偽りの恋人 (2) |
柘植に、好きな人はいるのかと訊かれてから、3ヶ月。 僕と柘植の関係は、少しだけ変わった。 もちろん関係といっても、あくまで友人だけれど、それでも以前より一緒にいる時間が多くなった気がする。 例えば放課後、一緒に帰ることが多くなった。 僕が委員会とかで遅くなった時や、柘植の部活がない日などは、必ず一緒に帰っている。 間にあった夏休みも、柘植に誘われるがままに色々と遊びに行った。 それは別に構わない。 こんなに頻度は高くなかったけど、今までにもあったことだし、柘植と一緒にいることはやっぱり楽しいから。 「なぁ、和宏。お前、例の好きな人とはどうなったんだ?」 「また、その話?・・・どうもこうも、特に何もないよ」 「ふーん・・・」 ただ、柘植はふと思い出したように、”僕の好きな人”が誰なのかという話をしてくる。 その度に何とかはぐらかしているが、いつかばれてしまうのではないかと気が気じゃない。 結局、僕はまだ柘植のことが好きなのだ。 自分でも愚かだとは思うけど、柘植の隣で必死で想いを隠す日々が続いていた。 そんな時だった。クラスの女子たちの噂話を耳にしたのは。 「ねえちょっと聴いた?柘植君の話」 「聞いた聞いた!信じられない〜」 ・・・柘植の話? 放課後の教室、カバンを取ろうと入ろうとしたところで中から話し声が聞こえた。 クラスの女子が何人かまだ残っているのだろうかと思いながら扉を開けようとしたときに、 偶然聞こえてきた柘植の名前。 つい気になって、扉にかけた手が止まる。そして、そのまま話を立ち聞きする形になった。 「でもさ、言われてみれば、もうずっとそうだったよねー」 「そうそう。この前なんて、A組の中野さんもその場でフラれたんだって!」 「ホントに?中野さんといえば、学年一美人って噂されてるくらいなのにー」 「ねー。どうしたんだろ、柘植君。好きな人でも出来たのかな?」 ・・・好きな、人? やけにハッキリと飛び込んできた言葉を、頭の中で反芻する。 しばらくそのまま扉の前で呆然と立ち尽くしていたが、中にいた女子たちが立ち上がる気配を感じた瞬間、 僕は反射的にその場から駆け出していた。 聞かなければ良かった。そうすれば、このまま気付くことはなかったのに。 そうだ、何故気付かなかったのだろう。 今までは別れても一月も空けずに必ず告白されては付き合っていた柘植が、もう三ヶ月も誰とも付き合っていないということに。 学年一美人だと評判の中野さんの告白にも応えなかった? 何故? 答えは単純なことだ。 柘植に、好きな人が出来た。ただ、それだけ。 以前、僕は柘植に何で好きでもない子と付き合うのか訊いたことがあった。 その時、柘植は何て言った? 『本気で好きな奴ができたら、そんなことしねぇよ』 ・・・そう言っていたのではなかったか!? 「あれ、和宏?なんだ、まだ残ってたのか」 ふいに背後からかけられた声に、ようやく足を止める。 闇雲に校内を歩いているうちに、いつの間にか部室棟の方にまで来てしまったらしい。 間違えるはずもない声に振り向けば、そこには予想通り柘植の姿があった。 その姿を目にして思う。 ねえ、柘植の好きな人って・・・誰? >> NEXT 04.11.02 |