聖なる夜の一騒動 (前)





イベントに踊らされるつもりはないけれど、クリスマスはやはり特別な感じがするもので。
誰よりも大切な人と過ごしたい。
すぐ側にいて、笑ってもらいたい。
いつも以上にそんなことを思ってしまう時点で、相当イベントに浮かれてるのかもしれないけれど。
そんな日に仕事なんてふざけてると思いながらも、もうすぐ笑顔が見られると早足で帰ってきたクリスマスイブの夜。
そこで待っていたのは、想像していた愛しい笑顔ではなかった。




「もう恭ちゃんなんか知らないっ!浮気ものーっっ!!」

・・・そんな捨てゼリフとともに、訳の分からぬまま閉め出しを食らったのが1時間前。
ドアにはチェーンがかけられ、呼び鈴にも電話にも一切応答なし。
俺が何をしたんだよと立ち尽くす恭平に吹く夜風は、どうしようもなく冷たかった。

「・・・それで俺んとこ来たのかよ」
「他に行くとこがなかったから」
「どっかの飲み屋でもなんでも、色々とあるだろ!何で、今、俺んちなんだよっ!?」
目の前で、ぎゃんぎゃん吠えている中学以来の親友と、その傍らに座るその恋人をちらりと見て、ほんの少しだけ罪悪感を覚える。
この様子だと、恋人と珍しくいい雰囲気になったところに俺が乱入してきた・・・と、いうところだろう。
とは言え誠一には悪いが、俺にとっては今それ以上の問題が振りかかっているのだ。人のことなど構っていられない。
「えーと、僕はお邪魔した方が良いですか?」
「何で泰成が帰るんだよ!?帰るのは恭平だろ!」
「僕は恭平さんに訊いてるんです」
恋人にぴしゃりと言われて、唸りながらも渋々口を閉ざす。
不満げに俺を睨みつけるのに、今度何かしら埋め合わせをしないと殺されるかもなんて思う。
「いや、宮崎もいてくれた方が良い」
「・・・拓弥くんと、何かあったんですか?」
心配そうに訊かれて、今日のことを思い出してみる。
・・・拓弥を怒らせるようなことは特に何もしてない、はずなのだが。
強いて言うなら、今日はいつもより仕事が長引いて、帰りが遅くなったことぐらいだろうか。
でもそれくらいじゃあんなに怒らないだろう。
今日だって何も連絡できなかったから、拓弥が心配してるだろうと早足で帰って。
ようやく家についてドアを開けた途端、玄関に仁王立ちしていた拓弥に追い出されたのだ。
冒頭のセリフとともに・・・

「仕事終わった後も連絡しなかったのか?」
「しようと思ったけど、携帯の電池が切れてた」
間抜け、と呟いた誠一の言葉は、この際無視しておく。
「それで、恭平さんには心当たりないんですか?」
「あったら、こんなとこには来てない」
「こんなとこって、お前なぁ・・・」
部屋主である誠一が不満げな声をあげるが、事実なのだから仕方ない。
本来なら今頃、拓弥と二人で楽しい夕飯だったはずなのだから。
「拓坊は浮気ものって叫んだんだろ?本当に浮気したとかないわけ?」
「するわけないだろ」
「ですよねぇ、先輩じゃあるまいし」
「って、ちょっと泰成さん?」
「何か?」
そのまま始まった目の前の夫婦漫才は無視して、とにかく今日の行動を思い出してみる。
朝食はいつものように一緒にとった。その時の様子も、いつも通り。
今年のクリスマスは土日だと喜んでいたのに、突然の休日出勤になって、当然少し残念がっていたけど、その分夜一緒に過ごすことを拓弥も楽しみにしていた。
行ってらっしゃいと見送られて・・・次に会ったときには追い出された。
その間に拓弥とは何の接触もないのだから、何が原因か本当に分からない。
もし俺が原因でないのだとしたら・・・
「昔っから拓弥が変な行動起こすときは、大体お前が妙なことを吹き込んでんだよな?」
睨みつけると、きょとんとした顔をされる。
まさか矛先が自分に向くとは思っていなかったのだろう。何を言われたのかも理解していないような顔をしている。
「・・・は?」
「素直に吐け。今度は何した!?」
「ちょっと待て。俺は何もしてねぇよ!」
「嘘つけ!」
「嘘じゃねぇって!マジで!!」
必死に弁明する誠一に、本当に何もしていないのかとも思えてくる。
素直に認めるには、今までの誠一の行いからは難しいけれど。
「じゃあ本当に心当たりはないんだな?」
激しく首を縦に振る誠一を、溜め息とともに解放してやる。
「宮崎は?」
「今日のバイトは一緒でしたが、その時は特に変わった様子は見られませんでしたよ?」
首を傾げる宮崎に、今度こそ本当に分からなくなる。
「俺が何したってんだよ・・・」
結局、理由も分からぬまま。
呟きに答えてくれる人は、誰もいなかった。







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05.12.24




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