小さな賭け








「・・・今日も、なしか」
手の中にある小さなディスプレイをじっと見つめながら、麻斗は一人呟く。

あと5分で今日が終わる。
そうすると・・・3日が過ぎたことになる。

「・・・智のバカ・・・」

誰に聞かせるわけでもなく言ってから、枕へと顔をうずめた。













俺、溝口麻斗が葉山智と付き合い始めたのは、今から約1年前。
智は大学のサークルの1年先輩で、初めは存在感もなくて殆ど話もしなかったけど。
何故だかいつも姿を探しちゃうし、見てると飽きなくて。
気が付いたら、好きになってた。

それから少しずつ話す機会も増えていって、一緒に遊びに行ったときに冗談交じりに「付き合って」って告白して。
智もいつもの冗談の延長だって思ったのか初めは笑ってただけなのに、気が付いたら付き合うことになってた。
そんな本当に付き合ってるのか分からない始まりだったけど、俺は凄く嬉しくて舞い上がって。
学年も違うし、キャンパスも違うようになっちゃったから、どうしても時間が合わなかったりもしたけど、それでも毎日が幸せで。




だけど、最近になって思う。
俺だけが、智のこと好きなんじゃないかって。

・・・そんなことはないって、1年付き合ってきて分かってるんだけど。
一度生まれた不安は、そう簡単には消えてくれない。












「・・・こないかなぁ」

ここ数日、暇さえあれば携帯を取り出して眺めてる。
着信がないんだから、メールがきてるわけはないのに、それでも期待してしまう。
さすがにセンター問い合わせまではしてないけど・・・そろそろ限界が近い。

「もう、俺からしちゃおうかな・・・」

メールの新規作成を開いては、思い返して何度も消す。
そう、これは賭けだ。

賭けの内容は、いたって単純。
智からメールがくるかどうか、ただそれだけ。


智は自分から電話やメールをする方じゃない。
俺からのメールには短い文ながらも律儀に返してくれるけど、自分から送ってくることなんて滅多にない。
理由は簡単。面倒だから。
まして今は、就職活動で忙しい時期だという。
去年の10月くらいから、会う時間も少しずつ減ってきた。
4月で大学3年の俺はまだ就職もどこか遠い感じで、やることといったらバイトくらいなんだけど、智は違う。
来年度は智は大学4年。・・・1つしか年は違わないのに、なんか大人って感じ。

それでもきっと俺が会いたいって言ったら、すぐにどうにかして時間を作ってくれると思うけど・・・
そこまで我が侭も言えないし、負担になりたいわけじゃない。
だからこの機会を使って、自分の中で賭けをしたのだ。

俺から連絡しなかったら、智から連絡してくれるかどうか。
来れば、少なからず智は俺のことを思ってくれていると言うことで。


「来なかったら、それでもう終わりってことかなぁ・・・」

自分で言って、悲しくなる。
ありえないとは言い切れないし・・・


「・・・っ、」

本気で泣きそうになったその時、短い着信音。
智からかかってきたときにだけ鳴る着メロに、慌てて携帯を開く。

大学の友人や、バイト先の人などとファルダ分けされている中で、唯一名前のついていないフォルダが点滅している。
まぎれもなく、智からのメールと言うことだ。

その点滅を見ながら、逸る気持ちを抑えて受信したばかりのメールを開いた。


今度の土曜日、会える?

たった一文。
なのに、顔がにやけるのを止めることは出来なかった。










智からメールを貰った2日後。待ちに待った土曜日。
実際に会うのは10日ぶりで、久々に見る智の姿に柄にもなくドキドキした。

それを正直に告げたら、笑われたけど。

智が傍にいる。
それだけで、今までの不安が一気に飛んでいった。


俺がした賭けの話をしたら、智はなんて言うかな?
呆れるか、馬鹿にするか。
それとも勝手に人の気持ちを試すなって怒るか。

何にしろ、智からのお誘いメールが思わず保護してしまおうか考えてしまうほど嬉しかったってこと。

それが伝わってくれれば、いいな。


「あのね、智・・・」


ほんの小さな賭け。
それも自分勝手に始めたもの。

だけどその勝利で得たものは、思いがけず大きなものとなった。













                                    04.10.28 



 前ジャンルでパラレルとして書いたものを加筆修正したものです。
 何だか結構気に入ってたので、そのまま移行。キャラの性格は全然違います。
 この二人は、のんびりカップルと名付けてます(笑)


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