Always (7) |
拓弥が姿を消してから早3日。 未だ連絡もつかず手がかりも掴めず、とにかく闇雲に探し回る日が続いている。 「恭平さんの様子はどうですか?」 「色んなとこかけずりまわってるよ。拓坊だけじゃなく、父親の居場所も探してる。少しは休めって言っても聞きやしない」 今日は実家の方を探すと言って、朝から出かけている。 そう言う誠一も泰成も時間の許す限り必死に探し回っているのだから、恭平を止められないのも無理はないかもしれない。 特に誠一は、泰成を探し回った経験があるから、なおさら。 「・・・拓弥くんは父親のところに行ったんでしょうか?」 「そうも思えないけどな。でも父親には会って、何か言われたんだろう」 何もないのに、拓弥が恭平の元を離れるなんて考えられない。 そう思うのだが、だからと言って何があったのかも今どこにいるのかも見当がつかない。 久しぶりに二人で過ごす時間だというのに、部屋の空気はどんよりと重い。 「とりあえず今、知り合いに頼んで拓坊の父親の居場所を探してもらってる。今はそれが唯一の手がかりだからな」 「先輩の奇妙な交友関係も、こんなときは役に立ちますね」 弱弱しく、それでも嫌味を言ってくる泰成に、誠一も無理やり笑みを浮かべてみせる。 「使えるもんは何でも使うさ。俺は欲しいものはなんとしても手に入れる男だからな」 親友も、その恋人も、大切な存在だから。 もう3日か・・・ キッチンの横にかけられたカレンダーを見て、拓弥は思う。 杏子と祐の好意に甘えて、もう3日たつ。 いつまでもここにいるわけにはいかないと思いながらも、あまりの居心地の良さに飛び出すこともできないまま時間だけが過ぎる。 何を書いているのかは分からないが自称モノ書きという祐が大抵目の届く範囲にいるので、出て行きたくない気持ちだけではなくて実際には出て行けないのだが。 ちなみに杏子も何をしているのか良く分からないが、彼女の場合は出かけていることが多い。 「祐さん、ご飯できましたよ?」 「お、ありがとー。んじゃ早速食べますか」 完全居候のせめてものおわびにと食事を作らせてと言えば、予想以上に喜ばれた。 ひとりで食べるご飯はつまらないからという祐の言葉に、こうして食事はいつも一緒に食べている。 「たっくん料理うまいよねぇ。どこで練習したの?」 「料理するようになったのは高校入ってからかな。でも簡単なのしか作れないですよ」 恭平と暮らすようになって、少しでも役に立ちたいと始めた家事。 初めの頃は失敗ばかりしてたのに、それでも笑って食べてくれた。 恭ちゃん、今頃何してるかな・・・ ふいに思い出されて、慌てて首を振る。 「ねえ、たっくん。聞いても良い?」 「はい?」 「たっくんの言う大好きな人って、どんな人?」 問われた瞬間、たった今振り払ったはずの顔が、また浮かび上がってくる。 同時に胸がチクリと痛む。 どうあがいたって忘れることなんて無理だと訴えるかのように。 「ごめんねぇ、杏ちゃんからはたっくんが話してくれるまで待ってろって言われてたんだけど、どうしても気になっちゃって」 「・・・昔から、いつも俺を助けてくれてたんです」 胸の痛みに突き動かされるように、自然に口を開く。 こんなこと話したって、祐が困るだけじゃないかという思いもあるけれど、それ以上に聞いてもらいたいという気持ちが強い。 ゆっくりとした拓弥の言葉に、祐は静かに耳を傾ける。 「優しくて、暖かくて、俺に家族ってものを教えてくれた人」 恭ちゃんがいなかったら、今の俺はいなかったって断言できる。 「誰よりも大切で、一番大好きな人・・・」 思い出すだけで胸が締め付けられて、今にも涙が出そうになる。 「その人が、きょうちゃんって言うんだ?」 突然出された名前に、驚いて祐を見る。 何故その名前を知っているのかと疑問が渦巻くが、祐は何てことない顔で答える。 「俺が杏ちゃん呼ぶたびに反応してたらね、そりゃ気付いちゃうよ。よっぽど好きな人なんだなって」 そんなに反応してたかなと思っても、反論する言葉は何も出てこない。 祐が杏子の名前を呼ぶたびに恭平を思い出してたのは事実だから。 「そんなに大切な人なのに、離れたままで良いの?」 責める風でもなく訊かれるのに、うつむくことしかできない。 俺だってできることなら離れたくなかった。 だけど・・・ 「あ、誤解しないでね。たっくんに出てけって言ってるんじゃないよ。ただせめて連絡した方が良いんじゃないかなって」 「・・・」 「たっくんにとって大切な人なら、その人にとってもたっくんは大切な人だったんじゃないかなって。もしそうなら、今頃心配で倒れてるんじゃない?」 「それでも・・・迷惑をかけるより良いから」 恭平と拓弥の関係を知ったあの男がどう出るか分からないから。 今離れれば、まだマシなはずだ。 「好きな人が知らないところで苦しんでるのを考える方が一緒に苦しむより辛いよ」 祐の声が少しだけきついものになる。 言いたいことは分かるし、そうかもしれないとも思う。 でも、じゃあどうしろと言うんだ。 「ちょっと祐くん!何たっくんいじめてるのよ?」 「あ、杏ちゃんおかえりー」 思わず唇をかんだ時、杏子が大声を挙げて入ってくる。 「ただいま。で、何でいじめてたの?」 「いじめてなんかないよ。ただ意見を述べてただけ」 「もー。たっくん耳貸して。良いこと教えてあげる」 言われて素直に耳を近付けると、祐に聞こえないように小さな声で言う。 「祐くんね、昔私に逃げられたことがあるの」 「えっ・・・?」 「祐くんのことが好きで、私の問題に巻き添えしたくないって思ったのよね。それで離れたんだけど、結局見つけてくれて。祐くんが助けてくれなかったら、今でも苦しんでたかも」 だから、たっくんのことも放っておけないのよ。 そう優しく笑う杏子に、声まで聞こえてなくても何を話していたのか察しはついたのだろう祐が付け加えるように言う。 「難しく考えないでさ、たっくんが今一番望んでることをすれば良いんだよ」 どこまでも優しい二人の気持ちに、拓弥は小さく頷く。 恭ちゃんを困らせたくないのも、本当。 川崎のおじさんやおばさんに軽蔑されるのが怖いというのも、本心。 だけど、一番望んでることは・・・・・・ 「・・・・・・会いたい」 溢れ出た本心に、祐と杏子は満足げに頷いた。 家を出てから、まだ一度も携帯の電源は入れてない。 電源を入れたら、すぐにせめて声だけでもと電話をしてしまいそうだったから。 ねえ、恭ちゃん。今からでも、まだ間に合う? 迷惑をかけるかもしれない、おじさんとおばさんにも嫌われてしまうかもしれない。 それでも、側にいてくれる? >> NEXT 06.07.23 |