眠 り 姫






俺の恋人はとにかくよく眠る。
いつも夜9時を過ぎれば眠そうな顔をするし、布団に入ってしばらくすると気が付いた時には寝息を立てている。
今だって、俺がトイレに行った少しの間で完全に眠りについているのだ。
「麻斗?俺が離れてから1分もたってないんだけど」
呟いてみたところで声は届いてないだろう。
麻斗が可愛いからと買ってきたイルカの抱き枕を抱えて、気持ち良さそうに寝息を立てている。
「ホントお子様だよな」
以前本人にそう言ったら、無茶苦茶な理屈で反論されたけれど。
曰く、「智の布団からはα波が出てるんだよ。だから寝ちゃうのは俺のせいじゃない!」
その責任転嫁とこの姿を見たら、ますます子どもとしか思えないけれど、それは言わないでいる。
俺としても麻斗の寝顔を見てるのは嫌いじゃないし、むしろ癒されたりもしてるんだけど・・・毎回寝られてても残された身としてはつまらない。
しかも実家暮らしの麻斗は、大抵日付が変わる頃には帰っていく。
門限みたいな厳しいものではないらしいが、長年の習慣というやつで無断外泊はしない。
女の子じゃあるまいしと思うけど、年の離れた兄貴に溺愛されていると言うから、無理はないのかもしれない。
だからいつも眠ってしまった麻斗をギリギリの時間には起こしてやるのだが、今日は部屋にきてから1時間もたっていない。
すでに10時近い今の時間を考えると、このままじゃほとんど寝顔だけで終っちゃう可能性が高いわけで。
「・・・そろそろ起きてくれないと、襲っちゃうよ?」
言ってほっぺたを軽くつねってみるが、少し眉をひそめただけで起きる気配は全くない。
面白いので、色々とくすぐったりキスしてみたりするが・・・少し声が漏れるだけでやっぱり起きる気配はない。
「お前なぁ・・・」
ここまで起きないと、面白いを通り越して悔しくなってくる。
「・・・ムカついたから嫌がらせしちゃろ」
とりあえず麻斗の隣を占領してるイルカを放り出して、空いたスペースに滑り込む。
抱き枕が急に消えたため一瞬何かを探す動きをするが、その手が俺を捕えるとそのまま抱きついてくる。
そんな一連の様子を眺めて思わず笑ってから、すぅっと息を吸い込んだ。
「麻斗、起きろっ」
わざと切羽詰まった声を出して、思いきり麻斗の体を揺さぶる。
「んー・・・」
「麻斗、時間やばいって、起きろ!」
「時間?・・・今、何時?」
ようやく目が覚めたらしい麻斗はまだ寝惚けているらしく、俺に抱きついたまま再び目をつむる。
ここまでは予想通り。後は、とっておきの一言を・・・

「もう1時過ぎだよ!」

「・・・え?」
「悪い、俺も寝ちゃったらしくてさ。今さっき目が覚めて時計見たらこんな時間で・・・」
「嘘っ、今日は何も連絡してないのに!」
ガバッと起き上がり、かなり慌てて携帯を探す。
しばらくして布団の脇に転がっていた携帯を見つけるとすごい勢いで拾いあげ、時間を確認する。
「・・・智?」
表示されている時間は、21:53。
状況が掴めないらしい麻斗は呆然と携帯を見て、それからしばらくして振り向き、叫ぶ。
「騙したなっ!?」
怒りからか恥ずかしさからか、たぶん後者だろうけど、顔を赤くした麻斗はひたすら酷いと連呼する。
その様子がおかしくて思わず吹き出すと、今度は頬を膨らませる。
これはそろそろ謝らないと本気でへそを曲げられる。
「悪い悪い。悪気はなかったんだけど」
「嘘だ」
「ホントホント。そんなにはなかったよ」
つい正直に言ってしまえば、ぷぅっと頬を膨らます。
「やっぱり少しはあったんじゃん。酷いよ、すごい焦ってまだ心臓バクバクいってるんだよ」
事実、相当驚いたのだろう。
麻斗からはもう眠そうな気配は全く感じられない。
それが狙いだったわけだから、してやったりという気分だが。
「だからごめんって。でも麻斗も悪いんだぞ?」
「何で!?」
「俺を放っておいて、一人で寝ちゃうから」
恨みがましく言えば、うっと詰まる。
「だって仕方ないじゃん、気がついたら寝てるんだもん・・・」
言い訳しながらもその声はかなり小さく、麻斗も悪いと思っているのだろう。
まったく可愛いったらない。
「寝顔見るのも好きだけどね、俺としては話す方がもっと楽しいんだよ」
「うん、ごめん・・・」
「で、どうせ寝るなら一緒が良いんだよね」
言ってそのまま小さくなっている麻斗を抱き締めれば、そっと背中に腕が回る。
「・・・今日はもう時間ないからダメだよ?」
言葉に含まれた意味が分かったのか、さりげなく釘をさされる。
予想はしていたのにちょっとだけ悲しくなって、でもやっぱり反応があるのは良いなんて思ったりして。
軽いキスをして、「お姫様を起こすのはやっぱりこれだよな」と笑ってみせる。
「俺はお姫様なんかじゃないもん」
そういいながらも抵抗は全くなく、俺は調子に乗って抱きしめたままもう一度キスをした。


「・・・で、結局こうなるわけね」
起こしてから30分ちょっと。
腕の中で、麻斗は再び小さく寝息をたてている。
どうやらこの眠り姫を起こすには、童話の王子さまより難しいようだ。







05.12.11




   3万ヒットありがとうございます!
   2万のときは何もしなかったくせに、何だこの中途半端さは!?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、
   ポンと話が浮かんだので勝手に記念小説にしてみました(笑)
   相変わらず、智の性格が掴めません。が、何にせよこの二人はいつも幸せそうなので好きですv





top >>  novel top >>