in bygone days (4)





自覚してからの俺は、どうしようもないほど最低だった。
何気なく話す、俺の知らない話にイライラして。
風呂上り、上半身裸でうろつく姿に欲情しては、目を逸らす。
今まで気にもならなかったちょっとしたことに、自分の余裕のなさを痛感する。
いつまで続くのか、いつまで続ければ良いのか分からない、迷宮。
拓弥の側にいることが辛いことも、拓弥を避けることも、初めてのことだった。




「恭ちゃん、まだ起きてる?」
「ん?ああ、起きてるよ」
言ってすぐに後悔する。
つい今までの癖で、無意識に招き入れてしまった。
この間の件から、できるだけ側に寄らないようにしていたのに、これでは意味がない。
だが、嬉しそうに部屋に入ってくる拓弥に、今更出ていけとは言えない。
「どうした?」
「えっと・・・恭ちゃん、最近疲れてる?」
「何で?」
「だって、最近の恭ちゃん怖い顔してるし・・・」
それに、あまり見てくれない・・・。
少し不貞腐れて呟くのに、罪悪感でちくりと胸が痛む。
だけど、隠しとおさなければならない。
「そうだな、ちょっと忙しいから。心配かけたか?ごめんな」
「ううん、それならいいんだ」
さらりと嘘をつけば、ホッとした様子で笑う。
それから、しばらくはいつものようにバイトや学校の話をして、それに頷く形になる。

「ねー、恭ちゃん。俺たちって、家族みたいなもんだよね?」
「あ?」
「だってさ、恭ちゃんは俺の保護者代わりなんだろ?だったら俺たち、家族みたいなもんじゃん!」
「・・・・・・」
「家族だったらさー、いつまでも一緒にいられるよなっ!」
保護者代わり。
家族みたいなもの。
確かに、その通りだ。俺にとっての拓弥は、ずっと弟だったのだから。
拓弥が、誰よりも「家族」に憧れていることは知っている。
だから、拓弥が笑って告げることは分からなくはない。
最近の俺の態度が、拓弥を不安にさせていたことも分かっている。
だけど、その一言が痛くて。
惚れてる身からすれば、この立場がいつまで持つか分からなくて・・・
また、迷宮に迷い込む。

「俺がお前の面倒を見るのは、お前が高校を卒業するまでだ」

「そうだな」と笑うはずが、気がついたら違うセリフが出ていた。
それも、自分でも驚くほど、冷たい声で。
告げたすぐ後、拓弥の笑顔は凍り、一瞬で泣きそうに歪む。
言葉を失い、走って部屋を出て行く拓弥の後姿を見ながら、一人溜息をつく。
拓弥が高校を出るまで・・・後、2年半。
それまでは、「兄」を続けていく。
泣かせることになっても、それでも嫌われるよりは良いから・・・








「・・・馬鹿だったよな、俺も」
あれから、1年。
大学最後の年はひたすら逃げ回り、就職してからは仕事を理由に家にも寄り付かなくなった。
散々泣かせて、それでも想いは募っていって。
嫌われるよりはマシだと自分で思ったくせに、泣かれることが辛くて、どうしようもないほど一人でぐるぐる回って。
誠一と宮崎に後押しされ、我慢の限界だった俺が想いを告げたのは、つい最近のこと。

「何が馬鹿だったの?」
「起きたのか?」
さっきまで隣で幸せそうな寝息を立てていた拓弥が、ひょっこりと顔を出して俺を見ている。
そして、もう一度何がと訊かれて、苦笑しながら答える。
「1年前の俺。自分勝手で、いっぱい拓弥のこと傷つけたなと思ってさ。今更だけど、本当に悪かった」
謝れば、一瞬驚いた顔をして、それからふわりと笑って首を振る。
「離れていた時期があったから、俺も恭ちゃんのこと一人の人として好きだって気がついたんだもん。だから、俺たちには必要な時間だったんだよ」
「・・・そうかもな」

たくさん傷つけて、たくさん泣かして。
それでも今、隣でこうして笑ってくれる、愛しい存在。
抱き寄せて、軽く頭を撫でれば、また嬉しそうに笑う。

長い時間を一緒に過ごして、一度は間違った想いで離れたけれど。
今度は間違えない。決して。
そんな過去への懺悔と未来への誓いを込めて、拓弥に優しくキスをした。







END






05.07.27





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