偽りの恋人  (5)





柘植のことが好き。
諦めたつもりなのに、想いは募るばかりだ。
代わりでも良いと思ったのに、どこかでまだ期待している。
柘植の側にいることは嬉しい。
だけど、同時に湧き上がってくる気持ちは・・・辛い。
柘植も、そんな僕の気持ちに気付いているんだと思う。
僕が笑った後、柘植の顔に一瞬だけ影が落ちるのに、僕は気付いてしまったから。
やっぱり無理だったのかもしれない。
そう思う気持ちはあるけれど、それでも離れることが出来ない。
いっそ忘れることが出来たら、楽なのかもしれない。







一人で思い悩んでいても、何も変わらない。
僕からは何も言い出すことも出来ずに、そのまま時間が過ぎていく。
それでも、その時は唐突にやってきた。

「なぁ、和宏。前に言ってた好きな奴のこと・・・まだ、好きか?」
「え?」
「って、決まってるよな。あれから、まだ一ヶ月もたってないし」
「柘植?何言って・・・?」

放課後の教室。
いつものように部活の終わる柘植を待っていると、いつもより少し遅くに柘植が教室に入ってきた。
じゃあ帰ろうかという時に、ふいに柘植が話を始めたのだ。
突然のことに、僕は何の話からすらも掴めない。
だが、柘植は構わず話を続ける。
「やっぱさ、無理あったよな。好きでもない奴と付き合うなんて」
言われた言葉に、ズキンと胸が痛む。
無理だったのではないかとは僕も思っていたことだけど、直接柘植から言われると、やっぱり辛い。
だけど僕には柘植を引き止める権利はないから。
だから、これから告げられるだろう終わりの言葉には、素直に頷かなくてはと覚悟を決める。
「・・ごめんな、俺の我が侭につき合わせて。でも、もういいから。嫌だっただろ?ホントは」
「っ、そんなことない!」
何を言われても素直に受け止めようと決めた直後なのに、僕は反射的に叫んでしまった。
「・・・和宏?」
「・・・」
柘植が、困惑した様子で名前を呼ぶ。
だけど僕は気まずさに思わず目を伏せた。
再度呼ばれても、恥ずかしくて顔を上げることが出来ない。
応えることも出来ず、ただ小さく首を横に振るだけ。
「ごめん、和宏。お前を困らせたいわけじゃなかったんだけど・・・」
それでも俯いたまま首を振るだけの僕に、柘植は小さく息をつく。
「・・・ごめん」
もう一度だけ謝罪の言葉を残して、静かに僕の側から離れる。

それを気配だけで感じながら、でも引き止めることが出来なかった。
・・・これでいい。元に戻るだけじゃないか。
柘植が離れていくのは悲しいけれど、それでも代わりであるよりは良い。
そう自分に言い聞かせてみるが、別のところで違う言葉が浮かび上がる。
本当に?
本当にこれでいいの?誤解されたままで、何も伝えないままで?
もう友達にも戻れないかもしれないのに?
本当にいいの?

・・・嫌だ、そんなのは、違うっ!

目を強く瞑って、覚悟を決める。
うまく声にならないけれど、それでも想いを伝えるために口を開いた。







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04.11.09




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