甘い時間の代償





それは、秋良の小さな思いつきから始まった。
「和宏って写真嫌い?」
「え?うーん、嫌いってほどでもないよ。苦手ではあるけど。何で?」
「や、今日避けてた気がしたからさ。昼休み」
秋良が言っているのは、今日の昼休みのこと。
クラスの女子が余ったカメラを使い切りたいと誰彼構わず撮り始めた。
入ってと頼まれては素直に応える秋良に対して、和宏は微妙に身体をずらして写るのを避けていた。
「写真って、何か変な顔で写っちゃうんだよね。だから、できるだけ写りたくなくて」
「そんなもんか?あ、じゃあさ、プリクラとかは?あれなら自分の顔見ながら撮れるじゃん」
「んー・・・撮ったことないから、よく分からないけど」
「撮ったことないって・・・一度も?」
「うん」
はっきりと答えるのに、少し考えてから秋良は手を叩く。
「よし、じゃあ今度撮ろうぜ!」
「え、でも・・・」
「折角だから、こうイベントの日がいいよな。14日のさ、放課後は空いてる?」
「う、うん」
「よし、じゃあ決まりな」
半ば強引な形ではあったが、和宏が頷くのを見て、秋良は満足げに笑った。




「・・・で、浮かれてるわけ。相変わらず単純ですこと」
和宏とのバレンタインデートが決まった翌日。
いつものように部活に励んでいると、渚が今回は何を浮かれてるわけ?と訊いてきた。
それについ正直に答えてしまうのもどうかとは思いつつも話せば、いつものように呆れられる。
「うるさいな。いいだろ、別に」
「まあね、相田君とプリクラが撮れる上に、ちゃっかりバレンタインにデートの約束まで取り付けたんからね。 浮かれるのも分からなくはないけど」
「だろ?」
渚の呆れ口調なんて気にもせず、秋良は自慢げに鼻を鳴らす。
「でもプリクラコーナーって男だけじゃ入れないはずだけど?」
渚の一言に、ピシリと秋良の動きが止まる。
「・・・何だって?」
「だから、男だけじゃプリクラは撮れないってこと。相田君はそりゃ可愛いけど、さすがに女の子には見えないし」
どうするつもり?と訊かれても、秋良は口をパクパクさせるだけで何も言えない状態である。
「・・・」
「・・・その様子じゃ知らなかったみたいね」
「差別だ・・・俺の幸せを奪う気か・・・」
「まあ条件のんでくれるなら、協力してあげないこともないけど?」
そうして半分呆けたまま呟く秋良に、渚はいつものように悪魔の微笑みを向けたのだった。







そしてバレンタイン当日の放課後。
「じゃあ行こうか、相田くん」
慌てる和宏の腕を取って、渚は上機嫌で歩き出す。
どうしたらいいのか分からない和宏は、後ろを歩く秋良に助けを求めるが、彼は一人で不貞腐れるしかできない。

渚が出した条件とは、渚も和宏と二人でプリクラを撮るというもの。
聞いたときには、また何を言い出したんだかと頭が痛くなったが、確かに和宏とプリクラを撮るには 協力を得なければならない。
そうすると、条件をのむしかないのだが・・・
「って、和宏がそんなの許すわけないだろ?」
「あら訊いてみないと分からないでしょ?ちょっと話してくるわ」
「ちょっ、待て渚!」
慌てて止める秋良を綺麗に無視して立ち去り、戻った時には了承を得たとピースまで見せてきた。
どんな話をしてきたのか分からないが・・・和宏がOKを出してしまえば文句は言えなくなる。
そして今に至るのだが・・・
「やっぱり納得いかねぇ」
ポツリと呟くが、前を歩く二人には聞こえていないようだ。
何だか凄く空しい気持ちに駆られながらも、秋良は二人の後を追った。


