Always (5) |
関係をバラされたくなければ、俺のところに来い。 残された言葉は、暗にそう伝えてきた。 行きたくなんかない。 だって俺の最大にして唯一の望みは、ずっと恭ちゃんの側にいることだから。 それでも、川崎のおじさんとおばさんに軽蔑の目で見られることは・・・きっと耐えられない。 考えるだけで、身体の奥の方から震えを感じる。 あいつは言いたいことを言った後で、満足そうな、そのくせ意地の悪い笑みを浮かべて去っていった。 すれ違い様に渡された携帯番号の書かれた紙切れを握り締めたまま、それでもそれを捨てることはできなかった。 「恭ちゃん・・・まだ、起きてる?」 もう日付が変わって1時間もたった時刻。 恭平の部屋の電気もすでに消され、恭平ももうベッドに入っている。 「どうした?」 小さく声をかけたにも関わらず、恭平の返事はすぐに返ってくる。 その声にホッとしながらも、その場を動けないでいると、もう一度恭平から声がかかる。 「拓弥?」 「・・・一緒に、寝て良い?」 「今更何を遠慮してんだよ。ほら、早く来い」 そう言って空けてくれたスペースに、するりと身体を滑り込ませれば、包まれる温もりにホッと息をつく。 昔から、この温もりに助けられてきた。 ここにいて良いと、俺は一人じゃないんだと安心できる温もり。 恭平は何も言わない。 ただ黙って拓弥の頭を撫でて、それがまた拓弥の気持ちを揺らがせる。 悩みに悩んで、ようやく出した結論を伝えるために、恭平の部屋を訊ねたのに。 このまま、ずっとこうしていたい・・・ 「恭ちゃん・・・大好き」 「俺も大好きだよ」 独り言のように呟けば、少し強い響きで返してくれる。 それが嬉しくて、つい微笑が浮かんでくる。 ねえ、恭ちゃん。 俺、ずっと弟みたいな存在のままでいれば良かったかな。 そうしたら、ずっと一緒にいられたよね。 でも・・・・・・もう、ただの弟なんかに、戻れないよ。 「ホントに、大好きなんだよ」 言葉じゃ伝えきれない。 どれだけ恭ちゃんに感謝しているか。 どれだけ恭ちゃんのことを好きなのか。 想いが全て伝われば良い。 そんなことを思いながら、恭平の首に手を回して、そっと唇を重ねる。 「・・・珍しいな、拓弥からしてくれるなんて」 「嫌?」 「そんなわけないだろ」 そうして優しく微笑んで、拓弥の仕掛けた行為に乗ってくれる。 強く抱きしめられて、息ができなくなるほどキスを交わして。 それでも優しく抱かれるのに、自然に涙が溢れてくる。 「拓弥?」 「きょ、ちゃん、・・・恭ちゃんっ」 いつもと様子が違う拓弥に恭平は不審に思うが、その様子にも拓弥は気が付く余裕はない。 ただ、与えられる快感と胸の中に溢れる想いに揺さぶられる。 「恭ちゃん・・・好き、大好き・・・っ」 この気持ちだけは、嘘じゃないんだ。 「どういうことだよ、恭平っ!?」 激しい音をたてて乱入してきた誠一に、恭平は一瞥を投げただけで、そのまま俯く。 「何て面してんだよっ!どういうことかって訊いてるんだろ!?」 「先輩、落ち着いてください!」 肩を掴んで揺さぶる誠一に、後から入ってきた泰成が慌てて制止に入る。 「何でそんなに落ち着いてられるんだよっ!拓坊がいなくなったんだろ!?」 拓弥が部屋を訪ねてきた翌日、すっかりいつもの様子に戻って、元気に見送られた。 心配のしすぎだったかと思いながら帰宅したときには、何故か人の気配がしなくて。 妙な不安にかられて拓弥の部屋に行けば、そこは綺麗に片付けられていて、部屋の主はすでに姿を消していた。 誠一か泰成を頼っていったのではないかと慌てて電話をしてみれば、二人とも驚きの声をあげるだけだった。 「拓弥の部屋に、これが置いてあった」 そう言って恭平が差し出した紙を、誠一は奪うように乱暴に取り上げて目を通す。 『今まで、ありがとう。 恭ちゃんに会えたことは、俺にとって何より幸せなことでした。 ずっと一緒にいたかったけど、恭ちゃんに迷惑をかけることだけはしたくない。 ちゃんと話せなくて、ごめんなさい。 こんな勝手な俺だけど、たまにでも思い出してくれたら嬉しいです。 恭ちゃん、大好きだよ。』 「んだよ、これ・・・」 「・・・さっき、バイト先にも確認してきました。電話で、急に辞めさせてくれと伝えてきたそうです。あまりに急なことで店長も驚いて、とりあえずしばらく休むということで話をつけたそうですが」 「そうか・・・」 いなくなったと分かってすぐに、拓弥が行きそうな場所は全て探した。 それでも見つからず、携帯も電源が切られているのかどんなにかけても繋がることはない。 拓弥が何かに悩んでいたことは気が付いていた。 それを話してくれるのを待って・・・そして、何も言わずに姿を消した。 「俺にも話せないことだったのかな・・・」 拓弥を支える存在でありたいと、いつも願っていたのに。 「それで、お前は諦めるのか!?あんな状態の拓坊を一人にするってのかよ!」 「先輩っ!」 再び掴みかかろうとする誠一を泰成が抑えながら、それでも未だ呆然としている恭平に語りかける。 「恭平さんが無気力になるのも分かります。でも、先輩の言うとおり、そんなことしていても何の解決にもなりません!」 二人の言葉に、身体がびくりと反応する。 そんなこと、言われなくたって分かっている。 分かっているのに・・・俺は、ここで何をしているんだろう。 「・・・有給は、確かまだかなり残ってたな」 「恭平?」 「見つけ出してやるよ。どこにいたって、必ず」 先程までとは打って変わり、その目には強い意志が込められる。 あんな涙の跡の残った手紙ひとつで、諦められるわけがない。 会って、その口から聞かなければ納得いかない。 第一、あのときの約束を俺はまだ果たしていないのだから。 >> NEXT 06.07.09 |