決戦はホワイトデー |
中学からの友人は、やたらともてるタイプではあった。 告白されては断ることなく付き合って、1ヶ月もしないうちに振られるのがいつものパターン。 そんなのは彼女たちにとってもあいつにとっても良くないことだとは思っても、止めることは出来なかった。 そんな友人に、本気で好きな人ができたと気が付いたのは高校に入ってから。 相手が男と知ったときは驚きもしたが、それでも苦しんでる姿はみたくないと、そう思ったのだ。 思ったのだが・・・ 「・・・いい加減にしてくれない?」 「んだよ、渚。俺は本気で悩んでんだ。邪魔すんな」 「邪魔なのはあんたの方。さっさとノルマこなしてきなさいよ、鬱陶しい」 しばらくゴタゴタしたようだが、想いが通じあったのが今から5ヶ月前。 それ以来、恋愛馬鹿に拍車がかかってきてる。 今だって、来るホワイトデーに何を返そうか悩んで、一人ノルマを達成できていない状況だ。 部活だけは真面目にやっていたのに、恋愛というのは恐ろしい。 「秋良、先行ってるからね。あんたも相田君待たせてるんでしょ?」 「あ、やべっ」 ようやく本気を出してダッシュを始める姿に呆れるしか出来ない。 それでもサボらないあたり、真面目なのかもしれないけど・・・やっぱり恋の力は恐ろしい。 そんなことを思いながら、一人必死でダッシュを繰り返す秋良を横目に、部室へと向かった。 「あ、いたいた」 「大塚さん。どうしたの?」 着替えたあと教室に向かえば、予想通り一人本を読んでる姿があった。 声をかければ、こちらを見てふわりと笑いかけてくる。 相田和宏、秋良の最愛の人であり恋人でもある少年。 同じクラスだが本好きで図書委員という、どちらかといえば目立たないタイプで、あまり話したことはなかった。 何故か秋良と仲が良いとは思っていたが、それだけの存在。 「秋良のこと待ってるかなと思って。あいつ、もう少しかかると思うよ」 「あ、わざわざ伝えにきてくれたの?ありがとう」 「それと秋良に対する嫌がらせをかねてね」 先に来て話してたと知れば、悔しがること間違いない。 その様子が目に浮かんで、思わず笑ってしまう。 相田くんを見ればやはり想像したのか苦笑している。 「大塚さんはホントに柘植と仲良いんだね」 「ん?ただの腐れ縁よ」 言い切れば、また笑顔を見せる。 確かに目立つタイプではないが、実際に話してみれば素直で可愛い性格。 秋良が好きになるのも仕方ないと思う。 っていうか、秋良にはもったいない。 「ねえ、相田くんは何であんな奴と付き合う気になったの?」 「えっ、何で?」 「いや、ちょっと興味と言うか疑問と言うか・・・相田くんならもっといい人見付けられそうなのになって」 秋良が悪いというわけではないんだけど、と付け足せば、照れくさそうにしばし考えている。 「えっと、うまく言えないんだけど。柘植といるとね、あったかいんだ」 「暖かい?」 「うん。他にも優しいとことか格好よいとことか好きなところはいっぱいあるんだけど、一番はそれかな。一緒にいると心がね、あったかいんだ」 「・・・なるほど」 頬をうっすら赤く染めて話す姿は男ながら可愛い。 秋良が惚れこむのも無理はない。 まわりが気が付かないだけで、秋良よりもよっぽど魅力的だ。 「あ、大塚さん。今の話、柘植には言わないでね」 「もちろん」 言われなくても、みすみす喜ばすようなことは言うつもりはない。 そんな私の気持ちなんて気付くわけもなく、相田くんはホッと息をついている。 「あ、そうだ。秋良がホワイトデー何あげようか悩んでたよ。せっかくだし高いもんでもねだりなよ」 「あ、そうそう。僕も聞こうと思ってたんだ。大塚さんは何が欲しい?」 「え?」 「高校生にお返しで飴も変かなって。それに大塚さんにはいつもお世話になってるしね」 そう言われて笑みを向けられるのに、呆然としたままつられて笑ってしまう。 なんて答えようかと考える前に、扉が開くとともに大声で乱入者が現れる。 「渚!てめぇ何でここにいるんだよ!?」 「放課後、自分のクラスにいて何が悪いの?」 「和宏と二人、ってことが悪い!」 突然入ってきてギャーギャーうるさい秋良を睨みつけて、相田くんに耳打ちする。 「さっきのお返しだけど。今度また秋良との話を聞かせてくれればいいよ。悪口も一緒にね」 言えば、一瞬驚いた表情をして、それから笑って頷いてみせる。 それにこちらも笑って返せば、また耳元で大声が響き渡る。 「内緒話をするな!てか、和宏に近づくな!」 「煩いわね、男のヤキモチはみっともないわよ、秋良」 「誰がヤキモチだっ!」 「ヤキモチじゃないなら嫉妬かしら?余裕ない男は大変ね」 「ヤキモチも嫉妬も同じ意味だろぉが!」 「あ、あの、二人ともその辺で・・・」 「和宏っ!お前も渚に甘い顔すんなっ!」 仲裁に入った相田君に、今度は必死に何かを訴えている。 困ったような顔の相田君を見ているのも楽しいけれど、これ以上秋良の機嫌を損ねると相田君が可哀想なので、ここら辺で退散することにする。 相田君にだけ分かるように小さく手を振って教室を出れば、「うわっ」と小さな悲鳴が後ろから聞こえてくる。 どうせ我慢しきれなくなった秋良が抱きついたかしたのだろう。 頑張れ相田君、と心の中で呟いて、その場を離れた。 翌日、やっぱり気になって結局何をプレゼントしたのかを秋良に訊けば、自信たっぷりに即答される。 「決まってるだろ。俺の愛だよ、愛」 「ああ、それは可哀想に、相田君・・・」 その後、相田君を捕まえて同じことを訊いてみれば、これまた恥ずかしそうに耳打ちしてくる。 「ご飯ごちそうしてくれて、そのあと丘の展望台行って・・・」 「・・・なんてお決まりな」 最後までは話してくれなかったけれど、きっと秋良のことだからベタな愛の言葉でも囁いてキスの一つでも奪ったのだろう。 何か言ってやりたかったが、それでも相田君が幸せそうに笑っていたので、何も言わないでおく。 中学からのやたらともてる友人は、今じゃ恋愛バカに成り下がって。 それでも、この二人はこれからも見守っていきたいなと、ふと思ったのだった。 ・・・ま、面白いしね。 バレンタインデーに引き続き、秋良×和宏のカップルのお話。 今回も調子に乗って、渚ちゃんをメインに。ってか、渚ちゃん視点のお話です。 ホワイトデー話なのに、いいとこまるでなしですよ、秋良ってば(笑) 題名の「決戦」は渚VS秋良で。というか、秋良が一人で戦ってる感じですが(笑) 書いてて楽しい渚ちゃん。ここがBLサイトということを忘れそうです。 そろそろ秋良にも良い目を見させてあげないとな、とちょっと思い始めてきました。同情?(笑) |