるわよ」
周りに人がいないから良いものの、およそ駅に向かう道での会話ではないことに、お互い気がついていない。
秋良はとにかく和宏の可愛さを伝えることに必死だったし、渚は渚で秋良をバカにすることしか考えていなかった。
「で、その最愛の恋人は何て言ってるわけ?」
「・・・何も。ていうか、そんなこと和宏に言えるわけないだろ?」
「まあ、そうでしょうね。そんな話した瞬間に軽蔑されたりして」
・・・そんなことない、と言い切れないのが悲しい。
だからと言って、いつまでもこのままではいたくないのが本音なわけで。
「あー、チクショー。いつになったら進展するんだろうなぁ・・・」
「そんなの知らないわよ。でもね、秋良」
「んだよ?」
「あんたの勝手で相田くん泣かせたら、私が承知しないから」
言って、鋭い目つきで睨みつけてくる。それこそ、秋良が思わず頷いてしまうくらいの強さで。
和宏が渚のお気に入りになっていたのは知っていたが、まさかここまでとは・・・。
いまいち進展しないのは、渚が何か関与してるんじゃないかと思わず考えて、身震いしてしまう秋良だった。




「秋良、ご飯はー?」
「今いらねー」
家中に響きわたっているのではないかと思われる母の声に小さく答えてから、秋良は溜め息をつく。
「どうしよっかなぁ」
ベッドに制服のまま仰向けになり、見慣れた天井に呟く。
帰り道、渚と話したことが頭から離れない。
和宏が好きな気持ちはどんどん強くなってるし、和宏も俺を好きでいてくれてるのも分かってる。
そろそろ関係を先に進めたいのも本音だけど、泣かしたり怖がらせたりはしたくない。
前より近くにいても怯える様子はなくなったけど、今でも手を繋げば赤くなるし、キスすれば緊張した様子を見せるのだ。
さらにその先にとなれば・・・
「気絶しちゃったりして・・・」
和宏なら有り得なくもない・・・いや、そこまではないか。
一人ツッコミをしていると、ベッドの上に放り投げていた携帯から着信音が鳴る。
表示を見なくても、その音で和宏からのものと知る。
『今日は先に帰っちゃってごめんね。明日は一緒に帰れるよね?』
いつも部活が終わるまで待っていてくれる和宏に、悪いと思いながらもそれを喜んでいる俺を和宏はよく分かっているのだろう。
一通のメールから、気遣いが凄く伝わってくる。
『明日は部活もないから、どっか寄っていこう』
和宏の気持ちを有難く受け取って、ちゃっかりお誘いまでしてみる。
本当はこのまま電話してしまいたいくらいだけど、今月の通話料を考えてグッとこらえる。
それに、話し込んでしまえば本気で夕飯を食いっぱぐれる可能性も高いし。
『うん。じゃあまた明日ね』
5分もしないうちに返ってきたメールに、秋良は思わず微笑む。
「・・・今でも十分幸せだよな」
俺が和宏を見る前からずっと俺のこと好きでいてくれて、今ではすぐ側にいて笑ってくれる。
それを俺の欲望なんかで壊したくはない。
「いつかそん時がくるかもだしな!」
焦るのはよそうと心に決めて、秋良は夕飯を食いっぱぐれないように急いで台所へ向かった。







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05.12.03




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