小さなヤキモチ。





知らなかったわけじゃない。
ただ忘れていたのだ。
俺の義弟は、ものすごくモテると言うことを。





それを目撃したのは、本当に偶然だった。
「・・・なぁ晴日。あそこにいんのってさー」
学校帰りに石田と買い物に降りた駅の前。
石田が指差す方を見ると、そこにはよく見知った姿。
「・・・十夜?」
「やっぱアレ、弟くんだよな。隣にいんの誰だ?」
「や、知らない」
十夜の横には見たこともない少年。
年は同じくらいか少し下か。遠目に見ても可愛い顔立ちをしてる。
そして、その手は不思議なほど自然に十夜の腕に絡められていて・・・
「ずいぶん仲良さそうだな・・・お前ら喧嘩でもしたの?」
石田に訊かれるのに、激しく首を振る。
喧嘩なんて・・・してないよな。
確かに、先週くらいにやるやらないで言い合ったけど、あんなんいつものことだし。
ってか、あれはテスト前に盛るあいつが悪いし。絶対!
俺は十夜と違って頭よくないんだから・・・って今はそんなことどうでも良くて。
頭を振ってからもう一度見れば、俺たちに背を向けたところで立ち止まっている。
「あ、女と合流した」
今度は明らかに年上の女性。
三人で何かを話した後、並んで歩き出す。
「声かけなくて良いの?」
「え、うん・・・」
正直十夜の交友関係なんて知らないし、あの人たちもただの知り合いなのかもしれないけど。
珍しく笑ってたな。それも得意の愛想笑いじゃなく、ホントに。
・・・俺がさせなかったから?
代わりなんていくらでもいるってこと?
「晴日ー?百面相になってるぞ?」
面白そうに言われて、ハッと我に返る。
「べ、別に良いんじゃん?あいつが誰と何してたって。俺には関係ないしぃ」
慌てて平静を装うが、不自然じゃなかっただろうか。
「へぇ?ブラコンの晴日にしては珍しい発言ですこと。まあ弟くんモテそうだし、仕方ないよなぁ?」
「っ・・・だから、俺には関係ないし!」
ニヤニヤ笑う石田に、思わず声を荒げてしまう。
石田は時々妙な態度をとるから調子が狂う。
俺と十夜の関係を義兄弟としか知らないはずなのに、もう一つの関係も知ってるような。
・・・そもそも俺と十夜の関係って何だろ?
あいつはいつも恋人だとか言うし、俺もまあ・・・好きだけど。あっちの関係もあるし。
じゃあ、恋人?
でも俺は十夜のこと、ほとんど知らないよな。
好きなもんとか趣味とか友だちとか。
・・・・・・あ、なんか腹立ってきた。
「まあせっかくだし、弟くんの交友関係でも訊いてみれば?お兄ちゃん」
明らかに石田は面白がっていると分かってはいたが、晴日はその言葉に大きく頷いた。



「・・・帰ってこないし」
石田との用事を済ませたと同時に速攻で帰ってきたのに、家についてから十夜から「遅くなるから夕飯はいらない」というメールが入ってきた。
そういうことは朝のうちに言え!と苛つきながら朝子と二人で食べて、現在時刻は9時ちょい過ぎ。
一応待ってみるも、十夜が遅いと言うときはホントに遅いから、帰るのはまだまだ先だろう。
あいつ、たまに遅いけど何やってんだろ?
「・・・今頃、誰かと二人でいたりして」
さっき一緒だった少年か、それとも女の人の方か。
そこまで考えて、また腹が立ってくる。
大体、あっちから手出してきたんじゃないか。
それで惚れちゃう俺も馬鹿みたいだけど・・・や、俺は悪くない!てか別にそんなに好きじゃないし!
誰が聞いてるわけでもないのに必死で言い訳する。
「・・・・・寝よ」
何か疲れてきたし、考えてんのもムカつくだけだし。
もはや不貞寝以外の何物でもないが、構わない。
「・・・どうせなら嫌がらせしてやる」
不適な笑みとともに、迷わず十夜の部屋へと向かった。