「いやー、いいもの撮れたわ!ありがとうね、相田くん」
「う、うん。でも大塚さん、本当にそんなのでいいの?」
「もうバッチリ!」
とにかく一刻も早く和宏と二人になりたくて、秋良は真っ先にゲーセンに向かった。
そんな気持ちを察したのか早々にプリクラを撮ったわけだが、照れる和宏に反して渚はかなりの上機嫌になっていた。
二人で楽しそうなだけでもムカツクのに、そのプリクラを見せてくれないとあって、秋良は先ほどからの不満がかなりたまっていた。
「ほら、これでもう十分だろ」
「何であんたが偉そうなのよ」
「うるさいな、用が済んだらさっさと帰れ」
「いいけど別に。でも今ここで私が帰ったら、あんたは撮れずじまいだけど?」
「くっ・・・」
「まあ、さっさとキスプリでも何でも撮ってきなさい。私はここで待ってるから」
「くっそ、人が下手に出れば。行くぞ、和宏!」
「う、うん。ごめんね、大塚さん」
二人のやり取りに先ほどからどうしたらよいのか戸惑っていた和宏を強引に引きずって、撮影ブースに入る。
本当にキスの一つでもしてやろうかと思ったが、さすがにそれは和宏が嫌がりそうなので我慢する。
ここで機嫌損ねたら、元も子もないもんな・・・
「何か、やっぱり恥ずかしいね」
とりあえず、はにかんだ可愛い笑顔のプリクラをゲットしたので、よしとする。
そんな自分が単純だと思いはするが、それも悪くはないかと一気に機嫌を良くする秋良は、やはり単純なのかもしれない。



「今日はありがとうね、相田くん。はい、これ私から」
プリクラを撮り終わると、待っていた渚が笑顔で近づいてくる。
秋良のさっさと帰れオーラを察したのか、もう帰るわよと睨みつけてから、和宏に笑顔でチョコを渡す。
「あ、ありがとう。こっちこそ何かごめんね」
「ううん、全然。じゃあ私は帰るから、頑張ってね」
「うん、ありがとう」
「あ、一応あんたにも、はい。じゃあまたね」
明かに和宏のものと差があるチョコを置いて、渚は帰っていった。
その背中を見送って、秋良は思わず溜息をつく。
「あんにゃろ・・・まあいいや。和宏、気を取り直してどっか行こうぜ」
「うん。あ、でも僕からも渡したいものがあるんだ」
「え?」
「はい、これ」
周りに人がいないのを確認してから、そっと取り出した小さな箱。
「これって・・・」
「男が用意するのも変かなって思ったんだけど、大塚さんがね、絶対喜んでくれるからって。 柘植、甘いもの好きだし・・・やっぱり変だったかな?」
受け取ったまま凝視している秋良を不安そうに見ると、少し震えてる。
「そんなことないっ!・・・すっげー嬉しい」
秋良は受け取ったチョコを抱きしめそうな勢いで、握り締めた。
「良かった、喜んでくれて。じゃ、どこか遊びに行こう?」
「おうっ!」
照れたように先を歩いていってしまう和宏を急いで追いかけながら、秋良は幸せをかみしめた。



そして、二人で楽しい時間を過ごした翌日。
「あー、でもやっぱり相田くん可愛いわ。チョコも受け取ってくれたし、本気で頑張ってみようかなぁ」
そう言って微笑む渚に、秋良は一気に恐怖を覚えたのだった。









 バレンタイン企画は、要望の多かった秋良×和宏で!
 プリクラ話はいつか書きたかったネタなので、書けて嬉しいです<自己満足
 やたらと渚ちゃんの人気が高いので、調子の乗って出したら出張りすぎました(苦笑)
 何かもう、可哀想な秋良です。・・・まあ、私も渚ちゃん大好きなんですが(笑)
 バレンタインというより、むしろ渚ちゃんメイン話でしたが楽しんでいただけたら幸いデスv




05.02.14




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