聖なる夜の一騒動 (後) |
一方、その頃の拓弥は、ダイニングテーブルに頭をあずけて、時計と睨めっこしていた。 「・・・帰ってこないな」 追い出したのは自分だけど、帰ってきてくれないのも寂しい。 勝手だとは思うけど、一人の夜は恭平に避けられていた頃を思い出してしまうのだ。 「恭ちゃん、怒ったかな・・・」 帰ってきて早々の締め出し。 怒っても仕方のない仕打ちだけど。 「でも、恭ちゃんが悪いんだもん・・・」 呟いたら、また思い出してしまう。 バイトが終わって、まだ早い時間だったからそのまま電車に乗って買い物に出た。 そして本当に偶然、道の向こうに恭平を見かけたのだ。 同時に、その横で親しげに歩く女性の姿にも気付いてしまった。 一緒に店を覗いては楽しそうに笑って、そのまま中に入っていった。 恭平は拓弥に気付かず、拓弥もまた話しかけることも出来ずに二人を見送った。 こんなドラマみたいなことあるんだなんて呆然と思って。 仕事関係だと思っても気になって、余計なことまで考えてしまう。 恭ちゃんが帰ったら詳しく聞こう、そしたらこのモヤモヤもはれるはず。 そう思って待っていたのに、今日に限って帰りが遅くて連絡もなくて。 玄関が開いた瞬間に鼻についた甘い香りに、気が付いたら怒鳴っていた。 「やっぱり恭ちゃん、女の人のが良いのかなぁ・・・」 そんなことないって思いたいけれど、一度生まれた不安は簡単には消えてくれない。 「似合ってたもんなぁ・・・」 悔しいけれど、見た目はすごいお似合いの二人だった。 よりによってクリスマスイブ。恋人同士だと思う方が自然なほどに。 「恭ちゃんのバカ・・・」 二人で過ごすクリスマス、とても楽しみにしていたのに。 思わず涙ぐんだ時、静かな部屋に携帯の着信音が響き渡る。 恭平かと思って慌てて手を伸ばせば、表示は誠一からの電話であることを示していた。 「もしもし?」 『拓坊?お前、恭平に何されたの?』 「え?」 『恭平のヤツが人んち突然上がり込んでよー。拓弥に嫌われたってもウザイくらいにうるさいんだよ。つぅか邪魔なんで、引き取ってくれる?』 「えっと、恭ちゃん、誠一さんところにいるの?」 『あいつが何したんだか知らないけどさ、後で愚痴でも何でも聞いてやるから、とにかく今日はさっさと引き取って。 あと5分もすれば帰ると思うから。いいか、とにかく部屋には入れて話し合えよ!』 「ちょっ、誠一さん!?」 一方的に告げられて、電話は早々に切れてしまった。 話しあえと言われたって、何をどうしろと言うのだろうか。 ツーツーという音だけが聞こえる携帯を握り締めたまま、しばしフリーズ。 次に動かしたのは、響くチャイムの音だった。 「・・・おかえりなさい」 チャイムを押してからしばらくして、チェーンが外される音と出迎えてくれる声が聞こえてくる。 開かれたドアからそっと表情を覗き見れば、気まずそうにはしているが怒り見えず、思わず胸を撫で下ろす。 「拓弥の好きなケーキ買ってきたんだけど・・・食べるか?」 無言のままダイニングに進み、恐る恐る訊いてみれば小さく頷かれる。 そしてまた沈黙。 このまま何事もなかったようにとは・・・どうやらいかないらしい。 「何があったの?」 「・・・っ」 気付かれないように溜め息をついてから、思い切って訊いてみる。 「拓弥が何怒ってるのか分からないと、謝ることもできないんだけど?」 「・・・て、いいの?」 「へ?」 「彼女のところに行かなくていいの?」 「彼女って・・・何言ってんだ?」 「隠したって俺知ってんだからな!今日、見たんだ。恭ちゃんが女の人と楽しそうに買い物してんの。 なんだよ、仕事だって言ってたのに・・・っ」 そのまま泣き出してしまう拓弥に、ただ呆然とするしかできなくて。 拓弥が言っているのが、今日の夕方の話だと理解するまでに時間がかかってしまった。 「拓弥、あれは・・・」 「聞きたくないっ」 「誤解だ、とにかく話を聞け」 耳をふさいで首を振る拓弥の手をそっと下ろして、気を静めるようにゆっくりと説明する。 「あの人はただの仕事関係の人で、彼氏にプレゼント買ってる時間がなかったって言うから、会社に戻る途中にちょっと寄っただけで」 「・・・でも、恭ちゃん、楽しそうだった」 「今夜の予定聞かれたら、拓弥の顔が浮かんだだけだよ。どうやって過ごそうか、俺だって楽しみにしてたんだから」 必死な自分が少し悲しいが、誤解が解けるならいくらでも説明してやる。 どれだけ土日のクリスマスを楽しみにしてたと思ってるんだと、有難くない偶然を恨む。 「・・・ホント、に?」 しばらくして、まだ不信げに訊かれるのに、大きく頷く。 「どんな美人が迫ってきても、俺にとっては誰よりも拓弥が一番だ」 きっぱりと言い切れば、一瞬固まった拓弥の瞳から再び涙が溢れ出した。 「・・・ごめんなさい。俺、恭ちゃんのこと、信じてるのに・・・」 そのまましゃくり上げる姿に、とりあえず誤解が解けたことに息を吐く。 そして、そっと引き寄せれば、ほとんど抵抗なく腕の中に納まった。 「明日は一日中休みだから、一緒に買い物行こうな。プレゼントに何が欲しいか決めとけよ」 「・・・うんっ」 結局楽しみにしていたイブの夜は、もう終わりに近い時間だけれど。 明日は休みで、拓弥はようやく笑顔を見せてくれて。 ・・・・・・聖なる夜は、まだまだこれからが本番だ。 メリークリスマス・・・一日出遅れましたが、気分はまだクリスマスということで。<待て 副題は、「恭平と拓弥の痴話喧嘩」、メインは「恭平、誠一の邪魔をする」でお送りしました(笑) ありがちな話ですが、一度書いてみたかったもので。時間があればもっと細かく書きたかった・・・ちょっと不完全燃焼。 しかし、相変わらず恭平がへたれですね。はたして大人の余裕を見せる日がくるのか? 正直、クリスマスはこじつけな話でしたが(苦笑)楽しんでいただけたら幸いですv ・・・ちなみに、邪魔された誠一たちの様子が一番気になってます(笑) |