L i m i t (1) |
いつ来るか分からない終わりに、少しだけ怯えていた。 だけど、今の生活がずっと続くことを信じて、そして祈っていた。 ・・・終わりを告げる声は、唐突に現れて。 やっぱり神なんていない。 信じていなかったはずの神に、裏切られた気さえもした・・・。 カタンと静かにドアが閉まる音で、拓弥は目を覚ました。 待ちくたびれて、いつの間にか眠っていたらしい。 気がつけば、時計の針は深夜1時を回っていた。 拓弥は、机から頭を上げて、玄関に続く扉へと注意を向ける。 一歩一歩と、静かにリビングに向かってくる足音に、少しだけ身体に緊張が走る。 カチャリと扉が開いて入ってきたのは、相変わらずの不機嫌な顔。 「あ・・・えっと、おかえり」 「・・・・・・」 少し声を引きつらせながらも声をかけても、無言のまま横を通り抜けられるだけ。 「ご、ご飯・・・一応、作っておいたけど、食べるよね?」 「・・・・・・」 「ちょっと、待っててよ。すぐ、温めるから・・・」 「・・・いらねぇよ」 やっと返ってきた声は、ひどく無機質なモノで。 「あ、うん。そうだよな、もう、夜遅いもんな。外で食ってくるよな、普通」 必至で声をかけ続けるが、相手はずっと無言のまま。 冷蔵庫の中から缶ビールを取り出すと、そのままリビングを出ていこうとする。 「あ・・・ふ、風呂沸いてるから!」 「・・・さっさと寝ろ」 それだけ言って、さっさとリビングを出ていってしまう。 向かった先は、おそらく自分の部屋。彼は、家にいるときは大半そこで過ごしている。 もっとも、最近では家にいることも、殆ど無いのだけど。 「・・・どーしよっかな、コレ・・・」 食べてもらえなかった・・・見てももらえなかった、机の上の夕飯。 多分、もう食べられることはない。 「ホント、どうしよう・・・」 また今日も、ろくに話すことも出来なかった。 拓弥は、気が抜けた様にソファに崩れ落ちる。 「俺、何かしたかなー・・・」 もう何度も自分に問いかけているコト。 何度考えても、確かな答えは導き出せないままだけど。 「ほんの少しでも良いから・・・俺のこと見てよ、恭ちゃん・・・」 さっきだって、結局一度も俺のことを見てくれなかった。 今日に限らず、ここのところずっと。 ”広瀬 拓弥”が”川崎 恭平”と一緒に暮らし始めて、もう3年になる。 きっかけは、拓弥の両親の離婚。 互いに既に違う相手がいて、当時中1だった拓弥を、父も母も互いに押し付けあった。 新たな相手との生活に、拓弥はただの邪魔者だったのだろう。 騒ぎ立てるほど子どもでもなく、当事者であるはずの拓弥はまるで他人事のように毎日のように繰り返される 両親のやり取りを傍観していた。 もう、どうにでもなればよい。 半ば自棄気味に思っていた時に、突然振ってわいた話が、恭平の家が拓弥を引き取るという話だった。 同じ町内に住んではいたが親同士の交流はなく、ただ拓弥が6つ年上の恭平を昔から兄のように慕い、 まとわりついているだけの関係だった。 あの時の恭平の言葉を、拓弥は今でも忘れられない。 『あんたたちのどっちの側にいたところで、拓弥が幸せになれるはずがない!拓弥は、俺が幸せにしてやる!』 当然、周囲の反対もあったが、恭平の両親はこの話を快く受け入れてくれたし、拓弥の両親にしても願ってもない ことだったに違いない。 そうして拓弥は川崎家へ居候する身となり、恭平が一人暮らしをはじめるという時に拓弥も一緒についてきて、 今に至っている。 あの時、恭平が言ったとおり、恭平の側で過ごしている時は幸せだった。 そんな恭平の態度がおかしくなったのは、拓弥が高校に入ったときくらいから。 それまでは、恭ちゃんも優しかったよなぁ・・・。 あれから部屋に戻り、ベッドの上に寝転びながら拓弥は思い出す。 すぐ怒るけど、最後には一緒にいてくれたし、話だってたまに面倒くさそうにしてても、ちゃんと聞いてくれていた。 何よりも、ちゃんと俺の事を見てくれていた。 だけど、突然。・・・俺が気付かなかっただけで、そんな突然でもないのかもだけど。 恭ちゃんは、俺を見なくなった。 まるで、俺が此処にいないかの様に。 ・・・邪魔になったのかもしれない。 いい加減、俺の面倒を見るのが嫌になったのかもしれない。 考えたくもないけど・・・俺のことが、嫌いになったのかもしれない。 元々、好かれているってワケでもないだろうけど。でも、近くにいることを許してくれてた。 俺が此処にいられるのも、恭ちゃんが俺を『拾って』くれただけなのだから、恭ちゃんが嫌になったのなら、俺は此処を出ていくしかない。 頭では理解してる。 迷惑になりたくない気持ちも、本当。 だけど。 「・・・約束の時までは、ここにいても良いよね、恭ちゃん」 呟きは、誰に届くこともないまま、拓弥はそのまま目を閉じて、静かに眠りについた。 >> NEXT 04.11.23 前ジャンルで書いている途中で断念した話を加筆修正したものです。 もちろんキャラの性格も話も大分変わっています。 |