004  さくら



部屋に駆け込んできた晴日から熱烈な誘いを受けたのは、帰宅したのとほぼ同時だった。
「十夜!花見行こうぜ、花見!」
「別に構わないけど、晴日もう行ってきたんじゃなかったっけ?」
晴日の花見は、毎年近所にある(といっても晴日の前の家のだが)川沿いの桜を自転車こぎながら見るのが恒例になっている。
今年は朝子ちゃんにも石田にもフラれたと一人で出掛けていったのは記憶に新しい。
「行ったけど、今度はこの前とは違うとこだから良いんだよ」
「今からだと暗いよ?」
「桜は昼間だけじゃなくて夜も咲いてる!」
つまりは夜桜と洒落込みたいということだろう。
正直そんなに桜は好きじゃないのだが、目を輝かせて花見と騒いでいる晴日を断るほどでもなく、結局引きずられるように家を出たのだった。


「へー、凄いね」
「だろ!?この間見かけてさ、花が咲いたら絶対見にこようと思ってたんだ」
家の裏手にある丘とも言えない小さな山。
この辺りでは桜の名所になっている山だが、その中でも花見スポットとは真逆に位置するところに、一本だけ大きな桜の木が立っていた。
「ひっそりと立ってるくせに堂々としててさ、何か格好良いよな!」
周りに桜は見当たらず、奥の方で夜桜見物用のライトが光っているのがぼんやりと見え、それがまたより桜を引き立てている。
そのくせ、少し視線をそらせば木々が作った闇が広がり、少し恐ろしく感じられるくらいだ。
風に揺られる様は、まるで闇の中へおいでと導いているようで・・・

「なに?どうしたの晴日」
「いや、何か・・・このままお前消えちゃいそうな気がしたから」
ふいに掴まれた手の先を見れば、自分の行動に驚いたような顔をしている晴日がいて。
相変わらず、人のことには敏感なんだから。
何やってんだろ俺、と慌てて離そうとする手を、逆に引っ張って身体ごと抱え込んでしまう。

「そうだね、ここなら人気もないし。晴日からのお誘いじゃ断れないな」
「はっ?・・・っ違うぞ、俺はそんなつもりじゃ!って離せ、バカ止めろっ」

大丈夫、晴日がいればもう闇になんて誘われることはないから。
必死で抵抗する晴日を抑え込みながら、近くに広がる闇に舌を出してやった。



またも桜話。春は、ぼんやりとしているせいか、妄想が広がります(笑)

07.04.05

    


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