十夜と晴日の場合





「義父さん、母さん、おめでとう!」
「おめでとう、1周年」
「ふふ、ありがとう」
母さんと義父さんの結婚記念日に、家族全員でお祝いして。
久しぶりの、家族全員での夕飯。
「これから、どんなに忙しくてもこの日だけは家族で過ごしたいな」
「そうね。みんなが独立するまでは、そうしたいわね」
そんな義父さんの言葉に、みんなが頷いて。
十夜だけが、「じゃあすぐに独立してみせるよ」だなんて捻くれてみせた。



「義父さんと母さん、嬉しそうだったなー」
勢いよくベッドに横になり、先ほどの両親の様子を思い浮かべる。
お腹いっぱい夕飯を食べ、宿題があるからと朝子が部屋に戻ったのをきっかけにささやかな宴はお開きになった。
今頃は、二人で改めて乾杯でもしているのではないだろうか。
台所にワインが置いてあったのを、見逃さなかったから。
「まあ好き同士で結婚して、その日を子どもたちに祝福されて……やっぱり嬉しいものなんじゃない?」
「それをぶち壊すような発言したくせに」
ちゃっかり部屋にまでついてきた十夜が、ベッドの脇に座って言う。
前と比べて、模範のような「良い子」ではなくなった代わりに、十夜は少し捻くれた。
義父さんは、兄弟が出来ると違うなと、別に悲しむわけでもなくそれを受け入れて。
俺は俺で、これが十夜の本当の姿なのかなと思うと、ちょっと嬉しくなっていた。
……まあ、ああいう時に水を差したり、俺に対して苛めてくるのは、歓迎しないけれど。
「でもさ、いいよな。こういう日って」
「そう?」
「だってさ、今日は二人の結婚記念日なわけだけどさ、俺まで何か嬉しいんだ。二人の結婚があったから、家族が増えたんだし」
今までに不満があったわけじゃない。
だけど、こうして新しい家族ができて、みんなでそれを祝福して。
こんな幸せなことはないんじゃないだろうか。
「十夜だって、少しはそう思うだろ?」
いつの間にかベッドの脇に座っている十夜に、上半身を起こしてから訊いてみる。
すると、「そうだね」と肯定されて、また嬉しくなってくる。
「でもね、俺にとっては二人の結婚よりも意味がある日かな」
「何で?」
「だって、晴日と家族になった日だからね。俺は父さんの再婚より、そっちの方が重要なことだったから」
そう笑う十夜の顔は、からかってるわけではなさそうで。
……ちょっと、恥ずかしくなってくる。
「か、母さんたちが結婚したから、家族になったんだろ。だから結婚が意味あるんだよ」
「もちろん、ないとは言わないけどさ。晴日と暮らし始めた日、っていう方が。ね?」
そのまま近づいてくる口唇に、思わず手で止めてしまう。
「……何してるの?」
「や、だって…ほら、今日は家族記念日なわけで…それで、兄弟でこういうことするのは、ちょっと……」
「いいじゃん。俺と晴日は兄弟である以上に、恋人なんだから。二人の記念を祝して」
「何の記念でもないだろっ!?第一、今日はみんないるんだから、絶対ダメっ!」
力いっぱい押しのければ、不満そうにしながらも身体を起こす。
「キスくらい、いいじゃない?」
「そういってお前は止まらないから、嫌だ」
「途中から晴日の方がのってくるくせに……」
ぶつぶつ文句を言ってる十夜を軽く小突いて黙らせて、俺は再びベッドに仰向けになる。
視線だけ少しずらせば、未だに不満げな表情が見える。
以前に比べて、たくさんの表情をみせてくれるようになったな、なんてふいに思う。
それがかなり嬉しいってこと……いつか伝えられたら、いいな。

「なあ、十夜。やっぱり、俺にとってお前は大事な家族だよ」
「何、突然?」
声に少し棘が含まれてるのに、誤解されたかと慌てて訂正する。
「や、違くて。お前のことは、その……ちゃんと好き、だけど。でも、それ以上にやっぱり大事な家族なんだ。 だから、やっぱり今日は俺たちにとっても大切な日だと思う」
「……そうだね」
同意してくれたことに、嬉しくて笑ってしまう。
両親の出会いがあったから、俺たちも出会えたんだなんて思ったら、何だか凄いことのように思えてきて。
やっぱり今日は特別な日だと、祝福の気持ちを込めながら、目を閉じた。







05.10.31




   『家族記念日』って言葉が、ちょっと気に入ってます(笑)
   晴日から十夜への気持ちを…と思ったのですが、何だか違う感じに。あれぇ?
   まあ、晴日は家族への想いが強い子なので、こんな感じになりました。
   きっと十夜は、まだまだ振り回されるんだと思います。義弟として。可哀想に(笑)<他人事





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