手を伸ばせば届く距離  (4)





結局、誠一に流されるままに二人で出かけた。
それは特に何をするでもなく、誠一に付き合わせれたようなものだったが。
その時間は別に嫌なものでもなく、その後も誘われるたびに断れない自分がいたのだった。





「どこ行きたい?」
「別にどこでも。先輩に任せます」
「お前はいつもそう言うよな」

自分でも、冷たい態度を取っていると思う。
だけど、どんな態度を取ったら良いのか迷って、結果こういう態度になってしまうのだから仕方がない。
何故言われるままに誠一に付き合っているのかも分からない。
それどころか、自分が誠一をどう思っているのかも分からないのだ。
それなのに何をしても何を言っても笑っているのだ、誠一は。
だから、ますます分からなくなる。
誠一が自分をどう思っているのか、考えないようにしているのかもしれないけれど。

「じゃあ今日は俺の部屋くるか?」
「え?」
「ここからなら結構近いし。嫌か?」
「・・・別に、構わないですよ」
「んじゃ決まりな。行こうぜ」
何故、こうも素直に頷いてしまうのか。
・・・どうしても分からないのだ。






連れていかれた部屋は、意外にも片付いていた。
それを素直に告げれば、少しだけ笑ってみせて。
「いつもはもう少し汚いけどな。この間、珍しくも片付けたんだよ」
「彼女にでもやってもらったんですか?」
「バーカ。そんな相手いねぇよ。第一この部屋に入れたのは、お前で三人目だもん」
「・・・そうですか」
その前の二人が誰なのか少し気になったけど、そのまま訊けるほど素直でもなく。
ただ気のない返事しかできなかった。
「気になる?」
「いえ、別に」
「お前ならそう言うと思ったよ。あ、そこら辺適当に座って」
「失礼します」
言われるままに空いているスペースに腰をおろすが、どうにも落ち着かない。
仕方がないので部屋を見渡せば、ふと本棚に目が止まった。
綺麗に並んだ本。どうやら何かの専門的な本のようだ。詳しい内容は全く分からないけれど、題名からして難しそうなものばかりがある。
「何か面白いもんでもあった?」
入れてきてくれたらしいコーヒーを持って、いつの間にか戻ってきていた。
コーヒーを受け取って、そのまま本棚に背を向ける。
「いえ、真面目な本も読むんだなと」
「何か失礼だな。まあ一応目的あるからね、俺は」
「へぇ・・・」
「目標があると燃える性格なわけよ。それがどんなに難しくても、俺は手に入れてみせる」
何だか意外だと思うが、確かに誠一なら何でも手に入れてしまいそうな気がする。
いや、そもそも意外だと思うほど誠一のことを知らないではないか。
その目標が何なのかも、プロフィールですら細かいことは何も知らない。

「・・・逃げないの?」
「え?」
「期待するよ?」
気が付けば、誠一はすぐ真横に座っていた。
いつもより近い距離。なのに、不快感はない。
期待?・・・されても、困るはずなのに。
「さっき言っただろ、俺はどんなに難しくても、欲しいと思ったら手に入れるって」
確かに言った。でも、自分の何がいいといいうのだろうか。
「でも、だからと言ってお前を苦しめたいわけじゃない。だから1つだけ質問。ハッキリさせたいから」
誠一が何を言っているのか分からなくなる。
強い眩暈の中にいるようだ。誠一の言葉が、頭の中でぐるぐる回る。
「俺のこと、好き?」
少し動けば触れそうなほどの距離で、囁くように誠一が言う。
好き?誰が?誰を?

「・・・分からない」
ようやく言えた言葉は、これだった。
そう、分からないのだ。
自分の気持ちも、この男が何を考えているのかも。
別に好きでもないはずだ。なら、はっきりとそう言えば良い。
そして、今この場から、この状況から逃げ出すことを考えれば良いだけのはずなのに。

ふと顔が近づく。
そのままそっと触れる唇を、何故か拒むことを出来なった。
「逃げないなら・・・本気で期待するぞ?」
そう言った誠一の表情にいつもの余裕はなくて。
「・・・ご自由に」
小さく言えば、誠一の目が少し変わった。

そこからは、ただ流されるままに誠一に縋りつくしか出来なかった。







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05.01.28





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