本当と偽りの間で  (1)





本気で好きな人なんて、みんなどうやって見つけているのだろう?




「柘植君は私のこと、好きじゃないでしょ。短い間だったけど、ありがとう。さよなら」
そう捨て台詞を残して、ついさっきまで彼女だった女が去っていった。
どうやら、俺はまた振られたらしい。
今回は一ヶ月ちょっとか・・・まあ持ったほうだよな。
彼女が聞いたら、それこそ叩かれそうなことを考える。
中学の頃から、やたらと女の方から寄ってきた。
言われるがままに付き合って、一月もしないうちに振られるのがいつものパターン。

「本当に好きな人と付き合わないから、そんなことになるんだよ」
「和宏はいつもそう言うんだよなー。分かってんだけど、そうそう好きな奴もできないんだって」
高校入学以来の親友である和宏に、先ほどの彼女とのやり取りを話すと、いつものように苦笑される。
もう何度となく繰り返されたことに、和宏も俺も慣れきっていた。
「まぁ、俺に本気で好きな奴ができたら、それもしなくなるかもだけどな」
「ホント仕方ないんだから」
苦笑まじりに言われた言葉に、自分でもその通りだと思う。
和宏の言うとおり、本当に好きな人と付き合いたいとは思うが、そう簡単に好きな奴なんて出来やしない。
考えてみれば、本気で好きになったことなんて、今までにあっただろうか?

「そういう和宏はどうなんだよ?」
ふと気になって、訊いてみる。
そういえば今まで1年半近く付き合ってきたが、和宏の浮いた話は聞いたことがない。
何気ない気持ちで訊いたのだが、和宏は一瞬だが動揺を見せた。
「その反応は、いるんだな?ん?」
さらに訊けば、和宏の顔に赤味が差す。
こんな和宏を見るのは初めてで、これは何としてでも聞き出さなければと思う。
慌てる和宏の様子が妙におかしくて、楽しくて仕方がない。
自分でもしつこいかと思うほどに、動揺を隠せない様子の和宏に詰め寄ると、和宏はついに観念したように口を開いた。

「・・・もうずっと、好きな人がいるんだ」

呟くように小さく言われた言葉に、気分が最高潮に盛り上がる。
「マジで!?何だよ、早く言えよー。他でもないお前のためなら協力するぜ?」
だから、本気でそう言った。
和宏が好きになった人というのにも興味があったことは否定できないが、それ以上に和宏の恋を成就させてやりたいと思ったから。
だが、そんな俺の言葉への返事は、否だった。
頑なに「望みがないし、もういい」と言う和宏を不審に思ったが、どこか辛そうな表情にそれ以上は何も言えなかった。


一度聞いてしまうと、どうしてか気になるもので。
何度か和宏の様子を見ながら探りを入れてみるが、いつも曖昧に流される。
和宏の好きな人というのも気になったが、それよりも和宏のことをあまり知らない自分に驚いた。
それが何だか妙に悔しくて、俺はやたらと和宏の側にいくようになった。
夏休み直前に何人かの女から告白されたりもしたが、俺はそれを殆ど振って夏休みも和宏と一緒に遊んだ。
別に好きでもない女に付き合ってるより、和宏の側にいるほうが楽しかった。
それが何故かは、自分でも分からなかったけれど。




「じゃあな、柘植。鍵よろしくー」
「お疲れ様でーす」
先輩に挨拶してから、鍵のチェックをする。
盗まれるようなものは特にないが、決まりだから仕方ない。
交代制の鍵当番も、俺の番は今日で終わりだ。心の中で呟きながら、一つ一つチェックしていく。
面倒だと思いながらも、きちんと全て施錠されていることを確認してから、部室を後にする。
「あれ、和宏?」
一つ目の角を曲がったところで、見慣れた後姿を目にする。
部室棟には滅多に来ない和宏がいることも珍しいが、それよりも、どこかおぼつかない様子の足取りが気になった。
「なんだ、まだ残ってたのか」
背後から声を掛けると、和宏は驚いたように振り向く。
だが、その目から涙が零れているのに気付き、慌てて何があったのか訊ねる。
「和宏?どうした、何かあったのか?」
「あ・・・」
和宏も今気がついたのか、頬に手を当て驚いた様子をみせる。
その姿を見て、衝動的に和宏の手を取った。
とにかく人目のないところ、瞬時に考えついさっき鍵を閉めたばかりの部室を思い出す。
「とりあえずこっち来い。今なら、誰もいないから」
後ろから困惑した気配が伝わってきたが、俺は構わず引っ張っていく。

和宏の涙を見た時から、胸の中に得体の知れないモヤモヤが広がってくる。
それが気持ち悪くて、何でか無性に苛付いた。







>> NEXT






04.11.14




top >>  novel top >>