「・・・晴日、何やってるの?」
いつものように深夜になって、一応両親にばれないように静かに部屋に入ると、誰もいないはずの部屋に人の気配。
あえて電気をつけずにベッドに近付けば、そこには規則正しい寝息を立てている晴日がいた。
「襲ってくれってことかな?この状況は」
晴日に限って、そんな積極的なお誘いをしてくれるとは思わないけど。
ふいにベッドサイドに何か紙が置いてあるのに気付き、携帯のライトで確かめる。
そこには明らかに晴日の字で殴り書き。
『 床で寝やがれ! 』
「・・・・・・はい?」
何がしたいのか分からないが、推測するにこれは晴日流の嫌がらせなのだろう。
つまり、お前のベッド取ってやったぜ!といったところだろうか。
「でも晴日のベッドは空いてるわけだし、居間にはソファもあるしなぁ」
それに晴日を少し動かせば一緒に寝たって構わない。
微妙にズレてるとこが晴日の可愛いところだけど。
「今回は特に何もしてないと思うんだけどなぁ」
普段から晴日はよく分からないところで怒ったり拗ねたりする。
それもまた見てて飽きないところだが、本気でへそを曲げられると後々面倒だ。
気持ち良さそうに寝てるのを起こすのは忍びないが、とりあえず怒りを解かなければ先に進めない。
「晴日?」
肩をさすりながら声をかければ、小さな身じろぎをした後に、ぼんやりと目を開ける。
「んー・・・十夜?」
「うん、ただいま」
そのまま軽いキスを贈れば、ふわりと笑って・・・その直後に睨まれる。
「・・・今帰ってきたのかよ?」
「うん、ついさっき。そしたら晴日がいるんだからビックリしたよ。まあ俺は嬉しいけど」
そのままもう一度キスしようと近付けば、思いきり避けられる。
「お、俺以外のヤツとも、そういうことするくせに!」
「・・・・・・は?」
突然の激昂に、十夜も状況が掴めない。
「・・・俺には晴日だけだよ?」
とりあえず誤解を解こうと言えば、晴日が俯くのが分かる。
しかし、薄暗い部屋ではその表情を読むこともできない。
電気をつけてから話すべきだったかと今更ながらに後悔する。
「晴日?どうしたの?」
「・・・・・・今日、誰といたんだよ・・・?」
できるだけ優しく声をかければ、聞こえてきたのは小さく弱い声。
その意味をゆっくりと理解するとともに、晴日の行動の意味も分かってきた気がする。
それは、かなり自分に都合が良く、さらに嬉しいことだけれど。
「もしかして晴日・・・妬いた?」
「なっ、違うっ!俺はただ、お前に友だちがいるなら良いなって思っただけでっ!」
「ふーん?」
「だ、大体!お前が自分のこと話してくれないからっ!」
ちゃんとは見えないけど、真っ赤になって否定する晴日が可愛くて仕方ない。
素直に認めれば良いのに・・・まあ素直じゃないのが晴日だけど。
「妬いたんだ?」
「だからっ、別に俺は・・・」
「認めないと、このまま襲うよ?」
「っ・・・・・・ち、ちょっとだけ・・・って、うわっ!?」
膨れる晴日があまりにも可愛くて、思わず押し倒してキスしてしまったのは言うまでもない。
そして結局そのまま止まるはずもなく、少しの抵抗もお構いなしに晴日を組み敷いた。



「俺はちゃんと言ったのに!嘘つき!」
「だって晴日が可愛いから、つい」
一通り終えてぐったりとベッドに身体を預けながらも、晴日が予想通りの文句を言う。
だけど晴日には悪いが、そんなことは大した問題じゃない。
だって(無理矢理言わせたとはいえ)晴日が焼きもちを妬いたと自分で認めたのだから。
義兄弟、そして脅したうえでの体の関係から始まったときは、晴日がこんな風に気持ちを表してくれるとは思わなかった。
正直、今でも信じられなくて・・・だからこそ、この想いを止められない。

「・・・で、結局あれは誰だったんだよ」
「気になる?」
「っ・・・あ、兄貴としては、弟の交友関係も知っておかないとだからな!」
この期に及んで意地悪く問えば、一瞬言葉に詰まった後でそんな言い訳をする。
でもね、晴日。そんなに顔を真っ赤にして言われても、説得力はないよ?
込み上げてくる笑いを抑えることができないでいると、本気で不貞腐れたのか、晴日がそっぽを向いてしまう。
「ごめんごめん。あれは、マリコさんとその店の子。偶然会って、そのまま買い物に付き合ってあげただけだよ」
「・・・それだけ?」
「うん、それだけ。心配なら、今度会わせてあげるよ。ただし、その時は晴日のことを恋人って紹介しちゃうけどね?」
「なっ・・・もう知らねぇ!俺は寝なおすからなっ、起こすなよ!」
そうやって頭から布団を被ってしまう晴日を、背中から腕に抱いて。
「晴日だけで、浮気する元気なんて残ってないよ?」
そう囁けば、腕の中でピクリと体が跳ねるのが分かる。
また顔を真っ赤にしてるんだろうななんて思いながら、腕の力を少しだけ強めた。

・・・・・・その腕と力に少しだけ安心していたことは、晴日だけの秘密。







06.04.11



  初めてのレア番キリリクは、輪斗様より『晴日くんのヤキモチ妬きな話』でした。
  晴日は如何せん「自分は兄貴だ」って想いが強い子なので、どうヤキモチを妬いてくれるのだろうかと
  私自身も疑問に思ったのですが、書いてみたら、あっさりと普通にヤキモチ妬いてました(笑)
  前にも同じようなネタで書いたことがあるんですが・・・すみません(汗)思いつきませんでした。
  や、たまには十夜にも良い思いをさせてあげないとね♪ なんて・・・はい。

  ご期待に沿えたか不安ではありますが、輪斗さんへ捧げます。
  レア番5つ集め+リクありがとうございました!!






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